月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2020.10.29

重い雰囲気を吹き飛ばす値千金のスリー! 笹山貴哉がヘッドコーチのバースデーゲームに花を添える

 10月28日の水曜ナイトゲーム。信州ブレイブウォリアーズをホームに迎えた名古屋ダイヤモンドドルフィンズにとって、この試合は負けられないものだった。

 

 初の西地区制覇、そしてチャンピオンシップ上位進出を目論むクラブにとって、前節で千葉ジェッツ相手に2戦とも完敗を喫したことは緊急事態だ。それだけに、ホームに戻っての一戦は「何としても勝ちたい試合」(梶山信吾HC)だったわけだ。

 

 そうした心理が少なからずプレーにも影響したのか、この試合は終始ロースコアな重い展開が続き、前半を終えて32-36と4点のビハインド。トランジションからのオフェンシブな展開を得意とする名古屋Dだが、試合を通じても65得点と信州の堅いディフェンスに阻まれ、今季最少得点にとどまった。一方の信州も4つのクォーターでいずれも10点台とオフェンスのリズムをつかめず、武器とする3Pシュートも今季最多の40本放ったが成功はわずか11本の27.5%だった。

 

 試合が動いたのは3Q。中心は笹山貴哉だ。「梶山HCから後半にスタートで出て『ドルフィンズらしい速い展開で重い空気を払拭してほしい』と言われました」と振り返るチーム最古参の28歳は、アグレッシブなペイントアタックと前へ前へボールをプッシュする姿勢を見せ、アップテンポなバスケットを体現。実際に笹山が活躍し始めた3Qはこの日最多の21得点と息を吹き返し、4点ビハインドの状況から逆に6点のリードを作った。

 

笹山の強気な一発が勝利を大きく引き寄せた

 

 4Qは再び我慢比べの展開が続いたが、その空気を振り払ったのはまたしても笹山だ。62-56で迎えた残り1分23秒の場面でジャスティン・バーレルとのピックプレーでノーマークを生み出すと躊躇なく3Pシュート放ち、これがネットを揺らす。「本当はインサイドを攻めたかったんですけど、スクリーンがうまくフィットして相手のコミュニケーションミスが生まれたので、打ちにいったことが良い結果につながった」と振り返った笹山の一発はスコアが伸び悩む中での3点とあって、まさに値千金。このリードを最後まで守り抜き、65-61でマストウィンゲームを制したことには大きな意味があった。

 

節目の一戦を勝利で飾った梶山HC

 

 冒頭で名古屋Dにとって『負けられない試合』と記したが、その理由がもう一つ。この日は梶山HCにとって44歳の誕生日だったのだ。試合後の会見中に梶山HCがそれについて言及することはなかったが、節目の勝利はやはりうれしいものだったはずで、終始和やかな表情で質問に受け答えていた姿が印象的だった。「今日は(齋藤)拓実が本調子ではなかったので、終盤の戦いを笹山に任せました。彼とは長年一緒にやっているので、こういうときに力を発揮してくれると信じて起用しました」という愛弟子の起用が功を奏したことも、それを助長するものだったに違いない。

 

 とはいえ、本意ではない勝ち方であったことも事実だ。梶山HCの言葉を借りるならば、この一戦は「トランジションには目をつぶって、勝ちにフォーカスした試合」だった。笹山も勝利したことについては素直に喜んだものの「チャンピオンシップで勝ち進むためにはもっと上を見ないといけません。こういう展開で勝ち切る力はあるかもしれないけど、連敗した千葉戦をもっと真摯に受け止めて、なるべくそうした展開にしない。自分たちのペースで試合を戦い抜くことを全員が意識してやらないといけません」と課題を口にした。

 

この日が今季初戦となったライオンズ。価値ある一勝に貢献した

 

 リーグ戦はこの第6節を終えて約1週間のブレイクを迎える。名古屋Dにとってはこの試合がレオ・ライオンズの今季初戦であり、負傷中の中東泰斗の復帰も待たれる。ようやく戦力整ったタイミングで長い準備期間を挟めるのは大きなプラスだ。ライオンズ、バーレル、ジェフ・エアーズという強力なフロントコートがしっかりとタイムシェアをし、日本人選手とのケミストリーをより深めることでリーグ屈指の選手層を誇るチームは真に機能し始めるはずだ。

 

 名古屋Dにとってブレイク明け初戦はアウェイでの横浜戦。この試合でチームがどのように変化した姿を見せてくれるのか、今から楽しみでならない。

 

19 | 13 | 21 | 12 | 65 名古屋D

19 | 17 | 11 | 14 | 61 信州

 

写真/©︎B.LEAGUE 取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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