月刊バスケットボール6月号

Wリーグ

2021.03.22

気持ちを全面に出して戦ったトヨタ自動車が初優勝。ENEOSの連覇止まる。

 絶対に引かない──。トヨタ自動車の選手たちはその思いを胸に刻み込んでいた。昨年の12月に行われた皇后杯で、優勝のピッグチャンスを得ながら、ENEOSに逆転負けを喫してしまったトヨタ自動車は、その悔しさを晴らすためにこの3か月を過ごしてきた。
そんなトヨタ自動車の初優勝のかかったWリーグファイナル、第2戦が3月21日に国立代々木競技場第2体育館で開催された。前日、ENEOSの猛追を受けながらも逃げ切り、王手をかけて臨んだ一戦である。

 

#2長岡萌映(トヨタ自動車)

ENEOS #52 宮澤と#10渡嘉敷

 

【関連記事】Wリーグ ファイナル トヨタ自動車が先勝。初優勝へ王手


一方、後がないENEOSは、右肩の故障でベンチからの出場を続けていた#52宮澤夕貴がスタメンに戻る。さらにプレーオフで好調の石原愛子を起用し、トヨタ自動車の高さに備える。「うちはビッグマン3人がラインナップできるのが強み」とキャプテンの三好南穂が言うように182cmの#2長岡萌映をスモールフォワードに、180cmの#0馬瓜エブリンをパワーフォワードに、185cmの#45河村美幸をセンターに起用するラインナップ。しかもベンチには182cmの#33馬瓜ステファニー、180cmの#11脇梨奈乃、さらにアーリーエントリーで187cmの#28シラ ソハナ ファトー ジャも加え、選手層は厚い。
渡嘉敷来夢、梅沢カディシャ樹奈といった190cm超えのインサイド陣をケガで欠くENEOSは、第1戦では173cmの林咲希がスターターのスモールフォワードを務めることで、ミスマッチを生じていた。フォワードの宮澤は183cmのサイズがあり、現在試合に出られる選手の中では最長身、無理を押しての出場だった。
しかし、この日もトヨタ自動車が序盤からリズムをつかむ。長岡が3Pシュートを連続で決めると、河村、そしてENEOSのターンオーバーから三好の3Pシュートが決まると11-0。連夜の好スタートとなった。
先手を取られたENEOSだったが、石原が冷静に得点すると、宮澤、#29中村優花らサイズアップしたフロントコート陣を中心に巻き返していき、15-19と4点差まで詰めて1Qを終えた。2QにもENEOSがジリジリと追いかける。トヨタ自動車のターンオーバーから#5藤本愛瑚がファストブレイクで22-23と1点差とすると、タイムアウト明けに#33中田珠未のドライブで逆転に成功。しかし、すぐにファトー ジャが高さを生かして再逆転すると、そこからは点の取り合いが続き、33-29とトヨタ自動車が4点のリードで前半を終えた。
後半に入るとトヨタ自動車が、再び勢いを増す。馬瓜エブリンが3Pシュート、さらにインサイドでも力強いプレーを見せて残り5分を切ったところで43-31と点差を2ケタに戻すと、さらに攻撃を緩めることなく点差を開いていく。
ENEOSも#32宮崎早織の3Pシュートなどで反撃を試みるが、トヨタ自動車のファトー ジャのオフェンスリバウンドからの得点で譲らず、38-53と15点差で最終クォーターへ。

 

【関連記事】皇后杯決勝 逆境を跳ね返し、全員バスケでENEOSが8連覇


4Qに入ると宮澤の3Pシュート、石原の3Pシュートなどで、何とか流れを作ろうとするが、トヨタ自動車は14リバウンドを記録した長岡、ポイントガードながら10リバウンドの#15安間志織らを中心に、リバウンドでアドバンテージを取り主導権を渡さない。
終盤に入りENEOSは必死なディフェンスから藤本らが得点を重ねるが、トヨタ自動車は引くことなく攻め続け、最後は#23山本麻衣が3Pシュートでとどめを刺し、70-60でファイナル2連勝を果たした。皇后杯の悔しさを晴らしWリーグ初優勝を遂げると同時に、ENEOSの12連覇を阻止した。
試合後、トヨタ自動車の選手たちは口々に皇后杯の敗戦の悔しさから「チームが一つになった」と語る。そして試合中ENEOSに詰め寄られても「引かない」「攻め続けよう」と言い合ったという。
それは対戦したENEOSにも伝わったようで「私たちが勝ちたいと思う気持ちよりも、トヨタ自動車の選手たちの気持ちが上回ったと結果」とキャプテンの#0岡本彩也花は認める。しかし、悔しい思いをしたのはENEOSも同じだ。梅嵜英毅HCは「こんなに悔しい思いをするんだ」とヘッドコーチ就任後初めて記者の前で悔しさを口にすると「(故障者が続出する中で)岡本、宮崎といった選手たちを酷使してしまった。疲れが残ってしまい、最後の試合で最高のパフォーマンスを発揮させてあげられなかった」と続ける。窮地に陥ったチームを率いてきた岡本、宮崎はそれぞれ悔しさを語りつつ、自覚と自信を得たシーズンだったことも語る。そして「まだまだ成長できる」とすでに気持ちは前を向いている。最強の挑戦者となったENEOSが、新女王となったトヨタ自動車とどんな戦いを見せるのかと思いをめぐらすと、今から来シーズンが楽しみでならない。

[プレーオフ ベスト5]
#0 馬瓜エブリン(トヨタ自動車)
#2 長岡萌映子(トヨタ自動車)
#15 安間志織(トヨタ自動車)
#11 岡本彩也花(ENEOS)
#32 宮崎早織(ENEOS)

[プレーオフMVP]
#15 安間志織(トヨタ自動車)

(文:飯田康二・写真:石塚康隆/月刊バスケットボール)

※次のページに熱戦写真



PICK UP