月刊バスケットボール6月号

【ウインターカップ2020】正智深谷♯4太田誠が最後の1秒で成し遂げた仕事

 大会5日目。東京体育館は前日までの4面コートから、1面の“センターコート”へと舞台の装いを変えた。

 

 男子準々決勝の第1試合に組まれたのは、洛南(京都)と正智深谷(埼玉)の対戦。2年連続43回目の出場で、過去に4度の優勝経験を持つ洛南に対して、9年連続10度目の出場となる正智深谷にとって、ベスト8はこれまでで最高の成績。つまり、初めて臨むセンターコートだ。

 

 試合は、♯6藤平皓成の2本連続となる2Pで先制した正智深谷が緊張を感じさせないプレーで先行。その後、♯8大滝唯人の3Pも決まるなどして、1Qは20‐15とリードを保ったまま終えた。
2Qも正智深谷がリードしつつ進むが、中盤で洛南が♯14星川開聖のフリースローで同点に、さらに♯4西村慶太郎の2Pで逆転に成功。最後は♯5小川敦也がスティールから豪快なダンクを決めて38‐35とし、洛南が強豪校の底力を見せつけてハーフタイムを迎えた。
3Qは、ディフェンスとリバウンドで頑張る正智深谷が同点に追いつく場面もありながら、終盤、♯8大石日向が3Pを連続で決めて、洛南が57‐49とリードを広げて終了。
そして最終4Q、ゾーンディフェンスで対抗する正智深谷に対して、洛南は余裕を持って対応。点差は広がりながら、時は刻まれていった。

 

試合を通じて、洛南を時にリードし、そして終盤まで必死に食らいついた正智深谷

 

 洛南の81‐66で迎えた残り1秒。相手のファウルで得たフリースロー3本を、正智深谷の♯4太田誠がすべて決めた後、40分の戦いは終わった。
フリースローラインに立ったその時から、太田の目には涙が溢れていた。それでも、滲む視界の先に正確にリングを捉え、しっかりと仕事を全うした。

 

残り1秒、最後のフリースローに臨む太田。涙で滲む視界の先には、しっかりとリングが捉えられていた

 

 選手たちの戦いを見守った成田靖コーチは次のように振り返った。
「彼らが本当に成長したのがよく見えました。プレーもベンチの雰囲気も、いい意味で僕に関係なく、自分たちでチームを作っていったな…というのをすごく感じて、そういう意味でものすごく満足です。メインコートに連れてきてもらうこともできました。伝統は守るものではなく、塗り替えていくものだとずっと言ってきたんです。伝統を大切にしようとすると、どうしても重たくなるので。それを彼らは初めてやってくれた。すごく感謝しています」

 

2020年のウインターカップ、センターコートに立ち、歴史を塗り替えた正智深谷の選手たち

 

 そして、最後のフリースローを決めた太田についてこう語った。
「彼は1年生の時からずっと試合に絡んできて、あまりしゃべれるプレーヤーではなかったのですけれど、4番を付けたことですごく主体性を持ってやってくれました。ウインターカップに行くために学校を選んで、夢はメインコートに立つことだとずっと言い続けてきました。最後は彼で終わったのは、やはりバスケットの神様っているのかな…と思いながら見ていました」

 

 試合には敗れたが、しかし抱き続けてきた夢を実現させた太田は、高校最後の戦いを終えた気持ちを言葉にした。
「センターコートまで来られたのは、自分たちのバスケを楽しむことで、ベンチも、コートの中も外も、スタンドにいる人たちも、全員が楽しんで思いきりできたからだと思います。
今年はコロナでたいへんな1年間だったので、本当に不安でした。でも、(大会に入ったら)やる気だけなので、全力でやろうと。毎試合、毎試合、全力でやりました。
僕自身は、プレーの幅も広がりましたが、一人の人間としてあるべき姿…当たり前のことができる人間に成長したと思います」

 

 コート上のプレーは、時としてそのプレーヤーの人間性を映し出す鏡となる。最後の1秒で太田が果たした仕事は、何よりも彼の言葉を証明するものだった。

 

新たな歴史は、コートとベンチ、そしてスタンドが一体となって築かれたものだった

 

写真/JBA
取材・文/村山純一(月刊バスケットボール)



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