月刊バスケットボール5月号

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2020.11.25

ウインターカップ2017決勝のヒロイン 鈴木妃乃のNCAA挑戦 - Part2

NCAAディビジョンIの注目チーム、ノースアラバマ大(以下UNA)の一員として2020-21シーズン開幕を迎える鈴木妃乃。期待されるそのパフォーマンスについて、またシーズン全体に対する新型コロナウイルス感染拡大の影響などを含めた展望について、鈴木本人とチームメイトのジェイラ・ロバーツ、そしてメリッサ“ミッシー”タイバーHCへの取材内容を動画とコラムでまとめる。
取材・文=柴田 健/写真=UNA Lions

 

 

 

タイバーHC率いるUNAと
鈴木妃乃の2020-21シーズン展望

 

 UNAで8シーズン目を迎えるタイバーHCは、20年以上の指導歴を持つベテラン。UNAは2018年にディビジョンIに所属が変わったばかりだが、タイバーHCの指導の下、2018-19シーズンにいきなり21勝9敗の好成績を残しアメリカの女子カレッジバスケットボール界を騒がせた。続く2019-20シーズンにも同じ21勝9敗の成績を維持したが、中でもフロリダガルフコースト大(FGCU)に対する勝利は特に話題をさらった。この試合が行われた今年の2月29日時点で、FGCUは全米ランキング23位。UNAにとって、全米トップ25の強豪を倒したのは史上初で、しかも会場が相手のホームコートということを考えれば、まさしく大金星である。

 

 今シーズンのUNAもポテンシャルに満ちた危険なチームだ。昨シーズンから主力4人が卒業した若いチームではあるが、所属のアトランティック・サン カンファレンス(ASUN=エイ-サンと称される)の注目プレーヤー、オリヴィア・ノアと2年生のポイントガード、ジェイラ・ロバーツらを中心に、機動力に富んだ布陣で上位進出をねらう。

 

 鈴木はその中で、開幕前の時点で明確な立場を築いているわけではない。本人も「一番はプレー時間をちょっとでももらえることを目標に、今は頑張っています」と謙虚。ただ、ある程度の時間コートに立つことができるならば、「アシストで2桁を目指したい」と意欲的だ。

 

 タイバーHCは鈴木について「シックススマンの役割で活躍を期待したい」と話した。鈴木とともにインタビューに同席してくれたロバーツも、「ヒナは楽々このレベルでプレーできます」と鈴木のプレーに自信をもっている様子だ。

 

 鈴木とロバーツのインタビューは、このコラムに添付した動画でぜひご覧いただきたい。彼女たちの打ち解けた様子を見ていると、鈴木の活躍とUNAの躍進がいっそう楽しみに感じられる。

 

鈴木についてチームメイトのロバーツは「全体として素晴らしいプレーヤーだけど、特にディフェンスがうまいですね。オフェンスでは右利きなのに左からのフィニッシュも上手です」と絶賛(動画参照

 

ヒナはベンチから出てくる一番手」

鈴木への自信を語るタイバーHC

 

 さて、本人へのインタビューとは別に、タイバーHCにも話を聞いている。以下はそのQ&Aで、会話を通じて鈴木に対する評価もつかんでいただけると思う。また、それだけでなくタイバーHCの人となりと今シーズンの展望を通じて、UNAのみならずNCAAバスケットボール全般における、今後の日本人プレーヤーの可能性についてのキーワードも見えてくると思うので、ぜひチェックしてほしい。


――UNAではどんな目標をもって指導に当たっていますか?
タイバーHC(以下T) 8シーズン目になりますが、2018年からはディビジョンIで20勝以上を続けており、今の大きな目標は来シーズンのマーチマッドネスでプレーすることです。

 

――ディビジョンIへの編入は大変だったでしょうね。
T そうですね。ただ、当時のプレーヤーたちはその時点ですでに有能なプレーヤーだったので、ディビジョンIでも適応できました。私の指導は駆け引きを重視するので、彼女たちはバスケットボールのプレーのしかたをきちんと理解していたのです。やっていく自信がありましたよ。

 

――どのようにしてヒナをみつけたのですか?
T ヒナのほうが私たちを見つけてくれたというのが正しい認識です。彼女はアメリカでプレーしたいという思いを持って様々な可能性を探ったようで、私たちのところにもメールをくれました。やりとりをしていく過程で彼女のプレーを収めた映像も見て、ぜひともほしいと思いました。

 

――彼女のウインターカップ2017決勝戦のプレーもご覧になりましたか?
T もちろんです。あの試合を見て、彼女が私たちに必要なすべてを持っていると確信したのです。ゴールにアタックし、味方をおぜん立てし、シューティングも素晴らしい。ディフェンスもできる。日本の試合は非常にレベルが高いと感じたし、その中で彼女のプレーぶりは光っていました。

 

――彼女の最大の強みは何でしょう?
T 彼女は強気で常に攻めていきますね。ポイントガードとして機を見てゴールにアタックする能力、そしてチームをおぜん立てすることができるのが最大の武器だと思います。

 

――彼女がプレーできるのは2年間という認識ですが、それで正しいでしょうか?
T 今年は新型コロナウイルスの影響で、実はすべてのアスリートがレッドシャツ(学生の練習参加は許可するが試合出場を制限するNCAAの規則。適応されるとそのシーズンはプレーしなかったものとみなされる。ケガや学業面の取り組みなどで競技参加ができない学生にもう1シーズンその資格を与える目的で施行されている)の扱いになります。現役世代にとってはこの上ない条件で、彼女も今シーズンを終えた後でさらに2シーズンを過ごすことが許されるのです。これは大きいですね。ヒナは今シーズンを英語力習得期間と考えて取り組むことができるわけですから。コートでの成果はその後の2年間で出していけば良いと考えると、とてもありがたい条件ですよね。

 

――彼女には長い時間コートに立つだけの力が備わっていると思いますか?
T 間違いありません。率直に言って彼女はベンチから出てくる一番手、シックススマンの役割です。活躍を期待したいですね。

 

――サイズ面は気にしていないということでしょうか?
T 心配していません。彼女よりも小柄なポイントガードとプレーした経験もありますし、攻撃的な彼女のスタイルは十分に機能するでしょう。唯一乗り越えなければならないのは言葉の壁。ただ、彼女は毎日1時間英語を聞き、1時間話すことを日課に頑張っているので、時間の問題でしょう。私たちは男子プレーヤー相手の練習で、強く大きな相手にどう対応するかを学んでいます。かなり良い経験になっていると思いますよ。ヒナは大丈夫です。

 

――2020-21シーズン全体の展望をお願いします。
T 今年は新型コロナウイルスなど様々な要因で、例年と異なるシーズンになりました。今、25試合が組まれていますが、すべてできる前提さえ成り立たちません。ですので、試合をできること自体が非常にありがたいですね。

 

――主力4人が卒業した現状ロスターの特徴を教えてください。
T 新しいプレーヤーが多いですね。また、どんどん走ってアウトサイドからも積極的に攻める高得点の展開を得意とする人材がそろったオフェンス重視のロスターです。

 

――昨シーズンの対FGCU戦ではバックドアカットを多用していたように感じましたが、あれは戦術上の特徴でしょうか?
T いえ、あれはFGCUが私たちの3Pを止めようと強いプレッシャーをかけてきたことへの対応です。先ほど私の指導は駆け引き重視とお話ししましたが、あの試合でもその成果が感じられました。

 

――新たな布陣での懸念材料は何でしょう?
T 4年生が一人だけという状況からくる経験不足。また、オフェンス重視の一方でディフェンスには課題があると言えるかもしれません。

 

――日程上はどんな特徴がありますか?
T カンファレンス外ではミズーリ大、パデュー大、ウエストバージニア大などの強豪との試合があり、全米ランキングでトップ25入りしているゴンザガ大(21位)との対戦があるラスベガスのトーナメントにも出場します。ゴンザガ大との試合は当然厳しいものになるでしょうけれど、価値ある経験となることは間違いありません。良い試合にするつもりですよ。

 

――カンファレンスシーズンになると、同じ相手と同じ週末に連戦をこなす日程になっていますね。
T できるだけ移動を減らす方向で模索した結果ですね。非常に特異な日程です。1試合プレーした後、翌日の試合に向けコンディションを整えなければなりませんし、スカウティングの面でも例年とは違ってくるでしょうから…。

 

――新型コロナウイルス感染の予防措置としてどんなことをされていますか?
T 手洗いからマスク着用など日常できることはすべて行い、常に一つの“バブル”の中での生活が基本です。同じ人と会い、同じ場所に行き、毎朝トレーナーがチームの全員とコンディション確認のやり取りをしています。PCR検査は毎週1回だったものを毎週3回に増やしました。そのような特異な環境で、一時数人の感染者が出たものの、8月以降は幸運にも問題なく過ごしています。ありがたいことですね。少しずつこの状況にも慣れてきつつありますよ。

 

 タイバーHCの鈴木に対する評価は高い。UNAの開幕初戦は日本時間だと26日午前3時ティップオフ。鈴木のポテンシャルが花開く瞬間がこの日にやって来るかはわからないが、その可能性は十分にありそうだ。

 

鈴木の飛躍のカギを握る存在でもあるタイバーHCだが、信頼関係はすでに築かれているようだ

 

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(月刊バスケットボール)



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