月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.05.10

「クリエイトせよ」――順調な成長を見せる渡邊雄太(ラプターズ)にニック・ナースHCが課題を提示

古巣グリズリーズ相手の試合でスターター出場を果たし堅実な活躍を見せた渡邊(写真をクリックするとインタビュー映像が見られます)

 

 渡邊雄太(トロント・ラプターズ)が、日本時間5月9日(アメリカ時間8日)に行われたメンフィス・グリズリーズとの試合でキャリア3試合目となるスターター出場を果たし、24分36秒間の出場時間で11得点(FG4/8、3P 3/5)、4リバウンド、1スティールと堅実な仕事ぶりを披露した。ラプターズが今シーズン中ホームとしているフロリダ州タンパに、渡邊とすれば「古巣」を迎えて行われたこの試合は99-109の敗戦で終わったが、渡邊自身は冒頭のような堅実な数字に加えてデータでは見えづらいディフェンス面の奮闘も見られた。主なマッチアップ相手は、非常に駆け引きのうまいガードフォワードのカイル・アンダーソンだったが、1対1でドライブしてくる相手からオフェンス・ファウルを誘うシーンもあり、また自らのマッチアップを離れてローテーションの中で、シューターへのしつこいコンテストによりミスを誘うプレーも一度や二度ではなかった。
この試合は渡邊のNBAにおける81試合目であり、日本時間5月12日(アメリカ時間11日)に同じくホームで行われるロサンゼルス・クリッパーズ相手の次戦は82試合目。つまり、フルスケジュールのレギュラーシーズンでいえば丸ごと1シーズン分の経験を、3シーズン分の時間をかけて経験したような換算ができる。そこでニック・ナースHCに、ここまでの成長速度についてどう感じているかを聞いてみた。ナースHCの立場からすれば、指揮下のプレーヤーとして渡邊を起用したのはこれが48試合目。これまでにも高評価はたびたび聞かせてもらっていたが、そうした意味合いではどうなのか。
ナースHCはまずこの日の渡邊を振り返り、「良い仕事ぶりでした。今夜も堅実でしたね。スリーを5本中3本決めて全体でも8本中4本。ほかにも良いプレーがありました(He’s done a good job. I thought he played really solid tonight. You know he shoots three for five from three, four of eight I thought he made a couple good plays in there.)」と評価した上で、特に一つのプレーを取り上げながら今後の課題を以下のように話してくれた。
「こちらに戻ってくるときに彼とちょっと話したんですよ。彼がドライブしてビッグマンの前でフローターを狙ったプレーがありましたよね。あんな調子で攻めてくれと伝えました。あれをやってほしんだと。(毎度ボールを回すばかりではなく)ときにはあんなふうに自分のショットを作っていかなきゃ、とね」
“You know I had a conversation with him coming off the floor that I like…, he kinda drove one in and took a floater over the big guys and it was a tough shot. But I said to him…, I said keep staying aggressive. That’s what I want. You know I want you to be…, I don’t want you to every time…, you know, sometimes you’ve gotta create a little bit of your own shot like that.”

 

【関連記事】 渡邊雄太&ニック・ナース、本契約の喜びを語る - 日本時間4月21日、トロント・ラプターズ練習後会見レポート

 

ナースHCは渡邊の活躍を評価するとともに、課題も提示していた


このプレーは61-66の劣勢で迎えた第3Q残り5分42秒あたりに、パスカル・シアカムのドライブ&キックに続いて渡邊がベースラインドライブを仕掛け、角度のない位置から距離の短いフローターを放ったプレーだった。こうしたケースで渡邊はパスをさばくことが多い。しかしナースHCとしては「クリエイトして自分で決めちゃえ」というわけだ。
かねてから言われているゴール近辺でのフィニッシュの改善とはやや異なるニュアンスで、「ボールを持ったら、適切なタイミングではもっと積極的にクリエイトせよ」という意味合いに思える。ただし間違っても、ボールが来るたびにやたらと長い時間保持してチームとしてのオフェンスを停滞させるようなことではなく、適切なタイミングを見極め、状況に対応する能力を求めているのだ。
渡邊はボールを持った1対1で無駄なドリブルがまったくと言っていいほどない。またボールタッチの時間は非常に短く、自分が次に何をなすべきかの判断は一瞬にしてなされ、行動に移される。それがネクストアクション・オフェンスの目くるめく展開の中で生きている。しかしここでのナースHCの要求はもう一歩踏み込んだものだ。例えば「オフェンスはほんの少しでいいから、ディフェンス面とハッスルで盛り上げてほしい」と話していた3月下旬当時に比べると相当高いものになっていると感じる。

 チームとして望む瞬間に自らの得点機を創り出せ――今の渡邊ならそれをできると期待するからこそ、ナースHCはこう話しているのだろう。また、本契約を手にしたプレーヤーとして、オールスターレベルとまでは言わないものの、そのような能力を一定以上求められて当然の立場になったということでもあるだろう。
「それが私から彼に伝えたことでした。ああやってできるのですから。3Pショットもまだまだよくなってきています。5本中3本成功は良い数字ですよ。そしてディフェンスでのミスがほとんどなかったのもいつもの彼らしく、良い調子だと思います。(レギュラーシーズン中に)あと4試合プレーできるので、このまま改善していきながら経験を積んでほしいと思っています」
“That was one thing I said and he did that. Again his shooting is still improving from three. Three for five from three tonight, you know. Good. Again, not very many mistakes on defense which is pretty common for him. So, he’s doing well. He’s got four more games to play it out and keep improving that he can get some valuable experience.”
積極性を感じさせたベースラインからのフローターは、このときはミスショットになった。しかし結果的にはディアンドレ・ベンブリーのプットバックにつながり、63-66と3点差に追い上げる形で実を結んでいる。ナースHCはこのプレーを実質的にナイスプレーと捉えているのだ。

 渡邊はこの日の試合で、第4Q終盤にもドリブルから自分で決めに行くシーンがあった。ハイポストやや後方からのフェイドアウェイ・ジャンパーで残念ながらミスショットになったが、そのプレーを振り返って「時間と得点的にあの場面ではクイックの1本のシュートが欲しかったので」と強気に狙いにいった心境を語っていた(渡邊はナースHC,ジェイレン・ハリスに続いて最後に会見に登場した)。同時に、ショットセレクションとしては別の選択肢もあっただろうことにも触れていたが、実戦経験に基づくこうした自己分析の積み重ねが進化の糧となるのは間違いない。こうしたプレーが渡邊自身の得点として記録されるケースも、今後きっと増えてくるだろう。

 

【関連記事】 渡邊雄太(ラプターズ)に見るマヌ・ジノビリ(元スパーズ)級のポテンシャル


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



PICK UP