月刊バスケットボール6月号

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2021.01.18

NCAAディビジョンIと日本をつなぐ女性コーチの生き方 - ロバート・モリス大アシスタント 森田麻文(3)

ロバート・モリス大(以下RMU)で日本のコーチとしてはまれな経験を積んできた森田麻文Aコーチの言葉からは、学生のプレーヤーとしての成長以上に人間形成のサポートに向けた意欲が伝わってくる。最終学年を迎えている池松ほのかについてはどんな思いを抱いて見守っているのだろうか。そして自分自身の究極のゴールは…?
取材・文/柴田 健(月バス.com) 写真/RMU WBB

 

チャーリー・ブスカイアHC(左)の指導・育成方針から、森田Aコーチは多くを学んでいる


最終学年の池松ほのかには「自分が納得できる時間を過ごしてほしい」

 

――RMUでコーチB(チャーリー・ブスカイアHC)からはどんなことを学んでいますか?
森田 コーチBは「自分はこういうコーチだ」というのをしっかり確立しています。チームでは日々いろいろなイベントが起こりますが、そこがブレることなく対応していくことの大切さ感じます。彼は、「学生アスリートなら勉強もしっかりして、バスケットボールも一生懸命やりましょう」というスタイル。いくら上手でも、チームのベストプレーヤーでも、いないとまったく違うチームになってしまうような選手でも、学業をさぼっていたらドレスアップさせません。
ヘッドコーチという仕事は負けたらクビになる可能性がありますよね。でも彼はチームカルチャーの基盤を大事にするので、どんなにいい選手に対しても「見たくないことを見て見ぬふり」をしません。過去をさかのぼれば何回か、「あれ、あの子は何でいないの?」みたいな試合があると思いますが、不思議なことにそんな場合でも、筋を通してやっているとチームがレスポンスしてきて、結局ベストプレーヤーがいなくても勝ってしまったり、勝てなくてもコンピートできるんです。長い目で見ると、ベストプレーヤーだからといって好き勝手をできるのではなく、チームの一員だという責任感が生まれたり。そういうところがコーチとしてすごいと思います。
――今シーズン、最終学年の池松選手にはどんなことを期待していますか?
森田 選手としてどうなってほしいかは各々に対して期待値があり、こういうふうにやってほしいとか、こういうところをうまくなってほしいというのがあります。でもほのかに関しては、好きでバスケットボールをやっていて、アメリカに来たいと言ってここにやって来ているのですから、大事なのは彼女がこの1年間をどう過ごしたいかということです。彼女自身が納得できること。周りがどう言うかではなく自分が納得できるかどうかが大事だと思います。
好き勝手にやってよいという話ではなく、自分がどういうふうな4年生でありたいのか、どういうふうなチームの一員でありたいのか。人間形成の部分が大きいかなと思います。
これから先どうなるかわかりません。(コロナもあって)日本に帰って就職するかもしれないし、バスケットボールを続けるのかもしれないという中で、4年前の自分と今の自分を比べてどう感じるか。いいところも苦手なこともたくさんあるけれど、苦手だった部分を克服できたのかどうか。
バスケットボールのことは自然についてくる話です。プレーについてはもちろん話をしますし、シューターなのでどんどん打ってほしいし、入れてほしいのですが、本当に大事なのはメンタル。人間としてどうか。リーダーになりたいと1年生のときに言っていた彼女が、今、当時描いたリーダーになれているのかどうか。
(今シーズンは池松にとって)どこまでいっても苦しいシーズンなんだろうなと思います。「楽しい、楽しい」だけで過ぎるのは1年生のときだけですよ。2年生からは、悪い意味ではなくて、頑張ることが増えて苦しい思いをすることもたくさんでてきますが、それが結局本人にとってはすごくいいんです。
――最後に、ご自身の未来像について教えていただけませんか? どんな存在を目指しているのでしょうか。
森田 ヘッドコーチになりたいなというのをよく考えるようになりました。アシスタントも長いことやらせてもらって、いろんなことができるようになったり、責任を持たせていただいたり。でもヘッドコーチになってみないとわからないことがたくさんあります。
ただ、コロナの現状でアメリカのカレッジ・アスレティックがどうなるのかは誰にも想像ができないので、どこで、どういうタイミングで、とかはわかりません。いろんなことが変わります…。今年はどうしたって、過去7年間で経験したことのないシーズンになりますし。チームの運営に関しても、今まで考えなかったことを考えるようになりました。また新しいことを勉強させてもらっている1年ですから、将来ヘッドコーチになりたいという思いを持って、ステップアップできるように頑張りたいと思います。


ペンシルバニア州アレグアニカウンティーのルールに沿った形で進行しているRMUは、11月・12月で練習できた日数が10日間ばかりだったという(取材を行った12月21日時点)。ルールは日々変わり、それだけではなく試合日程や対戦相手が直前で変更になったり、試合自体の延期・中止も全米各地で起きている。
池松ほのかも話していたように、シーズン初戦2日前までは選手たちが隔離状態で、外で体を動かすことさえ禁じられていた。日本よりも厳重な行動制限がある中、チーム関係者は週3回のアンティジェンテスト(ウイルスが体内に存在するかどうかを調べる抗原検査)を受け、それで陽性ならさらにPCRを受けるという。ただ、幸いにも取材時点でチーム内にコロナ陽性者は出ていないと森田Aコーチは言っていた。
森田Aコーチが自身の未来像を描きながら本場アメリカで体験していることは、今後日本のバスケットボール界で生きてくるにちがいない。健康第一で活躍してくれることを願い、注目していきたい。

 

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ロバート・モリス大公式サイトの森田Aコーチプロフィール

 

(月刊バスケットボール)



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