月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.01.26

I'm always locked in(常に集中しています) - 堅実な貢献をもたらす渡邊、カギは準備にあり

 

今シーズン最長21分越えの出場で勝利に貢献

 

 渡邊雄太(トロント・ラプターズ)のここまでをどう評価するかは、期待する内容によって相当に違ってくるかもしれないが、すでにNBAで通用するかどうかを議論すべき段階にないのは間違いないだろう。やっていることはこれまでと変わらないが、キャンプイン以降急激にチーム内外の評価が高まった。明らかに渡邊はそれを自ら勝ち取っている。
1月24日にインディアナポリスで行われた対インディアナ・ペイサーズ戦での渡邊は、好評価につながった要素を凝縮したようなプレーを見せた。今シーズン最高の21分2秒間の出場で3得点、6リバウンド、2アシスト、1スティールに2ブロック。とりわけ大きなニュースになるような数字が一つもないのに、渡邊なしで107-102の勝利を手にすることができたかと言えばそうは思えない存在感だった。
カギとなっているものの一つは、渡邊が常に準備ができているという事実だ。プレシーズンの日程を終えツーウェイ契約を結ぼうという段でニック・ナースHCが言っていた「彼は不調の試合が一度もなかった」というコメントが思い出される。現状、いつ出番が来るかはわからない。にもかかわらず、いつコートに送り出しても内面の乱れもなく、懸命なプレーでチームに力をもたらす。この日もそうだった。
試合後、会見に応じた渡邊の表情は明るく、若きアスリートのオーラが伝わってくるようだった。試合前の準備についてやはり記者から質問が飛んだ。それに対し渡辺は「一生懸命取り組んで、常にジムにいて試合に向けた準備をするのが僕です。普段から、試合に出ようが出まいが、ベンチに座った時点で準備はできていますよ」と歯切れよく答えた。「常に集中して、起こっていることを把握しています。ルーキー時代からそうでした。過去2年間は機会がなかったですが、ここではもらえているのでしっかり掴みにいかないと。出場できない試合でも集中して、気を散らさずにいこうと思っています」
このやり取りは英語で行われており、渡邊の回答は以下のような表現だった。
“I'm a hardworker. I'm always in the gym getting ready for the game. Normally(whether I)play or not , I'm already ready when I'm sitting on the bench. I'm always, like, "locked in", always know what's going on. I've been doing this since my rookie year. Last two years I couldn't have an opportunity like now. My opportunity is right there so I've gotta go grab it. I've just gotta keep locked in, stay focused even in the game I'm not playing.”
渡邊が使った「locked in」はカギのかかった場所に閉じ込められるようなイメージの言葉で、辞書で引いてもそんな方向性の訳がでてくる。NBAのプレーヤーたちがよく使う表現で、内面的に何かに照準が定まった状態を指すようだ。こんな表現を使うあたりもやっぱりNBAプレーヤーだなと思わせる。

 

高評価のポイントは勝てることと3Pシューティングの向上

 

 ラプターズはここまで7勝9敗(イースタンカンファレンス9位)だが、渡邊が出場しなかった試合で0勝6敗だということに何らかの意義はあるだろう。ナースHCとしたら、ここが最も大きなポイントかもしれない。出場した10試合(7勝3敗)では平均10.5分の出場時間で1.7得点、2.9リバウンド、0.4アシスト、0.3スティール、0.8ブロック…と、目を引く項目は3Pショット関連だ。成功数(平均0.5本)、アテンプト(同1.2本)、成功率(41.7%)ともキャリアハイとなっている。これも大きなプラスだろう。ちなみにリバウンドとブロックもキャリアハイだ。
もう一つ、この日の試合で渡邊の好評価につながるだろうポイントは、ポイントガードとマッチアップできることだ。スモールフォワードのダグ・マクダーモットに対応した時間帯もあったが、サイズがある渡邊(206cm)がクイックネスに長けたNBAのプレーメイカーたちを守れるのは大きい。特に後半、マルコム・ブログドンとマッチアップして大いに苦しめたのは勝負に直結する出来事だったのではなかろうか。渡邊自身、「小柄な相手を守るのも慣れている」と会見でも自信をのぞかせた。
ブログドンといえば、渡邊が大学時代一番の思い出に挙げる試合(2年生時、当時全米6位の対バージニア大に勝利した試合)で対戦した相手でもある。2人のマッチアップを見て当時を思い出していたファンもいたことだろう。あれから5年以上が過ぎ、どちらも最高峰でプレーしている。今から5年後にどんな飛躍を遂げているか、それもまた楽しみだ。

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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