月刊バスケットボール5月号

バスケットボール女子日本代表世界一への3つカギ(1) - メンタルの強さ

 4月16日から25日にかけてバスケットボール女子日本代表は第2次合宿を行い、30日(金)からはあらためて第3次合宿に突入する予定だ。渡嘉敷来夢(ENEOSサンフラワーズ)、本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ)と、近年大舞台でチームをけん引してきたプレーヤーの故障(ともに右膝前十字靱帯断裂)という不運に見舞われながら、ホーバスHCは当初から掲げている金メダル獲得という目標を変えていない。今回のメンバーでは宮澤夕貴も肩の故障を抱えているが、あくまでも頂点を目指すという思いは第2次合宿に参加した22人の代表候補たちに浸透している。

 

第2次合宿でショットを狙う馬瓜エブリン(中央)。ズーム会見では内面の成長を実感している様子だった(写真/©JBA)


女子日本代表は5年前のリオオリンピックで8位、3年前のFIBA女子ワールドカップ2018で9位という成績だった。現在のFIBAランキングは世界10位。この立ち位置から日本が世界の頂点に立つには、どんな構想が考えられるのだろうか。
ホーバスHCの戦術はずばり、「超」がつくほどスピーディーで精度の高いスモールボールで相手をほんろうし、ディープスリーを高確率で決めていくことだ。その起点はほつれのないディフェンス。40分間、相手に途切れなくプレッシャーをかけ続けミスを誘うことが重要事項となる。
ホーバスHCは今回の代表候補について、「2番・3番の選手が多い。皆頑張っている。あたらしいオフェンス、ディフェンスを入れており、タイミングなどはこれから」と話した。チームとしてのオフェンスは「(得点は)80台がいいと思う。難しいかもしれないけれど」と攻撃的なスタイルを目指すことを明かし、「3Pショットを30本以上打ちたい。ウチの速い試合ではだいたい80ポゼッション。そのうち40%以上で3Pショットを打ちたい。それで40%近くの確率です」と戦術的な指標も話してくれた。
こうした目標値を日本が世界に対して隠す必要はない。手の内はとうに知られているのだ。また、指揮官が数値目標を掲げてなされるべきことを提示していることで「絵が描けている」状態なのだから、プレーヤーたちもフォーカスしやすく、実行あるのみという状況とも思う。プレーヤー・プールもある程度絞られてきており、あとは徹底していくことが重要だ。
その過程での懸念材料としては、コロナ禍で各国のスカウティングが思うようにはできていないだろう点が一つ挙げられる。ホーバスHCは、自チーム側の体制が整っていない現段階では「(グループラウンド初戦で戦う)フランスのチームオフェンスなどについては確認していない」としながら、「(フランスの)選手一人ずつの好きなプレーへの準備はしました」と話した。

 

ホーバスHCは3Pショットを中心に据えたスモールボールで戦うことを明言している(写真/©JBA)

 

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 馬瓜エブリン(トヨタ自動車アンテロープス)に、気になるプレーヤーがいるかどうかを尋ねると、「マッチアップするかはわからないですが」とした上で、フランスのマリーヌ・ジョアネスという名前を挙げてくれた。身長177cmで、FIBA女子ワールドカップ2018でチーム3位の平均10.6得点を記録したシューティングガードだ。個別のスカウティングは今後も随時進められていくだろうが、国際的な交流や情報交換が極度に制限されている中、フランスだけではなくほかのチームについてもこの側面をどれだけ充実させられるかが世界一の可能性を上下させるに違いない。
女子日本代表のもう一つの悩みは練習相手だ。現状の代表メンバーでスクリメージを行えば、どうしても小柄でスピーディーな組み合わせ同士になってしまう。そのため第2次合宿では、練習中にスモールボールの効果が強く感じられないという現象が起きていたという。
世界とのサイズのギャップは非常に大きく、国内では男子でもそこそこ大型と呼べるチームと対戦するようなことでもしなければ、体験しようがない。コロナ禍でなければ親善試合や強化試合を組んで腕試しといきたいところが、それがまったくできない。
ただし大型チームの存在はわかりきっていることであり、かつ日本は過去の大会でそれらに混ざって健闘してきた実績がある。日本は前述のとおり、リオ大会では「ベスト8止まり」だったが、その順位になった大きな要因は準々決勝の相手がアメリカだったからだろう。グループラウンドで落とした接戦をあと一息の踏ん張りでモノにしていたら、メダルが見える位置にはいたのだ。
このレベルにある日本だからこそ、世界の頂点を目指す上で最も重要な要素は、心の強さになるのではないかと思う。強靭なメンタルをもって自分たちのバスケットボールを遂行しきることで、紙一重の差をモノにするのだ。
こうしたメンタルタフネスが反映されるスタッツ項目の一つにターンオーバー数があると思うが、日本は5年前の大会で実はトルコと並ぶ大会トップタイ(もちろん少ないという意味で)の一試合平均9.8本だった。3年前は13.5本で、これもグループラウンドを勝ち上がった上位12ヵ国中の3位という好成績だった。

 世界一を語るなら、これをさらに高いレベルで行うことが要求されることになるだろう。
この点で頼もしいコメントをしてくれたのが馬瓜だ。「2018年のワールドカップの頃は、いい試合もあれば、前半ダメでなかなか調子も上がってこない試合もあったり、ようやくトムさんのゲキが飛んで調子を取り戻すということがありました。それを自分自身でコントロールできるようになった部分が成長だと思います」
先のWJBLでの馬瓜の活躍は記憶に新しい。彼女は上記のコメントを、トヨタ自動車を念願の初優勝に導く活躍で証明している。個々のプレーヤーのそうした内面的な成長が、各チームのライバルたちとともに作り上げる日本代表に合宿の時点から持ち込まれ、広がり、チームとしてのしぶとさを生み出すと思う。
また、リハビリ中とはいえ、精神的支柱として渡嘉敷と本橋の存在感も過小評価できない。第2次合宿時点ではチームと一緒にプレーできなかった二人だが、大きなケガに直面しながら高い意欲を見せる彼女たちの姿は、それぞれのリハビリ経過における進捗自体がうれしいニュースであるとともに、「何としても勝つのだ」という決意をチームメイトたちに促す強烈な発奮材料になるという意味で重要だ。
今回本橋のコメントは得られなかったが、渡嘉敷は会見に元気な姿を見せ、メインはリハビリだとしながらも以下のように強い思いを言葉にしている。「本当に嫌になったら、いつでも『あきらめ…ちゃえ』と思いながらも、そんなに簡単に自分に負けたくない。周りというより、自分自身との戦いかなって思っています」。明るい笑顔とともに語られた渡嘉敷の一言一言から、意地も意欲も強く伝わってきた。こうした姿、こうした言葉が代表候補たちの心をより強くしていくと思う。

 

リハビリに励んでいる渡嘉敷。「前向き度は日々変わる」とも言っていたが、コメントからは負けん気の強さが伝わってきた

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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