月刊バスケットボール6月号

選手間の競争激化で期待高まる車いすバスケ女子代表

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、3月から活動を中断していた車いすバスケットボール日本代表。男子と同様に女子が再始動したのは7月のこと。現在は、2021年に控えた東京パラリンピックに向けて、本格的なトレーニングを行っている。5大会ぶり3度目となるメダル獲得を目指す女子日本代表の現況について、月刊バスケットボール2月号(12月25日発売号)に掲載した岩佐義明ヘッドコーチ(HC)のインタビューを紹介する。

 

文・写真/斎藤寿子

 

岩佐義明 1958年1月6日生まれ。宮城県出身。大学まで健常のバスケットボール部でプレー。1989年から車いすバスケのクラブチーム「宮城MAX」で指導。2017年までHCを務め、現在も続く日本選手権11連覇の礎を築いた。日本代表HCとしては2008年北京大会で女子、2012年ロンドン大会で男子を指揮した。

 

データ分析から見えた“プラス10得点”の可能性

 

 約4か月に及んだ自粛期間中、岩佐HCは「この1年をどう過ごすかだぞ ! このチャンスを逃さずに、みんなで踏ん張ろう !」と言い続けてきた。とはいえ、岩佐HC自身にもやはり不安や悩みはあった。しかし、それを払拭させてくれたのが選手たちだったという。合宿が再開となった7月、選手たちは本当に楽しそうに思い切りバスケ車で駆け回り、ボールを追い掛けていた。その姿に、岩佐HCは「よし、ここからだ !」と思えたのだ。

 

 自粛期間中は、岩佐HCとスタッフで改めて過去のデータを分析。その結果、浮上したのは「プラス10得点の可能性」だ。それを実現させるため、現在チームが取り組んでいるのは「ディフェンスの強化」と「フィニッシュの精度を上げる」ことだ。岩佐HCは、この意図をこう説明する。

 

「ディフェンスに関しては、非常に成長を感じていますが、さらに強化し、相手により多くのタフショットを打たせれば、もっと自分たちのオフェンスのチャンスが増える。そして、フィニッシュの精度を高めれば、もう10得点はプラスできる。ビデオを見ていて、まだまだチームは伸びると感じました」

 

 特に重要とされているのが、これまでも課題だったフィニッシュの精度だ。高さもパワーも勝る海外勢相手に、ミスマッチやフリーでのシュートシーンはほとんど期待できない。だからこそ“大事な局面でのタフショット”の確率を上げることが重要となる。そこを改善すれば、善戦で終わっていた試合も勝ち切ることができるとにらんでいる。合宿では岩佐HCが提示した高い基準のシュート成功率をクリアした日もあるなど、徐々に成果が表れている。選手個々の成長に感じられる意識の高さ

 

 さらに、選手個々の成長も著しく、チーム内競争は激しさを増している。例えば、これまでプレータイムが短かった小田島理恵。岩佐HCは特に「気持ちの部分でこれまでと違う」と感じていると言い、リーチの長さを生かした動きやスピードがアップし、課題だったディフェンスでも1 on 1でしっかりと対応できるようになってきた。また、昨年は12人のメンバーから外れ、苦しんできた鈴木百萌子は車いすの高さを変えて、より高さを生かしたプレーを追求している。この新たな挑戦に指揮官は「センタープレーヤーとしての自覚がより出てきた」と奮起を期待している。

 

「そのほか、ベンチを温めることが多かった財満いずみもすごくいいですよ。パスの精度、スピードもそうですが、何よりシュート力が非常に安定してきた。持ち点1.0の彼女が試合の中でシュートを打つことは決して多くはないですが、少ないチャンスをほぼ全て決めてきますからね」と岩佐HCは語る。

 

 

 もちろん、主力もあぐらをかいてはいない。例えば、チーム一の得点力を持つ網本麻里。10代の頃に彼女を代表に抜擢した頃からの付き合いでもある岩佐HCは「さらに上を目指しなさい、とハッパを掛けています」と言う。相手から最も厳しくマークされることは想定内で、それでもどこからでもシュートを決め、ボール運びもし、ガードとしての役割もこなす。そんな“最上級のオールラウンダー”になれるだけの素質がある、と指揮官は期待している。そして今、その片鱗が見え始めてきたと感じている。

 

「そのほか萩野真世も2ランクほどもレベルアップしていて、よりチームに欠かせない選手となっています。また若い選手も伸びてきていますし、チームは非常に活気付いています」

 

 12年前の2008年北京パラリンピック、岩佐HC率いる女子日本代表は4位とあと一歩のところでメダルを逃した。それ以来、パラリンピックに出場すらできずに苦しんだ女子日本代表。東京パラリンピックは3大会ぶりの出場となる。18年に10年ぶりに女子の指揮官に就任した岩佐HCとともに、再び挑む“世界最高峰の大会”。北京での忘れ物を必ず取り戻すつもりだ。

 

(月刊バスケットボール)



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