月刊バスケットボール6月号

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2021.03.06

ブラッド・スティーブンス(セルティックスHC)が語るインディアナバスケの伝統

ヒンクル・フィールドハウスでのNCAA公式戦の様子(写真/石塚康隆、2013年撮影)

 

フージャーヒステリアの中心、ヒンクル・フィールドハウス

 

 今年のNCAAトーナメントは例年とは異なる開催方法となる。例年ならば、全米を4つの地域に分けて個別のトーナメントを複数都市で開催し、それぞれの勝者が最後に一つの都市に集まって“ファイナルフォー(Final Four)”と呼ばれる全米の四強対決を行う。しかし新型コロナウイルスのパンデミック下で進行している今シーズンは、男子がインディアナ州インディアナポリス、女子がテキサス州サンアントニオを舞台に、それぞれでバブル開催となる予定だ。
アメリカのスポーツ界最大の祭典の一つでもあるNCAAトーナメントの伝統が変わることに、どこか違和感がないわけではないが、昨年大会自体がキャンセルされたことを思えば、NCAAとしてリスクときっちり向き合い開催にこぎつけようとしている意義は計り知れないほど大きい。昨年NBAがプレーオフ全体をバブル開催して成功を収めた例もあり、今回は今回でこれまでにないエキサイティングな展開や感動の名場面が生まれることを期待させる要素も数えきれないほどある。
男子のインディアナポリス大会におけるそういった楽しみの一つに、全米のバスケットボールファンに知られた“聖地”ヒンクル・フィールドハウスで試合が開催されるという事実がある。強豪がひしめくビッグイースト・カンファレンスに所属するバトラー大がホームとしているアリーナで、バスケットボールのホットベッド(温床)と呼ばれるインディアナ州でも、最も重厚な伝統に飾られた建物の一つとされる場所だ。

 

ヒンクル・フィールドハウスの外観には、伝統の場所にふさわしい雰囲気が漂っている(写真/石塚康隆、2013年撮影)


この会場でバスケットボールのビッグゲームを戦うこと、観戦することは、フージャー(Hoosier)と呼ばれるインディアナ州の人々にとってこの上ない喜びとされている。かの地のバスケットボールに対する熱狂ぶりを指してフージャーヒステリア(Hoosier hysteria)という言葉が存在するほど、この地域のバスケットボールに対する思い入れや誇りの持ち方は特別なものであり、その熱狂の中心にヒンクルは存在しているのだ。
1980年代にリリースされたバスケットボールを題材とする映画『Hoosiers(邦題: 勝利への旅立ち)』では、クライマックスの撮影ロケ地がヒンクルだった。
主演を務めたジーン・ハックマンはインディアナの弱小チーム、ヒッコリー高校のコーチなのだが、周囲の予想に反してあれよと言う間に州大会決勝進出を果たし…というのが大まかなストーリー。伝統の場所として知られるヒンクルでのビッグゲームを前に、緊張に顔をこわばらせるプレーヤーたちをリラックスさせるため、ハックマン演じるノーマン・デールHCは巻き尺で彼ら自身にフリースローラインの距離とゴールの高さを測らせこう言う。「いつも君たちがプレーしているジムと同じことがわかったな。さあ、練習だ」
声をかけられたプレーヤーたちの表情が穏やかに…、というこの名シーンが撮影されたのがヒンクル・フィールドハウスだ。

 先日ボストン・セルティックスの試合を取材した際、このヒンクルにゆかりを持つブラッド・スティーブンスHCにこの点について質問してみた。スティーブンスHCはインディアナポリスが故郷のフージャーであり、セルティックスに加わる前はバトラー大をヘッドコーチとして率いていた。2010年、11年にはチームを2年連続でNCAAトーナメント決勝に導いた経歴を持っており、言うまでもなくそこでの実績がセルティックスでのキャリアにつながった。
質問はずばり「ヒンクル・フィールドハウスがNCAAトーナメントの会場の一つになっていることをどう思うか」。スティーブンスHCの回答は、故郷のバスケットボールの伝統に対する愛情や誇りが伝わっててくる内容だった。

 

バトラー大を率いていた2013年当時のスティーブンスHC(写真/石塚康隆)



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