月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2020.11.17

森川正明(横浜)、流した涙は成長の証し

 第9節のゲーム2。シーホース三河にあと一歩まで迫った横浜ビー・コルセアーズだったが、84-88とわずか4点差で勝利には至らず。ホーム5連戦を1勝4敗で終え、2週間のバイウィークに突入することとなった。

 

 4本の3Pシュートを沈めた秋山皓太、エネルギッシュなプレーでチームを鼓舞したパトリック・アウダ、大黒柱ロバート・カーターの奮闘など、接戦に持ち込んだ要因は多くあるが、この試合における森川正明の活躍を見過ごすことはできない。30分34秒のプレーで13得点、4アシスト。古巣相手に奮闘を見せたフォワードは、この試合でまた一つ成長を感じさせた。

 

古巣相手に躍動するも、一歩及ばずに男泣き

 

 愛知学泉大卒業後、現B3の豊田合成スコーピオンズに加入。決してエリート街道を歩んできたわけではない森川だったが、Bリーグ開幕と同時に名門三河へ移籍。昨季までの4シーズンを過ごした。エリート中のエリートが集う三河へ入団できたはいいが、それゆえにプレータイムを勝ち取ることは難しく、昨季は出場26試合で平均出場時間はわずか9分29秒だった。しかし、オフに横浜へ移籍すると、それ機に出番が急増しスターターに定着。そんな中で迎えた今節が古巣・三河との初対決だったのだ。

 

古巣相手に成長した姿を見せることができた

 

 言葉には出さずとも、『やってやる』、そんなことを森川は心のどこかで考えていたはずだ。

 

 決定的なシーンがあった。それは4Q残り17.6秒。3点を追いかける横浜はカーターがトップからドライブを仕掛け、コーナーで待ち構える森川へキックアウト。

 

 ワイドオープンな状態で森川は躊躇なく同点を狙った3Pシュートを放つ。美しい軌道を描いてボールはリングへ向かったが、このシュートは寸分の狂いでリムに弾かれた。アキ・チェンバースのリバウンドショットも外れ、横浜はファウルゲームで時計を止めるのが精一杯だった。森川は渾身の思いで放ったシュートを決めきれなかった悔しさから立ち上がることができず、試合が決した後も顔を覆ったまま。その目からは涙が流れ落ちていた。

 

 試合後、ブースターへ向けて選手全員が挨拶を行なったときも涙はおさまらず「結果を出せず、申し訳ありません。必ず次はシュートを決め切って勝ちたいと思います。前を向いて頑張ってきいますので、皆さんも一緒に前を向いて最後まで戦ってください」と言葉を振り絞る姿は印象的だった。レジュラーシーズンのたった1試合の負けで、これほど感情を表に出した選手を見たのは初めてかもしれない。たった1試合だが、この三河戦はそれだけ森川にとって意味のある勝ちたかった試合であり、あの一本のシュートに懸けていたものがあったということだ。

 

 古巣相手に成長した姿を見せられたこと、あと一歩のところで白星を逃したこと、重要な一本を託されたこと、さまざまな思いが押し寄せてそれが涙となってあふれ出たのだろう。

 

「一番大事なのは彼があの場面でしっかりと打ったこと」

 

 このシュートについてカイル・ミリングHCはブースター全員に向けて「シュートは入りませんでしたが、一番大事なのは彼があの場面でしっかりと打ったことです。それを評価したい」と森川を労った。

 

この悔しさがさらなる成長の糧となる

 

 パスを出したカーターも「コーチが言ったように入る入らないというのは問題ではなく、森川選手があのシュートを打ったことに勇敢さを、勇気を感じました。シュートというのは入る日もあれば入らない日もあります。彼には『次の試合で同じシチュエーションで同じようにドライブを仕掛けたときには必ずコーナーを見ているから。下を向かずに、次同じシチュエーションになったら必ずシュートを決められるから』と伝えました」と、最善を尽くした仲間へ励ましの言葉をかけた。

 

 チームとしては黒星先行の状況が続くが、過去5戦はいずれも接戦であり悲観することはない。勝負事にタラレバはご法度だが、名古屋Dとの第7節後にミリングHCが語っていた「終盤の締め方」さえ身に付けられていれば、5連勝としていた可能性もあった。

 

 敗れた事実は覆らない。しかし、この連敗はチームにとっても森川自身にとっても今後につながる糧となるはずだし、そうならなければならない。

 

 人間は失敗を繰り返して成長していく生き物だ。そして、その過程で流した涙は成長している何よりの証し。試合当日の記者会見で森川の声を聞くことはできなかったが、後日、自身のSNSで「本当に悔しかった… でも元チームメイトとの試合は最高に楽しかった。次はやり返す」(一部抜粋)と、試合を振り返っていた。そんな森川の悔しさはブースターもチームメイトも十分理解している。

 

 古巣との初対決は森川のキャリアにとって、また一つ、大きな節目となったはずだ。

 

写真/アイキャッチ:©︎B.LEAGUE 本文内:中川和泉 取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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