月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2021.01.03

琉球ゴールデンキングス、千葉ジェッツのB1王座獲得のカギ

 2021年の正月、ありがたいことにバスケットボールは全国各地で最高峰のプレーを楽しむことができる環境ができあっている。1月2日に行われたBリーグの公式戦はB1が9試合、B2が7試合の計16試合。その中でも注目の対決といえる千葉ジェッツ対琉球ゴールデンキングス戦の会場、船橋アリーナに足を運び両チームの王座獲得へのカギを探った。
取材・文=柴田 健/月バス.com 写真=©BLeague

 

 

千葉の豪快トランジション・オフェンスに「待った」

 

 千葉は試合前の時点で、21勝4敗の成績で東地区単独首位。前節で大阪エヴェッサに黒星を喫するまで11連勝していた。小野龍猛(信州ブレイブウォリアーズ)やマイケル・パーカー(群馬クレインサンダーズ)ら馴染みのスターがチームを去ったが、ギャビン・エドワーズや新加入のセバスチャン・サイズらパワフルなフロントラインが猛然と攻め上げてくるトランジション・オフェンスの破壊力はこれまでと変わらない。富樫勇樹や西村文男ら運動能力にも判断力にも長けたバックコート陣が操るハーフコートゲームも見ごたえ満点だ。ここまでの総得点2296(平均91.8)と得失点差333(同13.3)はどちらもリーグトップだった。
対する琉球も西地区で首位争いの真っただ中。18勝7敗は西のトップを走るシーホース三河と同率だった。前節は川崎と星を分けたが、年内最終戦は勝利で終えた。こちらは総失点1853(平均74.1)がリーグ3位であり、開幕節の宇都宮ブレックスとの2試合こそ連敗を喫したが、その後11月14日に信州に敗れるまでこちらも11連勝を記録し、その後も連敗なくシーズンを過ごしてきていた。

 2,268人の観衆が集まった東西の強豪同士の激突。千葉は故障の佐藤卓磨に代わってシューティングガード、スモールフォワードの役割で赤穂雷太を先発起用した。4番で使われてきた赤穂がプレーの幅を広げるために意欲を見せているポジションだ。
試合はティップオフ後ジェッツのポゼッションで始まり、序盤はやや琉球ペースかと思われた。並里 成がトントンと2本ショットを決め、ジャック・クーリーがいつものようにリバウンドに食らいついていた。第1Qの15-11(琉球リード)というスコアに千葉らしさはない。琉球ディフェンスの前に千葉はサイズが唯一の得点源。11得点すべてがサイズによるものだった。
「“やや”琉球ペース」と書いたのは、千葉のディフェンスに戸惑わされた琉球のスリーがことごとく落ちていたからだ。第1Qは残り3秒に岸本隆一が成功させるまで0/10。もしもこのうち3割決まっていたら序盤で一気にゲームを持っていけたかもしれないが、そうはならなかった。
第2Q、千葉が調子をあげてきた。サイズ、エドワーズ、原 修太、ジョシュ・ダンカン、藤永佳昭と5人が得点を記録し、富樫は得点こそなかったが小気味良いドリブルとパスワークで4本のアシストを記録した。
琉球は相変わらずスリーが入らない。第2Qに放った6本すべてが外れ、ここまで1/17。それだけディフェンスを頑張った千葉がペースを奪い、前半終了時点でスコアは33-27の千葉リードに変わっていた。

 

 

勝負どころでスリーが炸裂した琉球

 

 後半最初の得点はサイズのスリーだった。この試合、千葉も決してスリーが入っていたわけではなく、前半は8本のアテンプトで原の1本が決まっただけだったが、いよいよ波に乗るか…。しかし並里がミドルレンジから1本返したあと、珍しいプレーを挟んで流れが琉球に戻ってきた。コート外に出そうになったボールを追いかけたサイズが、ボールを外に蹴りだしテクニカルファウルをとられたのだ。NBAならシャクティン・ランキング入り間違いなしの出来事に会場は笑い声に包まれたが、琉球はこのテクニカルで得たフリースローを今村佳太が決め、さらにクーリーがゴール下で2本ねじ込み34-35まで詰め寄った。
やや緩んだディフェンスを千葉は再度引き締めにかかったが、琉球はしぶとく攻め、リバウンドに食らいついた。このクォーター終盤にはついにスリーも入り始める。残り2分37秒に45-46と1点差に迫った満原優樹の一撃は、コーナーへのキックアウトからウイングで待つ満原へとお手本のようなパス回しから生まれた。残り12秒、53-51とリードを取り戻した岸本のスリーは、力強い1対1で“キキ・ムーヴ”からぶちこんだもの。思いきりの良さが結果につながった。千葉は富樫から原へとつなぐみごとなアリウープでクォーター終了前に53-53の同点に追いついたが、流れは琉球だった。
最終クォーター最初の得点は、その流れを象徴するように今村のスリー。それでも残り3分台まで目が離せない接戦が続いたが、74-67とした残り3分20秒のクーリーのプットバックと、残り2分59秒に77-67とリードを二桁にした今村の第4Q2発目のスリーが琉球に主導権をもたらした。最終的にスコアは80-70の琉球勝利。千葉は今季初の連敗だ。
個人的な数字では、琉球はクーリーが25得点、21リバウンドのモンスターゲーム。ドゥエイン・エバンスが12得点に10リバウンド、並里が13得点、今村がスリー3本を含む10得点を記録した。千葉ではサイズの24得点、15リバウンドが際立つ。

 

 

富樫を無得点に封じた琉球D

 

 試合後、琉球の藤田弘輝HCは、まず開口一番「皆さん、明けましておめでとうございます」と年初の挨拶をし、「土曜日を取りにいこう」というスタンスで臨みチーム一丸となってつかんだ勝利を振り返った。千葉のトランジション・オフェンスへの対応では、「走ることはクーリー選手のストロングポイントではないので、そこをカバーするように頑張りました。結果、日本人が(外国籍の)ビッグマンにバンプするようなプレーができました」と手応えを感じていた様子。課題として「悪くなると全体でシュンとしてしまう」点を挙げ、翌3日の試合に向け気を引き締めなおした。
スリーの波はどんな理由だったのか? と問うと、「前半、千葉のディフェンスがインサイドに寄っていて、ペイントに入ってキックアウトしてからのクローズアウトに対して迷ってしまいました。ハーフタイムに、開いていたら思いきりよく狙おうと伝えたら、今村選手がそこを受け止めて撃ってくれました。感覚的に(千葉は前後半とも)同じディフェンスをしていたと思いますが、前半迷っていたのを後半思いきりよく撃てたということだと思います」と話してくれた。同じ質問を並里にも聞くと、「前半はトップのほうでボールを持った人がやろうとして相手のディフェンスに苦しめられていたのを、後半はサイドに流していこうと話して、そこからの展開でオープンショットを撃てていた」とのこと。ベンチからのメンタル面の助言がプレーメイキングの変化と重なり、フィニッシャーに決めやすい状況を提供していたことがわかる。並里は勝因にトランジション・ディフェンスも挙げていた。千葉のファーストブレイクポイントは4にとどまっている。

 一方千葉の大野篤史HCは、「前半できていたディフェンスが後半できなかった。ネイルのスタンプ(フリースローライン近辺を固めること)、ローテーション、コミュニケーション、ボックスアウト、リバウンドまで、前半はフォーカスしてやれていたんですけど…。やりたかったディフェンスを40分間できなかった」と敗因を分析した。ここまではオフェンス面の爆発力で勝ててきたが、後半戦は同じような得点機会が与えられるとは限らないことを承知の上だ。「収穫点としては、20分できたので、あとは40分やるだけ」とあらためてディフェンスの意識を高める意欲を見せた。琉球にどこをやられたかを問うと「リバウンドです」と一言。クーリーを中心に50-33(オフェンスでは18-11)と圧倒されたこの項目を即座に答えた。
赤穂の2番・3番での起用については、課題として判断力の改善を指摘。「(求めるのが)酷ですが、経験なのでゲームの中で培っていけたらいいし、コーチ陣を通じて彼に伝えていけたらと思います」と期待を込めた言葉を残した。赤穂自身は翌3日の試合に向け、「今日はちょっと消極的なミスもあったので、オフェンス面でもう少しアグレッシブにアタックできればいいのかなと思っていました。もう一度2番・3番でチャンスをもらえるならそこを意識してがんばっていきたいと思います」
こう見ると1月3日の試合、あるいはそれ以降の試合では、スリーの安定感(両チームとも)と千葉がトランジション・オフェンスで同じ威力を維持できるかはポイントになりそうだ。千葉は後半の滑り出し改善と、ディフェンスの威力を一段高められるかどうかも大きな課題。これはチームの結束を示す指標だからだ。また赤穂が2番・3番で起用されるか、そこでどれだけできるかは、将来的には日本代表選考にも絡んでくる要素かもしれない。
琉球はこの日富樫を無得点に封じた。これは単にバックコートのマッチアップだけの力ではなく、ち密な連携と個々の奮闘が奏功しての結果だ。そして圧倒的なリバウンド力。琉球はここにチーム力の高さが表れている。
この日の結果を受け、1月3日の試合前の時点では千葉は東地区首位争いで宇都宮と並ぶ21勝5敗で2位となり、琉球は19勝7敗で西地区単独トップに立っている。Bリーグの王座獲得レースはいよいよ目が離せない。

 

 

(月刊バスケットボール)



PICK UP