月刊バスケットボール5月号

【ウインターカップ2020】「あと5秒で…」。一瞬で反転した羽黒対厚木北の結末

 一晩経っても、まだその余韻は冷めない。

 

 大会初日の最終試合。3年連続4回目の出場となる羽黒(山形)と、初出場の厚木北(神奈川)の対戦は、82‐82の同点で延長戦へ。92‐90で厚木北がリードし、念願の初出場、初勝利は目の前だった。しかし、終了間際に羽黒の♯33東根翔真が放った3ポイントはリングに吸い込まれ、一瞬のうちに明暗は反転し、結末を迎えた。

 

 東根は「負けたくないという気持ちが強かったので、最後は強気にシュートしました。ずっとリングを見ていました。最後は別のシューターに渡す選択肢もありましたが、空いていたから打ったのは自分の判断。3ポイントは、ウインターが始まる前までは苦手で、大会前の1週間の合宿の朝練と夜練でシューティングの練習をしました。3ポイントラインの5か所を移動しながら、連続3本決まるまで。それを何周も。昨日の練習では結構シュートタッチも良かったので、調子いいのかなって。率直にうれしいです」と満面の笑みを見せた。

 

羽黒の♯33東根は大会前の合宿で「本当は苦手」という3ポイントシュートの練習に打ち込んでいた

 

 一方、敗れた厚木北のキャプテン、♯11濱田眞平は涙で言葉を途切れさせながら、「あと5秒で…今まで3年間やってきたものが、あと5秒で報われるというか…一つ達成できるというところだった…本当に5秒、早く終わってほしいという気持ちもあったし、集中しないといけないという気持ちもあったし…。最後、相手に入れられちゃった…一瞬で終わっちゃって、本当に悔しいです。

 

 今までは、崩れた時には崩れたままだったのが、県の舞台で崩れかけた時に、頑張ろうと踏ん張って、結局、逆転したので、今回もそのチャンスが来るというのを知っていたので、逆転しようと、やればできると思っていました。

 

 本当に頼りないキャプテンだったんですけれど、ついてきてくれたことに感謝しています。それは後輩だけじゃなくて、同じ代のチームメイトにも、本当にみんなのおかげでこのウインターカップに出場できたし、本当に自分は何もできずに、最後までみんなに迷惑かけて、それでもパスを回してくれて、信じてやってくれたので、チーム全員に感謝しています。

 

 今回、1、2年生でベンチに入ってくれた子たちも、本当に盛り上げてくれて、3年生だけじゃ絶対にここまで来れていないし、絶対に来年も狙えると…」と思いを口にした。

 

この瞬間は、厚木北のチーム全員で勝ち取ったものだった

 

 選手たちを見守り、コートサイドで共に戦った飯塚貴行コーチは、「子どもたちには何とか勝たせてあげたかったんですけれど、こういう状況(新型コロナウイルス)で試合が本当に少なかったので。一つでも長く、一つでも多く、一緒にバスケットしようという思いだったんですけれど、(コーチとして)それができなかったので、メンバー以外のいろいろな人に申し訳ない、何とかできなかったかな…と思っています。

 

 今回、試合に出た下級生は1名だけ(♯18米山麻志 2年)なのですが、誰をメンバーに入れるかというのは最後まですごく悩んで、3年生とも相談しながら決めました。この経験をつないで、1年生も2年生も頑張ってもらいたいですし、3年生も次のステージで、この悔しさをちゃんと胸に持ったまま、活躍できるような選手、人間になってもらいたいなって思います」と選手たちを慮った。

 

厚木北のすべての部員は、今回のウインターカップで経験したものを、それぞれの今後の糧にしてゆく

 

 部活に懸ける選手、そして指導者の気持ちの強さ、重さを思い知らされる、そんな試合だった。

 

写真/JBA
取材・文/村山純一(月刊バスケットボール)



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