月刊バスケットボール1月号

FIBA女子バスケットボールワールドカップ2018から学ぶべきもの - 2021年夏の女子日本代表はどんなチームになるか

 東京オリンピックに向けた強化プログラムを進める女子日本代表は、5月9日に第3次合宿を終え、14日からは第4次合宿に突入する予定と聞いている(実際にこの日から実施されるかどうかの発表は13日時点ではなかった)。第3次合宿期間中の会見でホーバス トムHCは「皆すごく頑張っている。いい感じです」と仕上がりに手応えを感じている様子だったが、やはり強化試合やスカウティング等が新型コロナウイルスのパンデミックの影響で従来のようにできない中では、第3次合宿に参加した19人から最終ロスターの12人に絞る選考や、戦術の組み立てにも困難が付きまとっていることだろう。
どんな選考になるかは別として、東京オリンピックが予定通りに開催される場合の女子日本代表の目標は、金メダル獲得に定まっている。そのためにどんなポイントが抑えられるべきかを、第3次合宿期間のズーム会見取材で聞いた内容と、3年前にテネリフェ(スペイン)で開催されたFIBA女子バスケットボールワールドカップ2018(以下WC2018)のデータから考えてみたい。

 

「ターンオーバーは10本か11本くらいに抑えたい」とホーバス トムHCは今回の会見でも明確な数値目標を明らかにした(写真/©JBA)

 

ホーバス トムHCのバスケットボール

 

 ホーバスHCは第2次合宿の時点で、自らの構想について3Pショットを多用するスモールボールであることを明言していた。数字的な指標としてはチームとしての得点が80得点台。80ポゼッションのうち40%以上、あるいは30本以上3Pショットを打ち、それを40%近くの確率で成功させたいという。
今回の取材では、さらにターンオーバーとリバウンドに関する指標も聞かせてもらった。ホーバスHCの回答は「ターンオーバーは10本くらいまでは良いと思う。ウチはアグレッシブにやるから、パスもポケットパスとか狭いところを狙うので、そういうときは(ミスが出ても)しかたがない。でも、例えば24秒のバイオレーションや簡単なパスミスはなくしてほしい。10か11くらいで抑えたいです」というものだった。また、相手のターンオーバーは「どんどん取りたい」と意欲的。右ヒザ前十字靭帯断裂で離脱中の渡嘉敷来夢(ENEOSサンフラワーズ)がもしも間に合わない場合は、「インサイドを小さくして、外がアグレッシブにトラッピングしたりプレッシャーをかけて狙いたい。15か17くらいさせたいですね」と話していた。
リバウンドに関しては、「負けたくないけど、アメリカなどとイーブンになったらものすごいこと。逆にだいぶ負けたらもう大変…。だからそこをいつもより時間をかけてやっている」と話し、長身の海外勢への対応にやはり危機感を持っている様子だった。
ホーバスHCの構想に出てくる数々の数値はWC2018ではどうだったか。ポゼッションのデータはないのだが、基本的なスタッツは今もFIBA公式サイトに残っているので、女子日本代表が戦った4試合を確認してみた。

 

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FIBA 女子バスケットボールワールドカップ2018における女子日本代表の試合結果
※最終スコア右のスタッツ表記は[日本(対戦相手)]
☆グループラウンド 
日本×71-84〇スペイン 3P 6/18(8/19) リバウンド24(40) ターンオーバー19(19)
日本〇77-75×ベルギー 3P 11/35(9/21) リバウンド29(47) ターンオーバー12(15)
日本〇69-61×プエルトリコ 3P 11/36(6/19) リバウンド46(42) ターンオーバー15(15)
☆ノックアウトラウンド進出決定戦
日本×81-87〇中国 3P 12/26(9/16) リバウンド33(38) ターンオーバー11(13)

 

 3Pショット、リバウンド、ターンオーバーをアベレージで見ると以下のとおりとなる。

 

チーム得点 日本74.5 対戦相手76.8
3Pショット成功率 日本34.8%(40/115) 対戦相手42.7%(32/75)
リバウンド 日本33.0 対戦相手41.8
ターンオーバー 日本14.3 対戦相手15.5

 

 これを現在ホーバスHCが描いている構想に当てはめようと思えば、以下のことが必要になる。

 

1. 得点で6点をプラスしたい
2. 3Pショットの確率を6ポイント上げたい
3. リバウンドの8.8本差を埋めたい
4. ターンオーバーを4本減らしたい

 

ベテラン陣のコンディションも大きなカギ

 

 これらを実現できる手応えをつかめれば、世界制覇が見える位置に来たといってよいのではないかと思うが、例えば6得点を上積みすることについては想像しやすい。会見でオコエ桃仁花(富士通レッドウェーブ)は、「200cmの選手にポストプレーは通用しないと思う」と話すとともに、「外からのドライブだったり3Pショットを意識しています」と自信を見せていた。また東藤なな子(トヨタ紡織サンシャインラビッツ)は「アンダーの頃からスピードを生かした1対1を持ち味としてやってきました。世界では相手が大きくなりますが、(ドライブから)パスをさばいたり、決めきることを課題として取り組んでいます」と明るく話した。両者とも3Pショットに対する積極性も高めている。

 

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東藤なな子は「得意のドライブも生かしながら、トムさんの求める3Pショットもアピールできています」と自信を見せた(写真/©JBA)


その3Pショットの確率を6ポイント高めるということについては、もちろん非常に高いハードルではあるが、これも期待を持つことはできる。シューターを含むバックコートの人選が大いに影響しそうだが、日本のシューターにはそれだけの実力があり、その中からホーバスHCは目標達成を期待できる人選をするだろうからだ。

 有能なシューターだけをそろえても良いおぜん立てができなければ結果は出ないという考えを、ホーバスHCは「(バックコートの人選の基準は)一つのポイントではなくトータルパッケージ。ディフェンスもパスもシューティングも大事。ボールハンドリングも判断も、全部見た上でウチのオフェンスに合うかどうかです」と説明した。「ケガ(右ヒザ前十字靭帯断裂)する前の本橋(菜子=東京羽田ヴィッキーズ)は一番の3Pシューターではなかったし、一番早くもなかったけれど、判断力とか負けない気持ちがすごくあり、チームオフェンスに合っていました。町田(瑠唯=富士通レッドウェーブ)はチームで一番のパッサーでディフェンスもいいですが、3Pシューターではない。宮崎(早織=ENEOSサンフラワーズ)が速いし3Pショットの距離も長い。ドライブ&フィニッシュもできる…。そうしたものでプラスマイナスを考えて決めます」
リバウンドの8.8本差を埋めるのは、この中で最大のチャレンジのように感じる。ただ、WC2018も経験して長身プレーヤーへの対応に“免疫”があるオコエが、「ディフェンスで意識しているのはリバウンドの部分」と課題を明確にとらえ合宿に望んでいるのが頼もしい。ホーバスHCもイーブンは厳しいという見方よりも、仮にイーブンまで行かずともそれに近い数字になれば勝算があると捉えているのではないかと思う。

 

オコエ桃仁花は長身プレーヤーとの対戦に意欲を見せていた(写真/©JBA)

 

 ただし、リバウンドにしても4つ目に挙げたターンオーバーを4本減らすことにしても、心身のコンディショニングが一つのカギになる。気力を削られるような消耗戦を自分たちよりもずっと大きなプレーヤーたちを相手に毎試合40分間続けるのだ。その意味で渡嘉敷、本橋、宮澤夕貴(ENEOSサンフラワーズ)ら故障を抱えたベテランのコンディションが十分戻ってくるかどうかは、言うまでもなく重大要素だ。

 

「まずは感覚を取り戻すことから」と本橋は現状菜子を語った(写真/©JBA)


今回会見に登場した本橋は「対人以外の練習に参加できるようになり、順調に回復しています」と笑顔を見せ、「今は本当にバスケット感覚を取り戻すのが一番の課題ですし、それよりも前にコンタクトプレーもできていないので、そこを徐々に上げていきたいです」と前向きだ。しかし肩を痛めている宮澤は「できるだけ早く復帰したい」と意欲を見せる一方で、チームとの合わせが不安要素であることも吐露していた。彼女たちの復帰経過を注視しながら、最大限にタフなチーム構成が望まれる。

 

宮澤夕貴は現在のコンディション、さらにはチームとの合わせの点で不安を言葉にしていた(写真/©JBA)

 

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3Pショットに対するディフェンス面の課題

 

 あらためてWC2018のデータを見返してみて、気になる点があった。日本のディフェンスが相手に3Pショットを打たれやすかったことが明らかなのだ。

〇日本戦だけ良く入る相手の3Pショット
スペイン 大会平均33.9%(5.6/16.4) 対日本42.1%(8/19)
ベルギー 大会平均31.7%(7.3/23.2) 対日本42.9%(9/21)
プエルトリコ 大会平均15.9%(2.3/14.7) 対日本31.6%(6/19)
中国 大会平均33.7%(6.2/18.4) 対日本56.3%(9/16)

 これら4チームはいずれも、日本との試合で、それぞれの大会期間中の3P成功率よりも大幅に高い数値を記録している。
最大のファクターと考えられるのはやはり身長だ。WC2018における日本代表の平均身長は182cmで、これは上位12ヵ国中最も小柄であり、しかもそのギャップは、他の11ヵ国の平均身長190cmから8cm低かった。加えてほぼすべてのプレーヤーがワンハンド・ショットの海外勢は、いったんディップした(ボールと体を低く沈めた)後の、いわゆるトロフィーポーズからリリースにかけてのボールの位置も高くなる。そのため高さのない日本のクローズアウトやコンテストが相手のショットに対し想像以上に効果をなさない状態なのではないだろうか。この確率は低下させたいところだが、ディープスリーも含め相当広い範囲を守るペリメーターディフェンスを徹底して行うのはたやすい作業ではない。

 女子日本代表選考も大詰め。テクニック、経験、運動量、気持ちの強さ、コンディション。あらゆる要素がモノを言ってくる。

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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