月刊バスケットボール10月号

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2021.03.15

ジェフ・ウォルツが語る今野紀花 - ルイビル大女子バスケットボールチームヘッドコーチインタビュー(2)

2020-21シーズンの今野紀花はアメリカ時間3月7日のACCトーナメント決勝終了時点で全26試合に出場し、ルイビル大女子バスケットボールチームのロスター13人中8番目に多い平均12.1分の出場時間を得ている。全試合出場は5人だけであり、これ自体が今野に対する高評価を示している。入学当初からここまでの成長をヘッドコーチのジェフ・ウォルツ氏がどのようにとらえているかを聞いてみた。

 

今野の出場時間がさほど長くないのはロスターの充実度のため、というのがウォルツHCの説明だった

 

――今野選手がNCAAディビジョンIでやっていく上で、入学時にどんな点を上達させるとよいと思っていましたか? また、それは現時点でどれくらい克服できたと感じているかを教えてください。
ウォルツ まず、彼女はこちらに飛んできたということ自体が勇敢でしたね。言葉の壁はとても難しいものです。でも頑張って、頑張って、本当に頑張って、英語も上達しています。大したものですよ! 私の方は日本語をまったく覚えられないのに…(笑) 彼女はよく教えてくれるんですよ。でも、いくつかの言葉を習ったのですがうまくなりません(笑)
プレーに関しては3Pショットを頑張っています。そこに意欲があって、実際に向上しています。プレーヤーとしても驚くほど成長していますよ。

 

――フィジカルなプレーへの対応についてはどうでしょう。日本のプレーヤーはその点で苦労するとよく聞きますが。
ウォルツ 彼女はその点もきちんと向き合っています。フィジカルなプレーも問題になっていません。ボックスアウトも強いですしディフェンスでも前腕を使って平気で押し合ったりしています。“フィジカリティー(激しいぶつかり合いの多いプレースタイル)”への対応もうまくやっています。

 

――となると課題と言えば…。
ウォルツ 今取り組んでいるものの一つには、ディフェンスでの横方向の動きがあります。それと、得点面での安定感。彼女は自己中心的ではないので、ときにパスを優先しすぎる場合もあるのですが、もっと得点を獲りにいっても良いですね。(そういった部分も)今後どんどん伸びてくるでしょうし、彼女はウチにとって大切な存在です。

 

――現時点ではあまり長い出場時間を得られていませんが、その理由はどんなことでしょうか?
ウォルツ 彼女は去年と比べて様々なところで成長を見せています。でも、ジュニア(3年生)とシニア(4年生)にオールアメリカンの優秀なプレーヤーがそろっていますから。彼女たちが卒業してしまったら、出場時間のアキができますね。ノリカは伸び続け、上達を続けるでしょうから、それとともに出場時間を含めさまざまな機会が増えることでしょう。能力があるし、もっともっとよくなりますよ。ウチのチームにあって、彼女に何かが足りないということではなく、チーム内の相手がすごいのだということです。
私たちのレベルではチームメイトが素晴らしすぎて、出られないという場合もあります。上級生が粒ぞろいだと、1・2年生の出番を作れないこともあるんですよね…。でも伸びてきたらその分だけ機会は増えます。ノリカは喜ばしい成長ぶりをみせてくれていますよ。
全米1位として3週間過ごし、今は6位(取材日は日本時間2月24日)に下がっていますが、これは相当に高いレベルなのだということです。チームが優秀なことで、我慢してもらわなければいけないことがあるんですよね。

 

――彼女のシューティングは昨年に比べて向上していますが、オフに何か宿題のようなものを出されましたか?

ウォルツ 彼女は入学時点ですでに優秀なシューターでした。特にプルアップがうまかったですね。3Pショットは現在頑張っていることですが、30%台半ばの数字を残しています。得点力は上がってきています。
私からはフットワークについて少し伝えたことはありましたが、シューティングについては彼女自身の意欲で取り組んだことです。この競技の原則の一つは、頑張る意欲があって一生懸命に取り組めば上達できる、というものです。ある人は早く結果が出るし、時間がかかる人もいますが、その過程を続けていくのは大事ですよね。

 

――つまり彼女自身意欲的だったから伸びたということですね。
ウォルツ そうです。ジムで長い時間を費やしたということです。

 

 

 冒頭に記したとおり、今野は安定して出場機会を得られており、先だってのACCトーナメント決勝でも20分の出場時間を得、勝負のかかった終了間際の攻防でもプレーしていた。
これがルイビル大での数字だということには格段に大きな意義がある。どれほどすごいことかを感覚的にとらえるのは難しい。なぜなら、日本人プレーヤーが全米のトップ10常連大学でローテーション入りを果たしたケースは、今野の他には男子のゴンザガ大で3年間プレーしてワシントン・ウィザーズからドラフト1巡目9位指名を受けた八村 塁しかいないからだ。大野慎子(1998年から2002年までエバンスビル大で活躍したガード)以降、女子では優秀な日本人プレーヤーがNCAAディビジョンIのチームで活躍する例はいくつかあるが、全米1位を経験したのは今野だけだ。
今野のチームメイトには、身長167cmのガードで、今シーズンNCAAの年間最優秀プレーヤー候補に名を連ねる4年生のデイナ・エヴァンスをはじめ、全米のどこでも活躍できるつわものがそろっている。ウォルツHCの下からはこれまでにWNBAドラフトで指名を受けたプレーヤーの数は11人。エヴァンスもこのままいけばそんな可能性があるだろう。そのような仲間たちとの切磋琢磨により見えてくる、今野の将来の可能性は無限大だ。

 

アイキャッチ画像/UofL Athletics
取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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