月刊バスケットボール5月号

【ウインターカップ2020】“追われるプレッシャー”に打ち勝ち 真のチャンピオンを目指す東山

練習写真/松村健人

プレー写真/加藤誠男

 

東山は今年、勝負の年を迎えている。昨年のウインターカップ準決勝の福岡第一戦を記憶している方も多いのではないだろうか。河村勇輝(現東海大1年)を擁し、優勝候補の大本命と目された福岡第一に対して前半で10点のリードを築き、『本当に第一を倒すのではないか?』と思わせる見事な闘いぶりを見せた。

 

結果として、後半で逆転負け(59-71)を喫したが当時から主力だったポイントガードの米須玲音と230cmを超える驚異のウィングスパンと高い身体能力でインサイドの君臨するムトンボ・ジャン・ピエールにスコアラーの中川泰志を加えた3年生トリオは健在。そこに昨年の大会でケガの中川に代わって大きくステップアップした西部秀馬、シューターの堀田尚秀という2人の2年生を加えたスターターで今シーズンを戦う。

 

今年のチームの特徴について大澤徹也コーチ、そして米須が口をそろえるのが「昨年以上にサイズアップしてどこからでも点が取れる」ということだ。米須の入学以来、彼のコートビジョンとパスセンスを生かすべく、これまで以上に走るバスケットに磨きをかけてきた東山は、米須にリードされるように年々得点力を増している。

 

大澤コーチが絶大な信頼を置く司令塔の存在が東山にトランジションという新たな武器を与えたのだ。実際、得点力により磨きがかかった2月の近畿新人大会ではトーナメントの4試合全てで100点ゲームを記録し、決勝では府内のライバル洛南に対して100対66と圧倒。新チームに期待を持たせるスタートを切った。

 

しかし…。

 

新型コロナウイルスの影響で試合や練習が行えない中、例年、綿密な練習の上に成り立ってきたハーフコートオフェンスの完成の遅れなど、さまざまな出来事が起こった中で歯車が乱れ始める。当然、ほかのチームも同様に練習ができない期間が長かったが、東山にとってはこの期間がより痛手だったようだ。また、昨年の大会で注目を集め、今年の大本命と目されるがゆえの見えないプレッシャーも彼らにのしかかった。「相手と戦っているというよりも自分たちと戦っているような感じでした。勝たなければいけない宿命というか、自分たちがやっとそういうチームになってきたという自覚とそれに打ち勝たないといけないプレッシャー、追われるチームにしか味わえないようなプレッシャーの中でやっていたと思うんです」と大澤コーチ。

 

大澤コーチ自身も選手のメンタル面の管理について学ぶ期間を過ごしていた(写真は11月吉日)

 

己と戦う日々の中で11月のウインターカップ京都府予選では3年ぶりに洛南に敗北。予選前に新潟県で行われた胎内カップでも福岡第一と開志国際に敗れるなど優勝候補と呼ばれるチームには似つかわしくない結果を突きつけられる時期が続いた。ただ、この負けは悲観するものではなかったそうだ。

 

「(追われるプレッシャーに対する)覚悟がようやくできました。強がりに感じるかもしれませんが、ようやくそれを乗り越えられる段階まで来たと感じています。ウチはずっと黒のジャージやユニフォームを着ていますが『東山と言えば黒!』というイメージを皆さんに持ってもらえるようなチームにもなってきましたし、一目置かれるような存在になってきました」と大澤コーチ。

 

 

自分たちはまだ構えるほど強くない、でも追われる立場のバスケットをしていかなければならない--。そのバランスを取りながら、チームは確実に前進している。

 

米須も「予選で洛南に負けてからどこが悪かったのかを確認して練習してきたので、チームとしては上り調子だと感じています。勝っているとおごりや気の緩みも出てくるので、負けたことが良かったわけではありませんが、それぞれの意識も変わったので良い経験だったかなと思います」とプラスに捉えている。

 

米須キャプテンを軸に強度の高い練習を積み重ねてきた(写真は11月吉日)

 

今大会のトーナメントを見ると東山は左下のブロックに位置し、同じブロックには福岡大附大濠、報徳学園、桐光学園ら強豪がズラリ。それらを勝ち抜けば準決勝では再び洛南と顔を合わせる可能性もあり、勝ち上がるのは至難の業だ。

 

それでも「今年のチームは勝って兜の緒を締める感じではないです。『今お前らにはこれだけ足りないんだ』というのが予選の洛南戦で見えたので、ウチとしては背水の陣。それによって覚悟がだいぶ固まったし、組み合わせが決まってようやく目標が明確になりました。強豪ぞろいですが、何とか勝ち上がって準決勝で洛南にもリベンジしたいですし、どのカードも気が抜けない試合ばかり。でも、今年のチームにとっては気の抜けない試合が続く方がいいです」と大澤コーチ。

 

中川も「自分たちのブロックに強豪が集まっていて勝ち進むのは難しいと思いますが、逆にそこを全て倒して優勝できたら本物の日本一だと思っています」と気合十分だ。

 

そして東山が絶対に乗り越えたい相手、福岡第一が逆の山だったことも彼らのストーリーラインをよりくっきりと浮かび上がらせた。「過去2回は福岡第一に負けているので、が最後は決勝で彼らを倒したい」と米須も並々ならぬ闘志を燃やす。

 

当然、福岡第一が決勝に勝ち進むとは限らないし、まずは自分たちがそのステージまでたどり着く必要がある。しかし、敗戦を新たなモチベーションに変え、冬にピークを持ってきたであろう東山は間違いなく優勝候補の一角だ。漆黒のユニフォームをまとう彼らが、チーム史上初の全国制覇を成し遂げる日は目の前に迫っているのかもしれない。

 

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)

 

 



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