月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2020.10.31

岡田イズムは眠れる獅子、東京Zを起こしたか

10.28 B2 アースフレンズ東京Z対青森ワッツ戦レポート

アイキャッチ画像= ©︎B.LEAGUE

 

東京Z激戦を制す

 

 開幕初日の対越谷アルファーズ戦に勝利したアースフレンズ東京Z。その試合後のウェブコラムで、私は東京Zを優勝候補の一角と書いた。ところがその後、私の感触とは裏腹に東京Zは惜しい展開の試合を勝ちきれず、7連敗の憂き目に遭う。10月28日、ホームの大田区総合体育館に青森ワッツを迎えた一戦に足を運んだが、よもや両チームが同じ1勝7敗で“最下位争い”をしていようとは正直思わなかった。ただし、再びよい流れに乗るきっかけを見つけるべく両チームが気持ちを全面に押し出して激突したこの日の試合は、非常に見るべきものが多かった。


公式発表の観客数は622人。この方々は価値ある試合をご覧になったと思う。たぶん今後のB2の戦況に少なからず影響を及ぼす試合だ。

 

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 試合は第1Qから追いつ追われつの熱戦。第2Q残り約3分半、最初に流れをつかみかけたのは青森で、30-30の同点からジョシュア・クロフォードがスティールしてそのままブレイクに持ち込みダンク。さらに同残り2分53秒にはスティーブン・ハートのジャンプショットが決まり35-30と、この日最大のリードを積み上げた。青森はこの時間帯の数分前から門馬圭二郎が攻守に好プレーを見せ、キャプテンらしくチームを鼓舞しており、そのまま良い形でハーフタイムを迎えるかと思われた。


ところがここから東京Zが主導権を奪い返す。紺野ニズベット翔を中心にディフェンスの強度を高めると共に、オフェンスでも紺野のスリーとナンナ・エグーのブザービーターとなるスリーでハーフタイムまでに36-37と1点差に詰め寄った。第3Qに入ると序盤の3分間に岡田優介がスリー2本を含む8得点。一気に46-39と形勢を逆転すると、さらにイシュマエル・レーンとエグーがダンクを連発し、残り5分過ぎには51-41と二桁リードを手にしていた。


第2Qと第3Qをまたぐ東京Zの20-6という爆発的なラン。これは他チームにとって今後要警戒の、この試合における注目事項の一つだろう。


ただし勝負はまだまだついていない。今度は青森が14-7のランで追い上げ、第3Qのブザーと同時に門馬がスリーをねじ込んだ時点でスコアは57-55の東京Zリードと接戦に逆戻りしていた。最終クォーターはその流れのまま息の詰まるような10分間になったが、最終的にはお互いに16得点ずつを奪い合い、73-71と2点差のまま勝負がついた。東京Zは待望の2勝目。敗れた青森も勝利への意気込みを十分感じさせてくれた。

 

青森に光をもたらした下山

 

 青森が二桁得点差を挽回して自分たちらしさを表現した過程、それでも東京Zが際どく主導権を保ち続けた過程の両方に、両者の今後を占う注目事項を見いだすことができる。


試合後の会見で、青森の北谷稔行アソシエイトHCは、「当たり前のことができなかった」と淡々と振り返ったが「アウェイで負けている中、しっかりシュートを打っていたことは評価したい」と話した。青森ブースターを喜ばせた門馬のブザービーターだけでなく、第4Qには下山大地がスリー3本を含む4本のフィールドゴールすべてを成功させ11得点。青森の71点目となったセットオフェンスでのスリーも、下山のしぶとさを強く印象付けた。東京Zの東頭俊典HCも「(下山のショットに対しては)ファウルせずに高い位置でコンテストしていたが、それでも決めてくる」と脱帽。青森はこの試合で、諦めずに戦い続ける姿勢に加え、それを高いレベルで結果に結びつける能力を示したと思う。


青森サイドについてはもう一つ、相手のスリーに対するディフェンスに触れておきたい。北谷アソシエイトHCによれば、岡田の加入で東京Zのアウトサイドからのアテンプトが増えていることを警戒し、打たれる本数を20本以内に抑えるというのが試合前の戦略だったという。しかし実際には、「32本打たれ、相手のやりたいことをやらせてしまった」。第3Q序盤に流れを奪われた場面でも岡田の2連続スリーが決定打。確かに素通りできないスタッツだ。


ただ、成功率は28.1%(9/32)とさほど高確率ではない。また、3Q序盤の場面は、東京Z側の東頭HCによれば「これまでなかったセットオフェンスを入れて、それを岡田が決めてくれた」のだという。しかも岡田の2本はいずれも、ややオフバランスの難しいショット。岡田自身にとっては自分の型の範囲内だとはいえ、端からみれば「よくぞ決めたな」と感じさせるものだった。ここは青森のディフェンスの落ち度よりも、東京Zの戦い方と岡田の技能を誉めるべきだろう。


1勝8敗は厳しい。しかしこういった要素を並べれば、今後の挽回が十分期待できる。

 


 

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岡田イズムが浸透してきた? 東京Z

 

 さて、その青森に対し、東京Zは4Qに一度もリードを譲らなかった。ディフェンスでは、策を講じても抑えられなかった下山以外のフィールドゴールを2/9の22.2%に封じた。またオフェンスでは、このクォーターに成功させたフィールドゴール6本にいずれもアシストが記録されている(ちなみに試合を通じては29本のフィールドゴール成功に対し27アシスト)。これらはいずれも、彼らの結束の高まりを感じさせる数字だ。


開幕戦直後、東頭HCは「岡田には“岡田イズム”を注入してほしい」と話していたが、これらの明るい兆しをもたらしているキーマンとして、岡田に触れないわけにはいかない。


記者室に姿をみせた岡田に、第3Q序盤の連続スリーについて聞くと「いつも、どこで6点とるかをイメージしているんです」とシューターの心理を言葉にしてくれた。あの流れでの2本目は、「ここだ」と思ったそうだ。


「6点は(試合の)流れを作るんですよね。さすがにプロ同士の試合で3本連続はなかなか許してくれません。でも2本なら、自分が行こうと思えれば、強気になれれば…」。


その瞬間を感じとり、少々タフな体勢からも決められるだけの技量に対する自信。短い会話ながら、言葉の端々からそれが伝わってくる。裏打ちする結果は、すでに出されている。


これが「岡田イズム」か。先ほど青森サイドのアウトサイド・ディフェンスを悲観するより相手を誉めるべきと書いたのは、この会話が理由だ。


涼しい顔で決定的な仕事をした先輩のこういった言葉には説得力がある。同じことを岡田がチームで話したかはわからないが、若手の意欲に火が灯るような言葉だと感じる。綿貫 瞬やドゥレイロン・バーンズにはこの日直接話を聞くことはなかったが、彼らにも岡田と同じような、経験の豊富さからもたらされる価値があると感じる。東京Zは間違いなく怖いチームだ。

 

 帰路、どう考えても、両チームの対戦が最下位争いには思えなかった。勝利をつかんだ東京Zは、“眠れる獅子”が目を覚ました瞬間だったのではないだろうか。敗れた青森も、間違いなく今シーズン一番の出来だった。この日会場に集まった622人のブースターの皆さん、お互いいいものをみましたね。

 

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取材・文=柴田 健

(月刊バスケットボール)



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