月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.03.19

クイン・スナイダーHC(ジャズ)、コロナ禍の苦難を語る - 「ジムの空気を吸う(smell the gym)」ことができない

 

 29勝10敗(勝率74.4%)の成績で現在NBA全体のトップを走るユタ・ジャズ。日本時間3月19日(アメリカ時間18日)の対ワシントン・ウィザーズ戦を前に、会見に応じたクイン・スナイダーHCが、コロナ禍のシーズンにおける困難な一面について語る場面があった。

 4日間で3試合をこなす日程やPCR検査への対応の中、練習も重要だが、特にビデオセッションや休養の重要性も高まっているというのがその趣旨。その中で、チームが対処しなければならない苦労を示すエピソードとして、ウォークスルーなどの通常ならばコート上で行われるべき重要事項を、ホテルのボールルーム(宴会場)で行わなければならないことが挙げられていた。
宴会場の広さによって、コート上での動きを再現しようとしてもできないケースがあるという。そんな現状がコーチにもプレーヤーたちにとってもフラストレーションとなっていることを、スナイダーHCは次のように表現していた。「我々コーチとしたら、シーズン中にそういった場所でゲームプランなどに取り掛かりたくはありません。そもそもNBAのシーズン中には練習時間がいくらでもあるというわけではありません。特にプレーヤーたちにとっては、シューティングしたりボールに触れたり、我々がよく言う『ジムの空気を吸う』ことで調子を保つものですよ。そういった点で、誰もが苦労しています」。

 スナイダーHC自身による英文の回答は以下のような流れだった。
“We as coaches, we don’t wanna get in there and work on game plan stuffs during the course of the season. There isn’t a ton of practice time during an NBA season anyway. But even for the players in particular, just being able to shoot, being able to touch the ball or smell the gym as we say, get in there and kind of stay tuned-up. So those are all things…, everybody’s dealing with it.”
スナイダーHCが使った“smell the gym”というフレーズは、バスケットボールをやったことがある人たちには感覚として受け入れやすいのではないだろうか。フロアの匂い、ボールのレザーの匂い、最初にコートに入った瞬間に感じるワクワク感。そういったものに包まれて試合や練習に向け気持ちの高まりを感じていく過程が、今シーズンはプレーヤーたちに不足しているということだろう。しかも試合には観客がまだほとんど戻ってきていない。
リーグトップの成績を収めている指揮官の言葉だけに、最高峰のNBAが直面しているチャレンジがいかに根深いものかを強く認識させられる。それと同時に、そんな現状にもかかわらず、チームとしても個々のプレーヤーとしても今シーズンを通じて披露されているハイレベルなパフォーマンスを維持できていることに、逆に驚いてしまう。
リーグとチーム、そして、世界中に同じ瞬間を共有する人がいることをわからせてくれるファンの存在までも含め、それぞれの立場で大小の努力が積み重ねられた結果として、素晴らしいバスケットボールを毎日楽しむことができる環境があることには、本当に大きな意味がある。もしかしたら、コロナが収まった後のNBAは、現時点では想像できないような思いがけない飛躍を見るのではないだろうか。

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



PICK UP