月刊バスケットボール5月号

東京パラで世界に衝撃を与える日本の可能性

来年の東京パラリンピックで、史上初のメダル獲得を目指す車いすバスケットボール男子日本代表。現在は強化指定選手が熾烈なメンバー争いを繰り広げながら、チーム強化を図っている。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、4月から中断していた強化合宿も7月から段階的に再開している。

ここでは、月刊バスケットボール1月号(11月25日発売号)に掲載した京谷和幸ヘッドコーチ(HC)にチームの現況について語ってもらったインタビューを紹介したい。

 

文・写真/斎藤寿子

 

京谷和幸 1971年8月13日生まれ、北海道出身。 元プロサッカー選手。交通事故で脊髄損傷し、その後車いすバスケットボールと出会い、選手として活躍。日本代表として4度のパラリンピックにも出場。2020年2月より日本代表のヘッドコーチに就任。

 

「1.5倍の運動量」で勝ち切る自信に

 

「先を見過ぎずに、今はまずしっかりと足元を見て、できることをやっていこう。その積み重ねが必ず東京への土台になるから」

 

 コロナ禍で代表活動がストップした約3か月間、京谷HCはそう鼓舞し続けた。先が全く見通せないなか、青写真ばかりを描いていては選手たちのメンタルが持たない。そのために“東京パラでのメダル”はいったん胸にしまい込み、“今できること”に集中させたのだ。

 

 代表活動が再開したのは7月。まずは2グループに分かれての任意での合宿を実施した。8月には強化指定選手全員が集合し、ようやく通常の合宿が再スタートした。

 

 現在、トレーニングの最重要テーマとして取り組んでいるのが「1.5倍の運動量」だ。日本は2018年世界選手権では当時欧州王者のトルコを破り、昨年のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)では強豪オーストラリアを撃破するなど、数々の快挙を成し遂げてきた。その一方で、最も大事な試合を落とし、結果を出すことができていない。そこで京谷HCは「1.5倍の運動量」を養う過酷なトレーニングを課し、選手の意識改革を促している。

 

「今や日本は技術的には世界の強豪国と比べても全く遜色ありません。それでも大事な試合で勝ち切れないのは、やはりハートの部分に問題があるのだろうと。目まぐるしく状況が変化する中でもしっかりと実力を出すためには、“これだけやってきたのだから”という自信から来る強さだと思っています」

 

 

 京谷HCは基本的な戦術・戦略はこれまでと変えない方針だ。今あるものを、より強固に、より緻密に詰めていく。その最初のテーマとして10月の合宿で取り組んだのが“オフェンス時の想像力”だ。

 

「正当に真正面からぶつかっていくだけでは、相手からすれば楽。真面目なところは日本人の長所だけれど、遊び心を持って時にはトリッキーなプレーをしたっていいんです。とにかくもっとイマジネーションを働かせて、いろんな引き出しを持ってほしい」と京谷HC。豊かな想像力は、日本が武器とするスピーディーな展開のバスケの中で瞬時に認知・判断・実行をするための重要な要素となる。

 

 そこで合宿ではショットクロックを18秒に短縮した5対5を実施。初めは戸惑っていた若手も、経験値が高く率先して実行するキャプテン豊島英や香西宏昭、藤本怜央といったベテラン勢に引っ張られるようにして好プレーを披露。これまでになかったプレーが次々と生み出され、京谷HCは大きな手応えを感じたという。

 

 さて東京パラリンピックに向けて、今後国際試合も予定している。しかし、感染状況によっては昨年のAOC以降、対外試合はゼロと、1年半もの空白が生じた中で本番を迎えることになる。だが、京谷HCはかえってそれがプラスに転じる可能性もある、とにらんでいる。

 

「日本ほど若手が次々と台頭し、ベテランとの融合によって新しい力を創出する可能性を持つチームは、世界にはありません。さらに自国開催で応援の後押しを受けられる強みもある。東京パラでより進化した日本との初対戦となれば、海外勢はアジャストするのに苦労するはずです」

 

 10月の合宿では、これまで代表チームでは目立っていなかった土子大輔や篠田匡世が高レベルのパフォーマンスを見せれば、インサイドでのプレーがメインだった秋田啓が高確率に3Pシュートを決めていたという。より選手間の競争が激化し、チームには新たな力が加わり始めている。

 

「選手一人ひとりの高い意識、そして、HCである自分の覚悟。この2つがそろえば、結果を残せる自信があります」と京谷HC。2021年の夏、世界に衝撃を与えるつもりだ。

 

(月刊バスケットボール)



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