月刊バスケットボール5月号

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2021.04.30

鈴木妃乃(ノースアラバマ大3年)、NCAAディビジョンIでの1年目を振り返る

 昨夏渡米し、ノースアラバマ大の一員としてNCAAディビジョンIでのバスケットボール・キャリアに挑戦している鈴木妃乃(大阪桐蔭高校卒)の2020-21シーズンは、期待に始まり、飛躍を感じさせる活躍、そして試合中のアクシデントによる左ヒザ前十字靭帯断裂という悲運で、想定していたよりも早く終わった。残念なフィナーレではあったが、その後手術は成功。鈴木はリハビリに取り組みながら、2021-22シーズンに向けて準備を進めている。

 

アクシデントにより突然終わってしまった鈴木の2020-21シーズンだが、飛躍の兆しは十分に感じられた(写真/©UNA Lions)

 

ショッキングなACL断裂

 

 鈴木のNCAAにおける挑戦は、関西大学での2年を経た後、ノースアラバマ大にジュニア(3年生)として転入という形で2020年の夏に始まった。ノースアラバマ大は、2018-19シーズンにディビジョンIIからディビジョンIのアトランティックサン・カンファレンス(ASUN)に転入した“新興勢力”。しかし“昇格”後も好成績を続け2020-21シーズンにも大きな期待を持って臨んでいた。同チームを率いるミッシー・タイバーHCは鈴木について、2020年11月のインタビューで「ポイントガードとしてほしいものすべてを持っていた」と話しており、個別にも期待を寄せていた。
ノンカンファレンス・シーズンが始まった当初、鈴木は対戦相手よりも、新たな環境と言葉の壁との戦いに悩まされた。留学に必要なだけの語学レベルはクリアしたとはいえ、コート上で支障なくコミュニケーションをとるには経験が足りていなかったのだ。同じポジションにジェイラ・ロバーツという有能なプレーヤーもおり、鈴木の出場機会は限られたものになった。また、コロナ禍で進むシーズンの中で、チームとしても思うようなプレーができず、特に11月25日から年末までのノンカンファレンス・シーズン中は1勝8敗と勝ち星に恵まれなかった。
それでも、ノンカンファレンス・シーズンで鈴木の出場機会がなかった試合は1試合のみだった。ホームのフラワーズ・ホールで行われたノンカンファレンス・シーズン初戦の対オースティン・ピー大戦では、無得点ながら3アシスト、2リバウンドを記録。12月11日の対サムフォード大戦では5得点、6アシスト、3スティールと、個人的には2017年にウインターカップを制したときの輝きを感じさせるプレーを見せ始めた。
苦戦が続く中、タイバーHCはノンカンファレンス・シーズン最終戦だった12月29日の対テネシー大チャタヌガ校戦から鈴木をポイントガードのスターターに抜擢し、得点力があるジェイラ・ロバーツをシューティングガードとして起用する決断をした。シーズンの節目でコート上のコーチたるポイントガードをコンバート。しかも言葉の壁と格闘している鈴木をコミュニケーションのかなめとなる立場に抜擢するという決断が簡単なはずもない。戦術の徹底を図るためにタイバーHCは鈴木とコーチングスタッフによるミーティングを行った。その際、通訳としてサウスカロライナ大エイキン校でプレーしていた鈴木の姉、神乃(かんな)さんを招いたほど、タイバーHCはこのミーティングを重要視していた(神乃さんは2020-21シーズンを最後に同大を卒業)。

 ASUNのカンファレンス・シーズン開幕を前にしたこのミーティングを契機に自信をつけた鈴木は、1月に入ってからさらに持ち味を発揮し始めた。ASUN公式戦シーズンは1月2日・3日にケネソウ州大を相手にした連戦で開幕。ノースアラバマ大はこの週に2つの勝ち星を重ねたのだが、その第2戦で鈴木は自身初の2ケタ得点となる10得点とともに9アシストを記録している。接戦の展開となった第4Q終盤には勝負を決める3Pショットも沈め、75-70の勝利に大きく貢献した。
翌週1月17日の対リバティー大戦でも、鈴木は10得点、4アシストを記録した。スターターに抜擢されてからの鈴木は、ショットの精度が上がらずターンオーバーも多かったが、力強さと積極性を感じさせるプレーぶりだった。それとタイミングを同じくしてチームも勢いづいてきていた。ASUN公式戦の最初の6試合は4勝2敗。しかし1月30日、ASUN公式戦第7戦目となる対ノースフロリダ大戦で、鈴木は左ヒザACL(前十字靭帯)断裂の重傷を負ってしまった。鈴木の2020-21シーズンはこの瞬間に終わった。「右に走って行って左に切り返そうと思ったときに、左の膝が内側に入ってしまって…」と鈴木は振り返る。その後、2月24日に受けた手術は成功。現在はリハビリに取り組んでいる。

 

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姉・神乃さんの存在に救われた

 

 ズームで話を聞いた3月の時点では、鈴木はすでに前向きな気持ちを取り戻した様子だったが、ケガ当日は当然のごとくショックが大きかったという。しかしこのときも、姉・神乃さんの愛情が鈴木を支えた。「切った当日はもう、めっちゃ泣いてて…。ショックを受けていたんですけど、その日のうちに姉が来てくれて、サポートしてくれたことで次の日からケガのことばかりを考えることがなくなりました」。

 神乃さんは、自身が通うサウスカロライナ大の教授が運転するクルマで、6時間以上かけてノースアラバマ大のキャンパスに駆け付けた。神乃さん自身も2度ACL断裂した経験があり、妹の状況を理解するとともにいてもたってもいられなかったのだろう。「本当にありがたいです。私、すごく恵まれているなって思って…。ACLを切った直後は痛かったんですけど、そのあとあまり痛くなくて、もしかしたらプレーできるんじゃないかって思っちゃうくらいなんですよ。姉には、『まず検査の結果が出るまでは絶対にプレーしないように』と言われました」

 経験から語られる情報はかけがえなく、頼りがいもあったに違いない。「でも、何か声をかけてもらうとかではなくて、一緒にいてくれるだけで心が落ち着きました。日本語でやり取りができますし」
病院にも神乃さんは同行し、どういうふうに、どんなときに痛いのか、手術ではどこをどう切るのか、いつ頃復帰の見通しなのかなど、必要なやり取りを請け負ったそうだ。サウスカロライナ州からジョージア州を一気に通過してやってきた神乃さんは、アラバマ州にいる妹を支えた。ケガの直後だけでなく、その約1ヵ月後に行われた手術の後も、神乃さんはそばに寄り添い、日常生活の手助けをした。
こうした神乃さんの手厚いサポートに加え、チームメイトやスタッフの応援も鈴木にとっては元気の素となった。「ときどき、『ああ、どうせもうプレーできないし…』という気持ちになってしまうんです。そのたびにチームメイトがいつも通りに元気に話しかけてくれたり、コーチがサポートしてくれるので、『これじゃダメだ』と何か自分にできることをしようと思い直すことができました。自分のことばかりを考えずに、試合でもちゃんと応援して、シューティングのときは可能な範囲でリバウンドをしたり、今できることをやるようにしていました」

 

3月のズームインタビューで、鈴木は落ち着いた表情でシーズンを振り返ってくれた

 

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勝てるチームにするために

 

 欠場せざるを得なかったシーズンの後半、鈴木は焦らずリハビリとケガの再発防止に向けた体作りに取り組むとともに、コートサイドからチームを研究することとなった。すると課題も明確に癒えてくる。「外から見ていると、このチームはディフェンスが弱みかなと思いました。それと、サイズ的にすごく大きいというわけではないのでリバウンドを獲られてしまうんですよね。だから身長が小さくてもリバウンドを獲れるような対策をしなければいけないなと思いました。逆に強みは3Pショットで、すごく入るなと思いました。私も復帰したらそこを磨きたいと思っています」
ノースアラバマ大は今シーズンを7勝18敗(ASUN6勝9敗)という通算成績で終えた。3Pショットは1試合平均8.0本成功させているが、これは対戦相手の6.5本を上回る。リバウンドは1試合あたり34.6本に対し、対戦相手には39.4本を奪われていた。
鈴木は復帰とともに、自身も触れているこれらの課題に加え、アシストの量産とターンオーバーの減少によっても大きな貢献を期待できる。医師の診断では復帰まで6ヵ月から8ヵ月。手術の日付から逆算すれば2021-22シーズン開幕には間に合う見通しであり、あせらず万全の状態でコートに戻ってきてほしい。

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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