月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2020.12.09

意地の連敗脱出で越谷アルファーズがつかんだものー12.6越谷対山形戦レポート

元NBAブラッキンズがブザービーター2発

 

 12月8日時点でのB2東地区は約1ヵ月前とは異なる様相を呈している。15連勝で波に乗る群馬(17勝2敗)の独走体勢に対し後続で茨城、仙台、福島が13勝6敗と同率の混戦だ。
11月を迎えた時点で首位に立っていたのは越谷だった。10月28日にロードの対仙台戦に91-82で勝利した時点で7勝2敗。その7勝には群馬からの2勝が含まれる。ところが11月に入って以降、12月5日の対山形戦までの7試合は5連敗を含む1勝6敗で一気に貯金を吐き出してしまう。11月の対戦相手は茨城(12月8日時点で東地区2位)、福島、そして現時点で西地区首位の佐賀(13勝6敗)。上位チームに敗れ、結果として8勝8敗の5位と順位を落とした。
12月初週の相手、山形は対戦前の時点で6勝11敗。越谷ファンの視点に立てば、ホームで下位チームに連勝を期待したくなろうというものだ。
しかしその願いは12月5日の時点でついえてしまう。この日88-75で勝利したのは山形のほうだった。越谷の歯車は狂ったまま。開幕当初の勢いはどうしたのか…。

 翌日、両チームの2試合目(今季4度目)に足を運んだ。冬晴れで冷え込んだ日曜日、空調が効いて暖かな越谷市総合体育館には家族連れの姿が目立った。ボランティアスタッフが対応するスナック売り場でも、たぶんスタッフのお子さんだろう、小学生くらいの女の子がカウンターから元気に声をかけていた。越谷のチームカラーであるバーガンディーのウェアを身につけたスタッフたちの、活気溢れる笑顔が空気を一層温かくしていた。

 試合は序盤から越谷が快調に飛ばした。11月から遅れて加わった元NBAプレーヤー、クレイグ・ブラッキンズがティップに勝つと、最初のポゼッションで自らスリーを決め先制。キャプテン長谷川智也も積極的にゴールにアタックしてチームを鼓舞した。
第1Qはブラッキンズのブザービーターとなるスリーで幕を閉じ、25-16と越谷がリード。山形は第2Q、秋山 熙とランス・グルボーンのアウトサイド・シューティングで中盤まで離されずについていく。しかしクォーター半ばにコートに戻ったばかりの長谷川が、二ノ宮康平のパスを受けこの日12得点目となるミドルジャンパーを成功させたあたりから越谷が勢いづいた。田村 晋がスリーで続き、長谷川が副キャプテンのアイザック・バッツのアシストで14得点目。残り2分44秒にはボールを運ぶ秋山から飯田鴻朗が鮮やかなスティールを成功させ、そのままレイアップで加点。この時点でスコアは43-29の越谷リードとなっていた。
越谷はさらに、長谷川とバッツの日米キャプテン同士の連係によるチャンスから、今度はバッツがゴール下をねじ込む。クォーター終了間際にはゾーンディフェンスで山形のオフェンスをしのぐと、最後はブラッキンズが第1Qに続くこの日2本目のブザービーターを3Pエリアから炸裂させた。まさしく怒涛の攻撃を展開した越谷は、ついには52-32とリードを20点差まで拡大し、後半戦を迎えることとなった。

 

チームとの呼吸が合い始めたブラッキンズはこの日、ダブルダブルの活躍で連敗脱出に貢献した

 

地元ファンの期待に応え
キャプテン長谷川がチームをけん引

 

 観戦中、取材エリアのそばに陣取った親子が、一つ一つのプレーに敏感に反応する様子がたびたび耳に飛び込んできた。「きたきた、長谷川さんスリーだよ!」と母親の声。「ワー!」と幼子の歓声が続く。相手の和田保彦がみごとな“レインボー”を沈めると、敵ながらあっぱれのプレーぶりに親子そろってため息をつきながらも拍手を送っていた。バッツがフリースローを決めると「今のは何点なの?」。「フリースローっていうの。1点だよ」…そんな会話が自然と耳に入ってくる。
俺もおんなじだったなぁ。日本リーグ(1990年代半ばまでのトップリーグの呼称)やインカレを見に行っては、兄貴とあんな会話をしたものだ…。一瞬遠い昔の情景が頭の中を駆け巡り、同時にバスケの試合にこられている喜びも湧いてきた。こういった試合の温もりこそ、データに現れない臨場感を生み出し、その場にいる人々の力になるものだ。両チームの選手たち、特に連敗中のホームチーム、越谷のメンバーにはそれが十分すぎるほど伝わっていただろう。

 今日は越谷のゲームか…。しかし山形のオフェンスは悪くない印象だ。ショットセレクションがよく確率も悪くない(前半のフィールドゴールは14/29で48.3%)。一方、ちょっと越谷は出来すぎじゃなかろうか。前半のフィールドゴールは19/32の59.4%で、スリーは7/11の63.6%。第2Qに限るとそれは11/17の64.7%で、スリーが4本中3本を成功の75%という数字だ。これが後半も続くだろうか。経験豊富な山形のミオドラグ・ライコビッチHCは当然何らかの手を打つだろうし。
第3Qも終盤まで20点前後の点差が変わらなかったが、変化が感じられたのは70-51の残り1分57秒に上杉がファウルを取られた時。バッツに対するファウルだったが、記者席からは詳しい判別がつかないような状態で、山形ベンチが騒がしくなったのを感じて、おや? と思ったのだ。バッツがフリースローラインに立つ。ところがここで2本とも落としてしまう。ここから山形の反撃が始まった。
第4Q開始時のスコアは73-59の越谷リードだったが、流れは明らかに山形。しかし越谷は今日の展開でホームのファンを失望させるわけにはいかない。
残り6分47秒、秋山のスリーでついに山形が67-77の10点差まで迫ってきた。前述の親子の落胆と感嘆が入り混じったような声が聞こえてくる。
残り5分。79-69の越谷10点リードでオフィシャルタイムアウト。これは試合の流れに大きく影響したと思う。もがき苦しみながら山形の追撃を耐え忍んでいた越谷に、息を落ち着かせる時間をもたらしたからだ。
その後も山形はよく攻め、残り3分12秒に和田のスティールからアンドリュー・ランダルがブレイクで加点した時点で76-79。場内が騒然とする中、しかし越谷にとってのビッグプレーが生まれる。残り2分50秒、ブラッキンズのパスを受けた長谷川が放ったスリーがみごとネットに吸い込まれ82-76と突き放したのだ。キャプテンが決めたこの一撃はチームに勇気を与えたことだろう。というのも、前半好調だった長谷川は後半一転して確率が落ちており、特にこのクォーターの得点はこの一撃のみの3得点。それでも、相手のスイッチング・ディフェンスに手を焼きながらも積極的にゴールを狙う姿勢を変えなかったことがこのスリーにつながったと、チームの全員が感じたと思う。子どもたちの歓声がこだました。
山形はあきらめず、ファウルをいとわない激しいディフェンスでプレッシャーをかけてくる。しかし越谷は落ち着きを取り戻していたように見えた。残り19秒、グルボーンのフリースローで再度87-84の3点差に迫られたものの、チャールズ・ヒンクルがクラッチ・フリースローを4本中3本成功させ、最終的に90-86でしのぎ切った。
連敗は5で止まり、9勝8敗と勝ち星が一つ先行した。「本当に勝ててよかったです」。この日チームハイの21得点で越谷をけん引した長谷川がこう挨拶すると、会場に集まった989人の観衆から温かな拍手が沸き起こった。画面越しに見ていた方々を含め、越谷に声援を送るすべてのファンの思いが結集して手にしたような、アルファーズの勝利だった。

 

「コーチからも積極的に得点を狙うように言われていた」という長谷川は21得点で期待に応えた

 

対仙台、今季初“水曜決戦”を前に
結束を感じさせた越谷

 

 しかし、これまで何がうまくいかなかったのか? 高原純平HCは会見で「(新加入のプレーヤーたちの)自分たちがこのチームにアジャストするにはどうしたらよいかという迷いをぬぐいきれないでいた」ことを挙げた。新型コロナウイルス感染拡大を含むバスケットボール以外の出来事による影響を言い訳にしたくはないだろう。ただ、時間が必要だったと思う。前日の試合後、チーム内の話し合いで様々な思いを全員が分かち合えたそうで、高原HCは「今後大きく崩れることはないかなと思います」と自信をのぞかせた。
選手側の思いも聞いた。「遅れて合流したとき、チームは好調ですでに形が出来上がっていたと思うんです。その形が私の持ち味とはちょっと違っていたんですよね」と言うのは、11月にチームと合流して以来やや不安定なプレーぶりが続いたブラッキンズ。「その状況でチームを壊さずに勝てる形を生み出すのが難しかったです。できるだけチームを壊さず、かつ自分として積極的に攻めていくというのがなかなかできなかったので、数字にも波がでてしまいました」。
自身の持ち味については、「パワーフォワードを務めるビッグマン(208㎝)で外からも狙っていけるのが最大の持ち味です。コート上での判断力も、チームに貢献できる要素だと思っています」と話す。2010年のNBAドラフト1巡目21位で、オクラホマシティー・サンダーから指名を受けた実力はダテではないことを、この日のパフォーマンス(15得点、11リバウンド、3アシスト)が示している。
一方、キャプテンの長谷川は「11月に選手の入れ替えがあってチームの厚みがなくなってしまった分、そのすべてをブラッキンズ選手に求めてしまっていたところがありましたし、それまでやっていたことをしっかり伝えきれていませんでした」と話す。この日の自身の活躍についても質問を投げかけたのだが、うまくいったところ以上に「あの時に自分がこうしていればもっと良い展開になったはず…」と謙虚に振り返る言葉が先に出た。その姿勢にチームリーダーたる彼の個性も垣間見えた。
ブラッキンズの方も「トモ(長谷川の呼び名)は前向きで、みんなが一体感を持ってお互いを助けるようにと呼びかけています」と話し、そんな長谷川に信頼を置いている様子。越谷に長谷川とバッツという日米のリーダーがいることで、「より前向きな空気を生んでいてとてもいい感じ」だと言う。
異なる立場の3人が発したコメントは同じ方向の内容だ。それは越谷の結束が高まり、チームとしてのあり方を見いだした証と見てよいだろう。そして記者席で感じた観客の温もり。冬本番、再びチームとファンが一体となった越谷がアツくなりそうだ。次は今日、12月9日の対仙台戦。今季初の“水曜決戦”で面白い試合を期待したい。

 

多くの親子連れが越谷市総合体育館に足を運んだこの日、ファンとチームが一体となっていた

 

取材・文=柴田 健/月バス.com

写真=©B.League

(月刊バスケットボール)



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