月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.04.29

ロロ、レン、ギャフォード(ウィザーズ)の活躍はNBAの「ビッグマン新時代到来」の兆し?

 近年のバスケットボールの潮流として3Pショット、しかも「ディープスリー」と呼ばれる3Pラインのはるか後方から狙い高確率で決めてくるショットの有用性が高まっていることが明らかだ。それは特にシューティングに長けたバックコートの大量得点につながる戦い方であり、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)やディミアン・リラード(ポートランド・トレイルブレイザーズ)、ブラッドリー・ビール(ワシントン。ウィザーズ)らが50得点越えのビッグゲームを成し遂げる要因にもなっている。ところが今シーズン、それに伴ってビッグマンの有用性にも新たな時代が訪れている気配がある。

 

 

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ウィザーズにはどこからでも得点できるビールの他に、高確率のショットメイカーとして知られるダービス・ベルターンスもいる。その中でブルックスHCは最近の試合でロビン・ロペス(213cm)、アレックス・レン(213cm)、ダニエル・ギャフォード(208cm)という3人のセンターを重用しており、いずれも期待に応える活躍で貢献をもたらしている。ロペスに至ってはシグニチャー・ムーブのベビー・フックを高確率で決め2ケタ得点を連発したことから「キャプテンフック(Captain Hook)」のニックネームも定着してきた。日本時間4月29日の対ロサンゼルス・レイカーズ戦試合前会見でも、ブルックスHCがセンターにおける3人のローテーションは好ましい競争の状況を生んでおり、彼らに出場するたびに良いプレーをするよう後押しする効果を生んでいるといった趣旨のことを話す場面があった。

 日本時間4月24日に行われたオクラホマシティ・サンダーとウィザーズの一戦を前にした両チームのヘッドコーチの会見でも、それを感じさせるコメントが聞かれた。記者からの「3人のセンターを多用することで革命を起こしているかもしれないことをお気づきですか」という質問に対するスコット・ブルックスHCの回答がその一例だ。

 ブルックスHCはこの質問に対し以下のような回答をしていた。「そう思います。でもそれは必然的な挑戦の結果なんです。私は自分自身に挑まなければならず、スタッフにもプレーヤーにも挑みました。時折考えたのが、多くのセンターはオーソドックスなセンターではないんだということでした。我々は、彼ら(3人のセンター)なら恐竜のようになれるぞと言いたかったんです(“I definitely see it. But that’s the…,it was the challenge we had to do. We had to challenge myself, challenge our staffs, even our players. There’s at times that you know it’s…, let’s face it. A lot of centers aren’t true centers. We wanted to say they’re dinosaurs”)」
一方、この日ウィザーズの対戦相手だったサンダーのマーク・デイグノートHCは、まったく異なる系統のやり取りで、ペイントタッチの重要性を語る場面があった。サンダーは毎試合で100回程度のペイントタッチができており、それがチームオフェンスに良い影響をもたらしているという。
プレーヤーがボールを保持して制限区域に侵入することを意味するペイントタッチは、特にビッグマンと呼ばれるプレーヤーに限定されるものではないので、直接的にビッグマンの重要度を語る数字にならないことは当然だ。しかしゲーム展開の重要な要素として「中にボールを入れる」という行為が重要だということを示すものではある。

 デイグノートHCはその重要性がどんなものなのかという質問を受け、次のように答えた。「我々はペイントを最大限に活用したいんです。フリースローの機会も得たいですし、3Pショットを狙うにしてもパスがペイントから出されるようにしたいと思っています(“We wanna play through the paint in our offense for sure. We wanna get to the free throw line if we can. we wanna get to the rim. We wanna spread the ball out for threes and the way you do that is by hitting the paint.”)」。デイグノートHCは、主にターンオーバーの多さが原因となり思うように勝ててないことも語りつつ、サンダーがこの項目でリーグのトップレベルにあることをオフェンス面の好材料として捉えていることを明かしていた。
アウトサイド・シューティングのレンジが飛躍的に拡大している現代バスケットボールでは、シューターの存在によりディフェンダーが引っ張り出され、どうしてもインサイドが手薄にならざるを得ない。その結果としてペイントにオープンスペースができたときに、ビッグマンとしてのスキルをしっかり身につけたプレーヤーに、ブルックスHCが言うとおり「恐竜のようになれる」チャンスが訪れる。

 そうなれるための要素は、フィジカルなプレッシャーの下でしっかりピボットが踏め、左右どちらの手からも同じようなフィニッシュができ、ゴールを狙いながらアウトサイドに広がったシューターの様子を把握してタイミングよくキックアウトできるコートビジョンとパス能力、そしてフルコートを走り切った後にフィニッシュやリバウンドに力強く絡むタフネスと言った、意外とオーソドックスなスキルだということを、ウィザーズの3人センターの活躍は示しているように思う。加えてもちろん3Pショットが決められればいうことはないだろう。
3人のセンターの中でも、最も小柄なギャフォードのケースは特筆に値する。セブンフッターで3Pショットもありうるロペスとレンに対し、ギャフォードのショットチャートを見るとほぼ完全にペイントで仕事をしているからだ。ギャフォードは大きな相手にもひるむことなくアタックし、ディフェンスでもフィジカルに競い合う。リバウンドは1度ではなくかつてのデニス・ロドマンを思わせるような執拗さで食らいつき、ボールを自分のものにする。彼は自分の仕事を理解しており、身体的なサイズではなくスキルとハートのサイズで戦い続けていることが強く伝わるプレーヤーだ。チームメイトの八村 塁にとっても大きな刺激になっているに違いない。

 身長で勝っていたとしても、相手にしたらこれほど嫌な存在はないだろう。ポゼッションのたびにコンタクトしてきて1本のリバウンドの苦労を思い知らされ続けるのだ。ウィザーズに移籍してからの12試合で、ギャフォードは平均18.2分の出場時間で10.8得点、6.0リバウンド、2.2ブロックという数字を残している。いわゆる「ペイントの職人」だ。
NBAのビッグマンに新時代の到来か? しかもそれはシャキール・オニールやアキーム・オラジュワンのような超がつくモンスターの時代ではなく、基本に忠実でオーソドックスなセンターが重宝される時代なのだろうか…。ブルックスHCはこの流れが来シーズンも続くかどうかはわからないとも言っていた。しかし、ディープスリー、ストレッチファイブ、3&Dなどのキーワードで連想されるプレーヤーたちとともに、残るNBAのシーズンはオーソドックスなビッグマンの存在感にも注目すると面白いかもしれない。

 

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文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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