月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2021.01.28

セカンドユニットを軸に“チーム”で上回った川崎が負けられない一戦を制す

 Bリーグ2020-21シーズン第18節。東地区3位のサンロッカーズ渋谷を同6位の川崎ブレイブサンダースがホームに迎えての一戦を訪れた。

 

 今季の東地区はだい17節を終えた時点で8割越えの圧倒的勝率を誇る宇都宮ブレックス(24勝5敗/.828)を筆頭に7位のアルバルク東京(17勝12敗/.586)までが勝率6割に迫る大混戦。仮に東地区からチャンピオンシップ(CS)のワイルドカード2枠が決まったとしても上位7クラブのうち、最低2クラブはCSに進出することすらできないのだから、両クラブ共に1試合たりとも落とすわけにはいかない。

 

攻防にアグレッシブに攻め立てた藤井

 

セカンドユニットが起点となって浴びせた「先制パンチ」

 

 そんな重要な一戦は第1Qから大接戦となった。エーススコアラーであるライアン・ケリー不在のSR渋谷は、コートの5人がボールをうまくつなぎ、序盤はインサイドのチャールズ・ジャクソンを起点に得点。対する川崎はキャプテン篠山竜青がファーストポイントを挙げるとニック・ファジーカスらも続き、最初の10分間は19-19と全くの互角。

 

 拮抗した試合展開の中で違いを生み出したのはセカンドユニットの活躍だ。川崎のこの日のスタメンは篠山、ファジーカス、辻直人、長谷川技、パブロ・アギラールの5人で、ベンチには藤井祐眞、ジョーダン・ヒース、マティアス・カルファニらが控える。この強力なセカンドユニットが試合の流れを引き寄せる上で大きな役割を果たしたことは、ベンチプレーヤー得点50対31という数字を見ればお分かりいただけるだろう。総得点の6割近くを稼いだベンチメンバーの活躍もあり、この重要な一戦は86-73で川崎が制した。

 

 川崎のスコアリングリーダーはカルファニの14得点で、そこに藤井の13得点、ヒースの11得点といずれもセカンドメンバーが続く。得点こそ少ないが、効果的なタイミングで3Pシュートをねじ込んだ熊谷尚也(2本/6得点)と大塚裕土(1本/3得点)の活躍も見逃せない。ディフェンス面でも藤井を筆頭に食らい付き、SR渋谷のミスから20ものターンオーバーポイントを稼いだ。このパフォーマンスには川崎・佐藤賢次HCも「プレッシャーディフェンスを信条としているチーム同士の戦いということで、一つ一つのバトル、プレッシャーやディナイなどの目の前のバトルに全員が勝とうということを伝えて試合に臨みました。できる場面もできない場面もありましたけど、藤井のスティールが物語っているように、良いディフェンスができる時間があって、それが良いオフェンスにつながりました」と安堵。

 

佐藤HCの言う「先制パンチ」がこの試合では効果的だった

 

 佐藤HCはこのところ選手たちに「先制パンチを相手に与えよう」という言葉を繰り返し伝えているそうで、この試合は前半から相手以上にディフェンスで当たっていったこと、セカンドユニットで先にリズムを作ったこと、第3Q初めには要所で使ってきたビッグラインナップをいきなり用い、SR渋谷を混乱させたことなどの見事な先制パンチを何発も浴びせた。

 

 SR渋谷としては川崎の先制パンチを受けてしまった形に。「簡単にやられたイメージはそこまでなくて、(川崎と戦う上で恐れていた)想定内のことが起きたと思います。ターンオーバーの多さと質の悪さが話にならないです」と伊佐勉HCも肩を落とした。

 

 カルファニとヒースがようやく復帰した川崎にとしては後半戦で巻き返しを図る上で、この試合を一つの弾みにしたいところだ。敗れたSR渋谷としても現時点での地区3位が安泰ではないという危機感を改めて強めるきっかけとなったはず。同日の試合でA東京、富山、秋田、千葉が勝利したため今節での順位変動はなし。最終盤まで東地区のCS進出争いからは目が離せない。

 

 

長いリバビリを乗り越え、ホームのファンと笑顔で再会することができた

 

約3か月ぶりのホーム復帰戦となったカルファニ

「コートに立ってチームの勝利に貢献できた」

 

 この試合でMVPに選ばれたのはマティアス・カルファニだ。川崎2シーズン目のビッグマンはビッグラインナップの一翼を担うキーメンバーとして活躍していたが、開幕から間もない10月24日の信州ブレイブウォリアーズ戦で左足底筋膜断裂という厄介なけがに見舞われた。苦しいリハビリを積むこと約3か月。やっとの思いでその期間を乗り越え復帰を果たしただけに、久しぶりのホームゲームでの勝利は格別だった。「戻って来られて純粋にとてもうれしいです。離脱している間、(試合のときは)コートの外にいたのでチームの助けになれない期間が続いていました。今日はコートに立ってチームのために貢献できたのがすごくうれしいです。自分が求められているのはエナジーを持ってきてハードにディフェンスをすること、オフェンスで起点になることだと思っていて今日はそれをチームのためにできたし、しっかりと勝利につながったので自分の評価にもつながった」とカルファニ。

 

 

 昨季、彼に初めて取材をした際にも「チームとして良いシュートが打てているか、良いパスが出せているかが重要」(2020年11月16日vs.横浜)と話しており、常に“チーム”という言葉を強調してきた。この日の会見でもそれは変わらない。「自分のスタッツよりもチームの勝利を重視するのが僕の考えで、今日はスタッツも良かったのでそれがチームの助けにもなったと思います。チームのためにやれたことが大事なことだと思っているので、チームがボールを持ってアタックしてほしいと言うのであれば起点にもなりますし、アタックした後にパスを出してほかの選手のためにシュートをクリエイトしてほしいと言うのであればそれも自分ができること」と、献身的な姿勢はブレない。ここまでの2つのコメントの中だけでも“チーム”という言葉を7回も口にしており、会見全体でも数え切れないほど“チーム”という言葉を強調した。

 

マティアス・カルファニ(川崎)の貫かれる献身性「自分のスタッツが伸びなかったのは、チームの調子が良かったから」

 

 この試合のカルファニの出場時間は14分47秒と決して長くはないが、一度コートに立てばアグレッシブにリングに向かい、3Pシュートやフリースローでも着実に点を積み上げた。結果的にそれが川崎のリズムを生み出す起点となったわけで、この貢献は前述したカルファニの言葉通りだ。佐藤HCも「マティアスの活躍は想定内の部分もあるし、思っていた以上にやってくれた部分もあります。時々、僕らの予想をはるかに超えるプレーをしてくれるところが彼の一番の強みだと思います。例えばハンドオフフェイクをしてスルッと中に切り込んでいったりとか。ずっとリハビリを続けてきた中で練習でもあれくらいはできているので、トータルの出来では想定内です。でも、もっともっと良くなると思います」とカルファニの復帰を喜んだ。

 

 ようやく戦力が整った川崎。チームを大切にするカルファニと共にあとは上がっていくだけだ。

 

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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