月刊バスケットボール5月号

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2021.03.19

ヒル真理(足羽高校卒、ボーリング・グリーン州大4年生) - アメリカで手にしたもの(4)

ボーリング・グリーン州大(BGSU)がポストシーズンのビッグイベントに出場するのは、WNIT(Women‘s National Invitation Tournament)で準々決勝に進出した2014年以来7年ぶり。周囲の予想を覆す大躍進にヒルの世代がもたらした貢献は高く評価されるべきものだ。

 

2020-21シーズンの最上級生4人組。左からヒル、クレア・グロウニアク、アンジェラ・ペリー、マディセン・パーカー

 

誇りをもって「チーム一丸」を実現した最終学年

 

 2020-21シーズン、最上級生となったヒルは3年生の頃と同じだけの出場時間をもらえていない。見る側とすればもちろんコート上で輝く姿を期待する。ただ、ここまで綴ってきたような背景と現状の中で、ヒルに期待されるものが昨年と大幅に違うものとなった。
フラリックHCは今後を見据えてリクルーティングを行い、フレッシュマン6人を加え、下級生主体のチーム作りをした。その中でヒルを含む4人のシニアに求められたのは、メンタリングとリーダーシップなのだ。「いろいろ悩むこともありましたし、悔しい部分もあったんですけど、切り替えて練習でどれだけ自分たちのチームメイトをうまく成長させることができるか、そこを誇りに思ってやってきました」とヒルは言う。
3月13日、BGSUはレギュラーシーズンチャンピオンとして臨んだミッドアメリカン・カンファレンス(MAC)トーナメント決勝の舞台に立っていた。勝てばNCAAトーナメントへの自動的出場権を手にすることができるビッグゲームだ。
この日のスターターは1年生3人に2年生と3年生が一人ずつ。拮抗した接戦の展開となり終盤BGSUは持ちこたえることができず72-77で敗れてしまったが、若いチームはこれからに向けたポテンシャルの高さを十分に見せていた。
この日の結果を含め20勝6敗という今シーズンの通算成績は、フラリックHC以下全員が一丸となって掴んだ成果だ。試合後、フラリックHCは「(選手たちが)変化に対応し、プログラム全体を前進させたことには大きな意義があります。絶対に忘れません。励みになりますし、今後も前進する糧にします」とチームの全員をねぎらう言葉を残した。「本物のチームをコーチさせてもらってきたことを、私は心から誇りに思います。我々は一丸となった本物のチームでした。(中略)それだけに、今日は本当に勝ちたかったですが、負けたからと言って今シーズン中ずっとやってきたことに何も恥じることはありません」
故障の影響もあり出場機会が大幅に減ったヒルを含む4年生たちは、下級生たちとは異なる悔しさを感じていたかもしれない。そうした思いもわかっていたのだろう。フラリックHCは4年生たちについて、「私たちのシニアはプログラムのバックボーンです。上級生なのに新たな役割に直面し、下級生たちを受け入れ、支援し、激励し、対抗し…。そういったことができるのは特別な子たちだけです。自分たちだけの満足を求め自分、自分と言ってくる若者が多い世の中ですが、あの子たちは大違いです。本当に支えになってくれました。変化を受け入れてくれたんです。(中略)今シーズンはあの子たちなしにはあり得ませんでした。特別な上級生がいたからこそ、この成績を残すことができました。自分が良ければという風潮がスポーツ界にも広がっていますが、彼女たちはまったく違います。それが今シーズンを特別なものにしてくれました」

 

忍耐を擁した今シーズン、最後にビッグイベントへの道が開かれていた

 

大学での最後の舞台はポストシーズンWNIT

 

 MACトーナメントでは敗れたBGSUだが、2020-21シーズンはまだまだ終わっていない。というよりも、本当の意味での本番はこれからだ。
NCAAは毎春のNCAAトーナメントに出場するチームを選ぶために、ネットランキングスというデータを用いる。これは勝率をはじめとした5つの指標を基に全米のチームを順位付けするもので、異なるカンファレンスに所属する強豪チームの実力を評価し、カレッジバスケットボール最大のイベントであり、ビジネスの機会でもあるマーチマッドネスへの出場機会を適切な大学に公正に振り分けるためのツールだ。BGSUはこのネットランキングにおいて、アメリカ時間3月14日までの試合を終えた段階で58位につけていた。
NCAAトーナメントの出場枠が64チームであること、2018年と2019年の大会にMACから2チーム出場できていたこと、MACトーナメント決勝の敗戦後もBGSUのネットランキングに変動がなかったこと…。こういった要因から、BGSUにもNCAAトーナメント出場の可能性が十分に感じられた。
3月15日の「セレクションデー」に飛び込んできたのは、ポストシーズンのWNIT(Women’s National Invitation Tournament)にBGSUが出場し、1回戦でクレイトン大と対戦するという知らせだった。カレッジバスケットボールの伝統を知る者なら、それが意味する悲喜こもごもとした感情を理解できるだろう。
WNITはNCAAトーナメントに次ぐカレッジバスケットボール界の伝統あるビッグイベントで、出場できるのは32チームだけだ。NCAAトーナメントへの出場がかなわなかったとはいえ、その32チームに入るのは、簡単に成し遂げられることではない。しかもBGSUの場合、プレシーズンにカンファレンスの12チーム中11位という予想を受けていたチームをわずかな期間に立て直し、今や全米の頂点を狙える位置まで持ち直してきたのだ。その中でヒルが担った仕事と遂行力には、計り知れないほどの大きな価値があった。
ヒルの今シーズンの出場は同日時点で11試合にとどまっており、自身の意欲とは裏腹に、望むだけの活躍の機会が得られなかった。しかし、若いチームの支えとして過ごした一年は、プレーヤーとしてだけではなく人としてもヒルを大きくしたに違いない。15日の結果を受けてお祝いのメッセージを送ると、「やはりNCAA Tournamentに参加できず残念な気持ちありましたが、NIT に出場できることもとても光栄なことなので最後まで全力でやり切りたいと思います(文面は本人記述のママ)」と、気持ちを切り替えて前を向く言葉が返ってきた。
この大舞台でBGSUはどこまで勝ち上がり、その過程でヒルにどんな機会が巡ってくるだろうか。NCAAディビジョンIにおけるキャリアのフィナーレがどのような形になるかは誰にもわからない。しかし、アメリカでの挑戦を躊躇した幼い頃からは想像もできないほど強くなったヒル真理が、どの瞬間にも全力でチームを支えていることだろう。

 

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写真/BGSU Athletics

取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール) 



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