月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.03.10

ヤニス・アデトクンボ(バックス)に飛躍をもたらしたコービー・ブライアントの言葉 - 「You’ve always gotta be a kid(子どもの心を大切に)」

 

FG16/16、35得点でオールスターMVPに

 

 3月7日にジョージア州アトランタで開催されたNBAオールスター・ゲームはチーム・レブロンが170-150で圧勝し、ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)がMVPとしてコービー・ブライアントの名を冠したトロフィーを持ち帰った。
見せ場を作ったプレーヤーが多かったこの日、アデトクンボはオールスターでは自身2番目に高い35得点を稼いだが、特にフィールドゴール16本すべてを成功させ、失敗なしのフィールドゴール成功数のオールスター記録を塗り替えた事実は特筆に値する。今回の受賞でアデトクンボは、マイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズ他、現シャーロット・ホーネッツオーナー)、ケビン・ガーネット(元ボストン・セルティックス他)に彼自身を含めた3人しか達成していないレギュラーシーズンMVP、最優秀ディフェンシブ・プレーヤー、オールスターMVPの3賞受賞プレーヤーとなった。
試合後の会見でアデトクンボは、ブライアントのトロフィーを獲得したことに大きな喜びを表していた。「コービー・ブライアントの名前を付けられたトロフィーをもらえるとは、素晴らしい。彼は喜んでくれるはずです。ええ、絶対うれしいはずですよ!(To have the trophy with the name of Kobe Bryant, it's amazing, and I know he would be happy. Yeah, I know he'd be happy!)」

 アデトクンボがブライアントに特別な思いを持っていることは以前から知られている。ブライアントの引退から2年後の2018年オフ、アデトクンボは“ブラックマンバ”にワークアウトのコーチングを依頼していた。
その際に学んだことが、アデトクンボにとっては大きな宝となっているようだ。いったいワークアウトでどんな言葉をもらったのだろうか。バックス公式YouTubeアカウントで公開されている映像でアデトクンボはその一部を明かしている。

 

コービー・ブライアント トロフィーがさらなる飛躍をもたらすか


ブライアントから学んだのはまず、物事を単純化すること(be simple)と、反復練習を何度でも繰り返すこと(work on your craft again and again and again)だった、とアデトクンボは言う。また、「奇想天外な発想をできるようにならなければいけない。そして子どもの心を持ち続けることだ。彼はそう言いました(You’ve gotta think outside the box. And you’ve always gotta be a kid. That’s what he told me)」と続けている。
奇想天外な発想と子どもの心のくだりについて、アデトクンボは熱を入れて話している。「コービーは、『子どもたちの世界はファンタジーなんだ。石を2つ用意すればそれだけでずっと遊んでいられる。いつでも興味津々で、次々と質問してくるしね。なぜこれをしないといけないの? なぜ客席に座らないといけないの? 私は今日どうして学校に行かないといけないの? とかね』と話してくれました」
他愛のないこうしたブライアントとの会話が、アデトクンボにかけがえのない気づきをもたらしたのだろう。アデトクンボと同じく18歳でNBAデビューを果たしたブライアント自身、ルーキー時代は質問魔だったと当時ロサンジェルス・レイカーズのGMだったジェリー・ウエストが明かしている。50本のショットを放ち、60得点を記録した2016年4月13日の引退試合までの20年間のキャリアで、がむしゃらに「ベスト」を追求したブライアントの姿は、何があっても欲しいものを欲しいと自分の気持ちを素直に表現する子どもの心に、どこか共通した部分があるようにも思える。

 アデトクンボがMVPを初受賞したのは、このワークアウトの約2か月後に開幕した2018-19シーズンだ。また、ブライアントが不幸なヘリコプター事故により帰らぬ人となった2019-20シーズンには、2年連続MVPに加えて最優秀ディフェンシブ・プレーヤー賞に輝き、大いなるステップアップを実現した。そのような飛躍の土台にブライアントの存在があったのだ。

 尊敬するレジェンドの名が刻まれたオールスターMVPは、後半戦のアデトクンボとバックスに、さらなる躍進をもたらすかもしれない。

 レギュラーシーズン前半のアデトクンボは、平均29.0得点(リーグ全体5位)、11.7リバウンド(同4位)、5.9アシスト、1.4ブロックのアベレージで、週間最優秀プレーヤーに2度選出されている。しかし彼は、さらなる「ベスト」を求めてくるだろう。

 バックスは現在22勝14敗でイースタンカンファレンス3位。彼らがチャンピオンシップを獲得したのはちょうど50年前の1971年。日本時間3月12日(金=アメリカ時間3月11日の木曜日)の対ニューヨーク・ニックス戦から始まる後半戦では、その話題に触れることが多くなりそうだ。。

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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