月刊バスケットボール5月号

【ウインターカップ2020】東山、まだ見ぬ日本一をつかむまで

日本一。

 

東山にとっていまだ超えられぬ高い壁だ。決勝に進出したことは今回のウインターカップを含めて3回。最初の2回は現富山グラウジーズの岡田侑大を軸とした2016年のインターハイとウインターカップだ。

 

前者は7点、後者は3点と接戦を繰り広げながらもあと一歩優勝には手が届かなかった。それだけに今大会に向けて大澤徹也コーチも選手たちも『絶対に日本一を取る』という決意を持って臨んできたのだ。決勝に勝ち上がるまでに何度か東山の選手にも話を聞いたが、その中で最後に出てくるのは「絶対に優勝したい」という言葉。

 

その目標を果たすべく、並み居る強豪を破って決勝戦まで勝ち上がったのである。今大会を迎えるにあたって、東山は見慣れた黒と赤のユニフォームをデザインともども一新。ベースのカラーはこれまで同様だが、半袖仕様だった従来のものをタンクトップ仕様に変更し、差し色として金のラインを首元にあしらった。「今年はコロナ禍でうまくいかなかった部分もありますし、府予選で洛南に負けたりして、何かを変えたいなと。もう一回、日本一を目指そうという意味で、今大会からあの部分(首元)だけ金色にしたんです」と大澤コーチ。

 

 

ユニフォームとは選手にとって“戦闘着”である。内に秘める闘志のほかにも、形として日本一へ向けた覚悟を決めた。東山の、大澤コーチの決断はそれを象徴するかのようだった。

 

迎えた決勝の相手は東山にとっての因縁の相手、福岡第一を破って勝ち上がった仙台大明成。試合経験に勝る東山は、序盤から#11米須玲音が軽快にボールをコントロールし、明成のゾーンディフェンスを突破。相手の高さと長さに苦戦する場面も見られたが、#4西部秀馬と#7中川泰志がウイングを駆け抜けてはレイアップを沈め、リードを広げていった。

 

4Qを控えてその差は 13点(55-42)。ようやく日本一の頂が見えてきたかと思われたが、この4Qで悪夢が待っていた。

 

「明成さんは今大会中ゾーンを武器にしていたので、ウチとしては走り合いに持って行きたかったんです。前半は少しそれができたけど、ゾーンの攻略に時間がかかって迷いが生じてしまいました。それも明成さんの作戦だと思いますが、それによってウチの思い切りの良さが消えてしまった」と大澤コーチが振り返った試合展開が、最後の最後で響いてしまった。

 

連戦による疲れも当然あったが、突き放した時間帯にさらにもう一段ギアを上げる東山得意の展開に持ち込めなかったのには、ボディーブローのように効いた明成の緻密な戦術とサイズアップを一つの武器として戦ってきた東山をも上回る高さと長さ(スタメン平均は東山189.4cm、仙台大明成191.8cm)が影響していたはずだ。

 

結局4Qは15-30と完全に後手に回り、残り5秒には#8山﨑一渉にミドルジャンパーをねじ込まれ、70-72で無情にも試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

2点、たった2点だが、その差はあまりにも大きいものだった。大澤コーチと米須が床に崩れ落ちる姿と明成の選手たちが歓喜に沸く姿はその差を物語っている。

 

 

それでも、東山にとって達成できた目標もあった。それは『最終日まで試合を楽しむ』ことだ。コロナ禍で一時は開催自体が危ぶまれたウインターカップが無事に開催され、難しい決断がったにせよ、決勝までしっかりと終えることができた。その過程で、厳しいドローをなんとかかいくぐって決勝のコートに立ったことについては米須も「高校生として最後までバスケットができたことには感謝しています。決勝戦は(予選で敗退して)今大会に出られなかったチームやコロナの影響で出場を辞退したチームのためにも楽しんでプレーしようというのをチームでも話していて、そういう面ではしっかりと楽しんでみんなで一丸となってやれました。最後は負けてしまったけど、僕自身、高校3年間で成長した部分、身に付いた部分はたくさんありましたし、大澤先生や保護者の皆さん、関係者の皆さんに感謝したいです」と、満足げな表情で大会を振り返った。

 

大澤コーチにとっても、時に厳しく叱り付け、時に愛を持って優しく接してきたチームが今大会の東山だ。手塩にかけて育ってきた選手たちが、敗れはしたものの決勝の舞台で存分に活躍した今大会は楽しいものだった。

 

「この子たちも私も1日1日試合が楽しい」

 

準々決勝後と決勝後、大澤コーチが口にした言葉だ。それだけ楽しんで、楽しんでチームとして最高の舞台に立てただけに、あと2点は悔やんでも悔やみきれないものかもしれない。結末だけ見れば、東山にとって2020年は最後までつらい1年だったかもしれない。しかし、この1年で彼らが示してきた成長の跡は見る者全員の記憶に深く焼き付いている。

 

激闘から少し日が経過し、2021年を迎えた現在、東山の選手たちが何を思うのか。それは我々には分からないが、3年生はこの先の未来へ向けて、1、2年生は新チームでの日本一を目指してきっと歩みを進めているに違いない。ユニフォームの首元にきらめく金色のラインはまだ見ぬ日本一をつかんだとき、本物の輝きを放つのだ。

 

 

写真/JBA
取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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