月刊バスケットボール5月号

ウインターカップ2019を戦ったあの選手の今 東山の元キャプテン脇阪凪人が描く未来図

 いよいよウインターカップのシーズンがやってきた。今年は新型コロナウイルスの影響でインターハイをはじめとする大会の多くが中止となったことで、ウインターカップの持つ意味合いは例年以上に大きい。米須玲音を中心に悲願の全国制覇を目指す東山は日々、猛練習に励んでいる。11月末、そんなチームを取材訪問した。

 

 米須をはじめとする主力と大澤徹也コーチに大会に向けた意気込みやチームの現在地をひとしきり聞いた後(取材の模様は12.25発売の最新号をチェック!)、大澤コーチは「アイツも練習を見に来てくれているんですよ」とコートの反対側に視線を移した。

 

 言われるまで気付かなかったが、大澤コーチの視線の先には昨年のキャプテン脇阪凪人の姿があった。準決勝では3Pシュート4本を含むチームハイの18得点を挙げ、福岡第一と好勝負を演じる立て役者となった脇阪は京都産業大に進学したが、バスケ部には所属していない。

 

 本気でバスケットに打ち込むのは高校までと決めていたからだ。今年2月、卒業を控えたタイミングで脇阪に話を聞いたときには将来は指導者になりたいと語っており、現在はそれに向けて勉強中だ。「大学では英語を専攻しています。指導者になるためにいろいろなことを学んでいく必要がありますが、バスケットの戦術や考え方というのは英語圏の方が進んでいて、今なんかだとネットからも最先端の知識を得ることができます。そのためにも英語力を上げていて、留学なんかもおいおい考えていきたい」と脇阪。昨年まで東山の5番を背負った彼は将来のために少しずつ準備を進めている。

 

屈託ない笑顔は在学当時と全く変わっていなかった

 

 母校に帰って後輩たちの練習を見守るのもその一環で、大澤コーチから学ぶものも多いというが、練習を見始めたきっかけはひょんなことからだった。「府予選が終わって洛南に負けちゃったので、ちょっと冷やかしに行ってやろうと思ったんです(笑)。そしたら、大澤先生から『どうせなら練習に来て後輩たちの面倒を見てやってくれ』って言われて」と経緯を明かしてくれた。

 

 脇阪としては後輩たちを元気付けようとしたのだろうが、「みんなキツそうな練習に一生懸命だったので、大丈夫そうでした」と、負けをモチベーションに変えて猛練習に励む後輩たちを前にはそんな心配は無用だったそう。こんな行動を見ると、コート上では真面目で責任感が強いタイプに見えた脇阪もいざコートを出るとどこにでもいる茶目っ気ある青年だったように映る。

 

 そんなこんなで頻繁に練習に顔を出す脇阪だが、彼は今、高校バスケを、そしてウインターカップをどう振り返るのだろうか?

 

福岡第一との準決勝は大会屈指の名勝負だった

 

「練習を見ていると自分もやりたいなぁって思いますし、去年のウインターカップのことも思い出します。今振り返ると特別な大会で今でも鮮明にあの空気を覚えていますし、思い出というか、あの空気感が心の中に刻まれていますね」と話し、東山でのバスケットについては「高校はバスケ漬けだったけど、バスケに打ち込める環境はありがたかったなって今は感じています」と続けた。

 

 まさにバスケ漬けの生活を送ってきた脇阪にとって、キャンパスライフは「時間がありすぎる」そうで、「逆に何やればいいか分かんなくて、寝るかビデオを見るかって感じで、あんまり充実していない気がしています(笑)。忙しかった高校時代の方が充実していました」と苦笑い。それだけ高校バスケに打ち込んだ日々が濃密だったのだ。

 

 ここで終わりと決めても本気で取り組んできた競技からパッと身を引くことは難しい。彼自身も大学に入学して何回かはバスケサークルに足を運んだ。しかし…「サークルには2、3回行ったんですけど、入りはしなくて。サークルのバスケも楽しいは楽しいんですけど…」。少し考え込んだ後、こう続けた。「最終的には東山の頃のような楽しみながらもバチバチしたバスケがしたいと思ってしまうんです。社会人チームに入るのも何かなぁって。東山はやっぱ楽しかったんで、どうしても比べてしまう」。本気で突き詰めてきたからそこ、どうしても東山のバスケットの熱量と比較してしまう。そうなったときに、脇阪の中でそれを超えるものは今の時点では見つかっていない。

 

東山のバスケットは脇阪にとって青春そのもの

 

 偶然にも脇阪の進学した京都産業大のバスケ部は11月28日に行われた天皇杯1次ラウンドで福岡第一と対戦した。もし脇阪がバスケットを続けていたら福岡第一との再戦も実現していたかもしれない。そうなっていたら…そこには一つのドラマが生まれていたに違いない。そんな妄想を膨らませつつ筆者は原稿を書いているが、かつて取材した選手がどんな形であれ、未来に向かって歩を進めていることがうれしいのだ。

 

 卒業前には「いつかコーチとして大澤先生と対決できたらいいな」と語っていたが、今は将来的に東山でコーチをする道も選択肢として浮かび上がっているようだ。と言っても、それは具体的な話ではなく脇阪の頭の中にある未来図の一つに過ぎない。まだ彼は大学1年生。選択肢は無限大だ。

 

「コーチとしての選手との関わり方はまだ分かっていません。試合中の気持ちを維持させるところとかは、これからどんどん(大澤コーチから)盗んでいきたいですね」と選手時代とは違った目線で大澤コーチを見ている脇阪。そんな話を聞いているうちに『…東山のベンチに入る脇阪の姿を見られるのかな?』という考えがふと頭をよぎる。

 

 失礼、また妄想が膨らんでしまった。

 

 兎にも角にも東山の目指すところは日本一ただ一つだ。それは脇阪も同じで、「後輩たちの活躍が楽しみっていうのもあるし、(支える側として)同じ気持ちで日本一を目指しています」と楽しげだ。「彼らには日本一を頑張ってとってほしいです。でもまぁ、楽しくやってくれたらそれが一番」(脇阪)。

 

 1年の時が流れた。昨年のウインターカップで輝いた東山の元キャプテンは、これからも母校と共に自らの歩みを進めていく。

 

 

インタビュー写真/松村健人

プレー写真/中川和泉

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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