月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2020.10.06

やっぱりバスケはいいね!-10月3日ブレックスアリーナ宇都宮にて

待望の開幕、2114人がブレックスアリーナを埋めた

 

 前NBAコミッショナー、ディビッド・スターン急逝の知らせで年明け早々に悲しい思いをし、コービー・ブライアントとその次女ジアナを含む9人が命を落としたヘリコプター事故の悲報に泣き、新型コロナウイルス感染拡大により国内外のリーグが中止や延期を余儀なくされ、夏には東京オリンピックが史上初の延期。2020年のここまではどんなかと問われれば、バスケットボールを楽しみに生きている身としてネガティブな言葉がついつい出てしまいそうになる。


新型コロナウイルスの社会的制御は今も社会全体の大問題。その中で2020-21シーズンのバスケットボールがこれまで同様開催できるのか。これまで頭の片隅をよぎったことさえなかった事態に私たちは直面した。


ミニバスや部活、ユースクラブなどの活動も影響を受けた。本人はおろか所属チームやクラブに感染者やPCR検査陽性者がいなくても、同じ地域や学校など所属団体内にそのケースが見つかると、念には念を入れて活動自粛するチームやクラブがあり、活動自体があったとしても参加を見合わせなければならなかった家庭も多かったと思う。先行きに対する不安も生まれるだろうし、団体や大会の運営に携わる立場ならば、経済的な打撃も少なからず受けていることだろう。多くの人が重苦しさや歯がゆさを感じながら、秋の深まりを迎えている。

 

 10月3日、宇都宮ブレックスがホームに琉球ゴールデンキングスを迎えたB1開幕初戦当日のブレックスアリーナ宇都宮。どちらが勝つか、誰が活躍するか。しかし今は何より、最高峰のバスケットボールがファンの目の前に帰ってきたことが最大のニュースだ。両チームが展開した緊迫感あふれるプレーは最高だった。やっぱりバスケはいいな。この言葉に尽きる。

 

遠藤(右)は勝利にも気を引き締めていた(ディフェンスは田代直希)

 

 ブレックスアリーナ周辺は、ティップオフ2時間以上前から入場やグッズ販売を待つファンでにぎわっていた。待望のシーズン開幕。しかも東地区の強豪として今シーズンもB1優勝候補の一つに数えられる宇都宮と、過去たびたび名勝負を繰り広げた琉球の一戦。ホームの熱気は思っていた以上だ。


場内を埋めた観衆には大声を出しての応援が許されていない。しかしそんなことはまったくといっていいほど気にならなかった。コート上のプレーヤーたちやベンチからの指示が聞こえるのは見る側にとってプラス。好プレーが生まれるたびに客席から手拍子に混ざって漏れ聞こえる「マスク越し」の感嘆の声は少し遠慮がちだったかもしれないが、十分場内のボルテージを高めた。


コート上と観衆には一体感があった。MCのリードに手拍子が加わり、コート上のアクションにつられて自然に出る「うわぁ…」や「おおおぉぉっ!」。レプリカジャージーやチームカラーのTシャツをまとったファンが、驚きや感動を受けて生み出すこうした反応こそがスポーツを盛り上げる。この日の入場者数は公式発表で2114人。その数だけの「うわぁ…」や「おおおぉぉっ!」を、両チームのバスケットボールが試合終了まで生み出し続けた。

 

完成度の点で宇都宮が琉球を一歩リード

 

 張りつめた空気の中始まった試合は、序盤は両チームとも開幕の固さが目立ったものの、宇都宮が厳しいディフェンスから徐々に本来の力を発揮。琉球も前半30-25と食い下がったが、3Qに入ると開始時点からの18-4のランで宇都宮が48-29とし、一気に突き放した。最終スコアは73-61の宇都宮勝利だった。


コロナ禍で全日程を終えられなかった昨シーズン、消化試合数が少なかった宇都宮は勝ち星が一つ足りず東地区優勝を逃した。比江島慎とともにチーム2位タイの14得点を稼いだ遠藤祐亮は試合後、「(昨シーズンは)結構悔しい思いをしたので、本当に一試合一試合が大事になってくる。東地区は特にそうなんじゃないかなと…」と気を引き締めた。静かな語り口だったが、どの試合も40分間気を抜かずやりきる決意も伝わってくる。初戦はそれがチーム全体から発散され、意図したことを実行できていた印象だ。

 

 比江島の14得点は、巧みなステップからのドライブあり、3Pありと持ち味が凝縮されていた。フロントラインとしては小柄だが屈強なジェフ・ギブスは、非常にフィジカルなビッグマンとして知られる琉球のジャック・クーリーの背後からオフェンスリバウンドを奪って決めたプットバックを含め、チームハイの15得点。ウォームアップのレイアップラインでダンクを披露していたPGのテーブス海は、たびたび鋭いクロスオーバードリブルで相手ディフェンスをえぐり会場を沸かせた。そんなシーンの積み重ねに、地元ファンは今シーズンのブレックスに対する自信を深めたことだろう。

 

テーブスは巧みなドリブルやミスマッチを突くオフェンスで勝利に貢献


一方の琉球は、この日を見る限りまだ完成度が低い。ただ、藤田弘輝HCは試合後、「40分間ハードワークしたと思うので、これをやり続ければ僕たちの未来は明るい」と前を向いた。現時点での「40分間のハードワーク」が上位と競うには足りないことを、この日の結果は示しているだろう。しかし逆に、現状で宇都宮相手に3Qの“魔の時間帯”以外は互角以上。これは今後に向けての好材料だ。この日2/15だった3Pがもしもあと2~3本決められていたら、異なる結果を導けていたかもしれない。

 

 13得点を奪った並里のプレーは力強く、クーリーは16得点、14リバウンドに加え、テーブスのドライブを豪快にブロックしたシーンなど、ファンが良く知るいつものモンスターぶりを発揮していた。ディフェンス面の緊迫感も特に前半は高かった。悲願のリーグ初制覇に向けてこちらも期待できる要素を見出すことはできたはずだ。

 

クーリー(206㎝)の背後から豪快にオフェンスリバウンドを奪うギブス(188㎝)

 

 翌日の第2戦も宇都宮が勝ちブレックスは連勝、キングスは勝ち星なしで第1節を終えている。結果には喜ばしく感じた人も悲観的になった人もいるだろう。しかしいずれにしても、バスケットボールの最高峰を語り合える状況が戻ってきたことは間違いない。


試合後ギブスに、ファンの前でプレーできたことへの感想を聞くと、「会場に来てくれたファンに感謝したいです。昨シーズンの最後、千葉(ジェッツ)との無観客試合はすごく変な感じでしたから」とファンへの思いを語ってくれた。「ファンの声援を力に変えてプレーしている私たちには、(昨シーズンの千葉戦は)実戦を戦っているように感じられずプレーするのがとても難しかったので、今日は(ファンの皆さんに)助けてもらえてとてもうれしかったし、ありがたかったです。自宅で映像を通じて観戦してくれている人たちも力になっているので、ぜひ引き続き応援していただきたいです」


いよいよバスケシーズンたけなわ。ルールは尊重しつつ、最大限楽しむしかない。

 

文=柴田 健 写真=石塚康隆

 

(月刊バスケットボール)



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