月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.05.11

「やるなぁ、ルイ」 – マッチアップ相手が語る八村 塁(ウィザーズ)の実力

 

 NBAにおける2シーズン目がレギュラーシーズンの大詰めを迎えている八村 塁(ワシントン・ウィザーズ)。スターターとしてすでに欠かせない存在といっていいその活躍ぶりについて、対戦相手のコーチたちが高評価と警戒感を語るのをこれまでたびたび聞いてきた。
ラッセル・ウエストブルックという強烈におぜん立てがうまいプレーメイカーと、相手の注意を引きつけるリーグ屈指の点取り屋であるブラッドリー・ビールがチームメイトにいれば、八村にチャンスが訪れやすいというのは事実だろう。しかし、それにしても八村の安定した活躍ぶりは頼もしい。「日本人として」などとあえて形容しなくても、普通にNBAの若手プレーヤーとして「スゴい」レベルだ。
日本時間5月11日(アメリカ時間10日)に行われたアトランタ・ホークスとの一戦でも、八村の活躍は光っていた。この試合はウエストブルックが28得点、13リバウンド、21アシストという豪快な数字で、オスカー・ロバートソンを抜いてNBA歴代最多となる182回目トリプルダブルを記録したが、21アシストのうち6本は八村のフィニッシュだった。
ホークス側で八村とマッチアップしたのは206cmのパワーフォワード、ジョン・コリンズ。この日は28得点、8リバウンド、1アシスト、1スティール、2ブロックでホークスの勝利に貢献していた(最終スコアは125-124)。オフェンスではポストアップから柔らかくベビーフックを沈めるシーンあり、コーナーからの3Pショットあり、トレイ・ヤングとのツーメン・プレーでロブを受けて強烈なダンクをぶち込むシーンあり(そのプレーは『今日イチの一撃[Shot of the Game]』に選ばれた)と、うまさも強さも見せつける内容。また、ブロックのうち1本は八村のダンクに対してであり、八村にしてみれば相当苦しめられたと感じたにちがいない。

 ただ、八村の方もおとなしくしていたわけではなかった。前述のとおりウエストブルックの6アシストは八村との連係。スタッツとしては20得点、3リバウンド、1スティールで、これもホークスのネイト・マクミラン臨時HCを相当悩ませたはずだ。ティップオフ後、ウィザーズの最初の得点も八村がコリンズの頭越しに決めたハイポストからのジャンプショット。その後の得点は多くがトランジションオフェンスでダンクやイージーレイアップに持ち込むパターンだったが、チームの戦略に沿ってよく走り、果敢に攻めていた。
このようなパフォーマンスを、ポストシーズンに向け重要局面を迎えているこの時期の試合でできていることを考えると、その意義はいっそう大きいと思える。相手はイースタンカンファレンス5位で、ライバルチームと激烈な順位争いをしているチーム。同時にウィザーズの方も、プレーイン・トーナメントでの立場を固める上で一試合も落としたくない状況(この日の敗戦後10位に後退)で、かつ得点源のビールが欠場している。一流の相手に対して、安定した活躍を当たり前のように要求されるが、それに八村は応えているのだ。
見ごたえ満点だった試合が終わった後、コリンズが会見に応じてくれたので、八村についての印象を聞かせてもらった。「すごいブロックがありましたよね」とコリンズ自身のハイライトシーンの一つを挙げて聞いたのだが、回答は謙虚で、八村のプレーを称賛する内容だった。

 

【関連記事】 堅調な八村 塁(ウィザーズ)、プレーインT出場権争いで高まる存在感 - ネイト・ビョークレンHC(ペイサーズ)も警戒

【関連記事】 八村 塁(ウィザーズ)は「心地よく自信をもってシュートしている」 - ウィザーズ対ホーネッツ戦試合前会見でジェームズ・ボレゴHCが高評価

 

大激闘の末の勝利だっただけにコリンズの表情は明るかったが、マッチアップ相手だった八村に関しては素直に称賛を贈っていた(写真をクリックするとインタビュー映像が見られます

「ワシントンとプレーするときはいつもルイが出てきて…。彼はとてもうまさのあるプレーヤーですよね。NBAにいる日本人プレーヤーすべてに詳しいわけではないのですが、彼のことは知ってます。ルイに対抗するのは、多才なだけに大変ですよ。今夜はミドルレンジからうまく攻められました。先ほど話したとおり、いろんなことができるはわかっているので、しっかり守れるよう準備して止めないといけないんですけどね。彼を乗せるとチームも乗せてしまうので。そうならないように全力を尽くすわけですが、『やるなぁ』って感じです。手ごわい相手ですよ」
“Obviously, whenever we play Washington, Rui, very skilled guy…, as you said I don't know if he…, all of…, all the Japanese players in NBA. But I definitely know…, coming up against Rui, like I said he's a lot in his bag. He got to that mid-range game a lot tonight. And as I said, I just know he can do a lot of things so just have to be ready to guard him and figure out how to stop him because like I said he's a guy that can get it going. I try to do my best to prevent that from happening. So, kudos to him. He's a great competitor.”
実際には八村の得点の多くがミドルレンジではなかったにもかかわらず、マッチアップしたコリンズ自身はミドルレンジを八村の警戒ポイントとして真っ先に挙げた。一本目がそうだったからというのがその要因の一つかもしれないが、それに加えてミドルレンジのエリアにおけるバックコートとのスクリーン&ロールなどオフボールの動きが、マッチアップする側として非常に守りづらい状況を生んでいることの現れだと思う。自ら決めずともウィザーズにとって有利な状況を生み出されることを含め、コリンズは八村のうまさとして捉えているのだ。
八村にはすでに、リーグでもリスペクトを受けるライジングスターに選ばれた実績もある。その一人に選ばれているのはダテではないということだ。

 

【関連記事】 八村 塁(ウィザーズ)が発散するNBAスワッガー

【関連記事】 八村 塁が復帰戦で13得点、終盤のリバウンドでも奮闘 - ウィザーズは接戦を落とす


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



タグ: NBA 八村塁

PICK UP