月刊バスケットボール6月号

NBA

2021.03.05

渡邊雄太(ラプターズ)のNBAキャリア初スターター出場が実現した理由

NBAでスターターとして出場を果たした2人目の日本人プレーヤー。これも歴史だ

 

日本人プレーヤーとして2人目のNBAスターター誕生

 

 渡邊雄太(トロント・ラプターズ)がNBA入り後初めてのスターター出場を果たした。アメリカ時間3月3日に行われたデトロイト・ピストンズとのホームゲームで4番のポジション(パワーフォワード)のスターターを務めた渡邊は、10分37秒間コートに立ち4リバウンドを記録した。試合には105-129で敗れたが、日本人プレーヤーとして八村 塁(ワシントン・ウィザーズ)に続く2人目のスターター誕生という歴史が作られたことになる。
ラプターズはこの日、ニック・ナースHCを含む複数のコーチングスタッフと、フレッド・ヴァンヴリート、パスカル・シアカム、OGアヌノビー、マラカイ・フリン、パトリック・マカウが欠場。図らずしてこれが渡邊の出場機会を増やす要因となったのは間違いないだろう。ただ、選択肢は渡邊をスターターとするほかにも考えられたはずだ。その理由は何かについて、思いを巡らせてみた。

 この日スターターを務めたのは以下の5人だった。

 

カイル・ラウリー(ガード/183cm)

ノーマン・パウエル(ガード/191cm)

テレンス・デイビス(ガード/193cm)

渡邊雄太(ガードフォワード/206cm)

アーロン・ベインズ(センターフォワード/208cm)

 

 最大の要因は渡邊のディフェンス力だったと思われる。これは渡邊が試合後の会見で言っていたことだが、「もともと相手の4番ポジションはジェレミー・グラントが来ると思っていて、彼がエースプレーヤーですし、そこを任されていた」のが、結果としてグラントが故障欠場したことで、代わって入ったサディック・ベイとマッチアップすることになった。

 ベイは今シーズン第8週の週間最優秀プレーヤーに選ばれたシューターで、「チームとして絶対に打たせてはいけないと言われていた」という。こうしたコメントから、ディフェンス面で相当な渡邊には相当な信頼が寄せられていることが感じられる。

 もう一つのカギはリバウンドだ。ベンチ入りしたプレーヤーは12人いたが、200cm以上のプレーヤーはベインズ、渡邊の他にクリス・ブーシェイ(206cm)と急きょGリーグのラプターズ905から呼び寄せたドンテイ・ホール(208cm)の2人だけだった。リバウンドがチーム課題でもあるラプターズは、サイズで勝負できるこの4人から最低2人をスターターに起用したいと考えただろうことが推察できる。

 まず、チームとのなじみという点で、Gリーグからのコールアップであるホールをいきなりスターターに起用することにためらいがあるだろうことはわかる。ベインズ、ブーシェイ、渡邊から2人を選ぶとしたら、そのポイントは何か。

 彼らはこの日の試合を終えた時点までで以下のとおり、36分換算の平均リバウンド数がチームのトップ3という顔ぶれだ。

 

ブーシェイ 10.1本(チーム1位)

ベインズ 9.9本(チーム2位)

渡邊 9.5本(チーム3位)

 

 この数字だけを見れば、この3人から2人選びたいだろうことは推察できるが、どの2人が出ても大差がないということになる。では大きく異なる点は何かというと、その一つはスターターとしての経験値だ。この点では、この試合で今シーズンのスターター出場が25試合目というベインズが最もわかりやすいチョイスとなる(ブーシェイは2試合、渡邊はこの日が初)。

 

ディフェンス勝負なら渡邊、打ち合い指向ならブーシェイ

 

 となれば残る1人に渡邊かブーシェイかを選ぶことになるが、二人の大きな違いは得点力だった。リバウンド同様に36分換算の数字を比較すると以下のとおりだ。

 

ブーシェイ 20.3得点(チーム2位)

渡邊 8.1得点(チーム13位)

 

 ここにきて得点力がモノを言うか…。とすればブーシェイを選びそうだが、結論は渡邊だった。このような見方をすると、得点面の負担をバックコートのパウエルとラウリーに相当な部分期待していただろうことが感じられる。実際にパウエルはこの日、キャリアで2番目に高い数字となる36得点を記録し、ラウリーの21得点と合わせてチームの総得点の半分以上を稼いだ。これはねらいどおりだったのではないだろうか(控えに回ったブーシェイもこの日18得点で期待どおりの活躍だった)。

 ブーシェイではなく渡邊をスターターに起用したのは、序盤にオフェンスでのスパートではなくディフェンスでのストップをベースとした展開を望んだからだろう。これはブーシェイと渡邊の良し悪しではなく、ディフェンスを指向した決断に沿ったものだったと思われる。

 そのようなゲームプランだったとすると、ウェイン・エリントンの3Pショットとメイソン・プラムリーのインサイドプレーを軸としたピストンズに第1Qに43得点を奪われたことは大きな反省材料だ(このクォーターのスコアは43-37でピストンズリード)。

 ベンチの考えとは裏腹に試合展開がオフェンス指向の展開になったことを、チームとしてどのようにとらえるか。それによって日本時間3月5日(木=アメリカ時間3月4日の水曜日)の対ボストン・セルティックス戦におけるスターターのチョイスが変わるのかもしれない。同日午後1時30分付のインジャリー・レポートでは、前日と同じ5人が「OUT」となっている。前述の考え方に沿えば、ディフェンス指向ならば渡邊が前日に続いてスターターだし、その指向を変えるならブーシェイが出てくるのだろう。

 セルティックスは現在18勝17敗でイースタンカンファレンス4位。ピストンズに敗れ17勝18敗で8位に位置するラプターズとしては、前半戦の最終戦でもありぜひとも勝っておきたいところだけに、どんな考えで臨んでくるか注目だ。

 

文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール) 



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