月刊バスケットボール5月号

NBA

2020.04.07

【コービー・ブライアント追悼コラム】コートサイド2列目の現地観戦。「From Japan」に反応したコービーに“惚れた”

NBA現地観戦に僕がどっぷりハマってしまったのは、コービーとの些細なコミュニケーションがきっかけでした。

文=Makoto

PHOTO: Izumi Nakagawa

コービーの引退試合当日に配布されたプログラムとチケット、そしてKBパッチを縫い付けたレブロンのジャージー。いずれもかけがえのない宝物だ(著者所持品)

 

 

 NBA現地観戦はテレビやスマートフォンの画面越しには伝わらない部分が大きな魅力だと思っています。会場の雰囲気や匂い、音響や観客の声援が体に響く感覚、選手の声や息づかい、選手とのコミュニケーション…。こういったものはその空間に身を置かない限り体感できません。

 

 2005年2月、ニューヨークでNBAを4試合観戦するために10日間渡米していたのですが、グランドキャニオン観光ツアーに参加するため、最初の2泊はロサンゼルスに滞在していました。

 

 しかし、LA滞在中は珍しく台風のような大雨が続き、ツアー当日も朝から迎えのバスが来ず、飛行機も飛べないという事で結局中止に。丸々1日予定が空いてしまったので、その日の夜行われるセルティックス対レイカーズの試合を観に行く事に決めたのです。

 

 昼ごろ、ステイプルズ・センター近くのチケットショップ「VIP TICKETS」に行ってみると、コートサイド前から2列目のチケットが4万円弱で売っていたので速攻で購入。当時セルティックスもレイカーズもプレイオフを逃すという珍しいシーズンで、シーズンチケットホルダーの方が当日の天候を見て売りに出したのではないかとの事でした。もちろん定価というわけにはいきませんが、それでもこの席で4万円というのはかなり安い金額でした。

 

 午後、一旦ホテルに戻って、その後NYでの観戦で使うために日本から持参していた画用紙とペンでコービーの応援ボードを作成。2列目だったら本人に気づいてもらえるのではないかと考え、日本から来たことも知ってもらえるように、「from JAPAN」と書き記し、いざステイプルズ・センターへ!

 

 試合前の練習時、ボードを掲げてコービーに向けて猛アピール! コービーはこちらの方を見てウンウンと2回大きく頷いてくれました。この瞬間、僕はコービーに惚れ、翌年もステイプルズ・センターにコービーを見に来よう、そう決めたのです。

 

 

 今のようにツイッターやインスタグラムなどオープンなSNSがない中、プレーヤーとコンタクトを取る手段はチームに手紙を書くか、現地に試合を観に行くくらいしかありません。ほんの10m先にいるスーパースターのコービーと直接通じ合えたことがうれしくて、本当に興奮したのをよく覚えています。

 

 試合は終始セルティックスがリードを奪うも、第4Qにレイカーズが逆転し、104-95で勝利。コービーはチーム最多21得点の活躍でした。

 

 コービーの虜になった僕は、アキレス腱を切ってしまった2013年まで毎シーズン、コービーを観戦しに行きました。予算とも相談しつつ、できるだけ前の方の席を押さえ、なるべく目立つ格好をして、手作りのボードを掲げて声援を送る。これを毎年繰り返しました。リアクションをもらう事は2005年以降ありませんでしたが、明らかにこちらを見ていて目が合う瞬間が何度もあり、「またあの日本人が来ているのか」くらいに思ってくれていたらうれしいなと考えながら観戦したものです。

 

 90年代のマイケル・ジョーダンに魅了されてNBAをTVで見るようになった僕は、ジョーダンのラストシーズンに初めて現地観戦し、コービー引退後はレブロンを中心に様々なプレーヤーを観戦し続けてきましたが、やはり思い入れの強さでいえばコービーが一番でした。2013年以降ケガが続き、引退宣言をした2015-16シーズンは、最後のチャンスとして彼の雄姿を見届けようと赴いた1月の試合で、当日に欠場を発表。もう観ることがないかと思いましたが、何とか4月に休みが取れて引退試合を日帰りで観に行くことが出来ました。

 

 3年ぶりのコービー観戦、結果はシーズンハイの60得点に逆転シュートのおまけ付き。ペイントからペリメーター、そしてスリー。プルアップジャンパー、フローター、さらにはフェイダウェイ…。あらゆる距離から多彩なバリエーションのショットを沈める姿は全盛期を彷彿とさせるものがあり、それまで見てきたコービーの全てが凝縮されたような1試合でした。この時の会場の熱気も画面越しでは伝わらないもので、無理してでも観に行って良かったと思いました。今も変わらず僕の現地観戦ベストゲームで、思い出すたびに耳や頬のあたりがゾクゾクします。

 

 あれから4年、コービーは不慮の事故で突然亡くなってしまいました。僕も(追悼式のスピーチでジョーダンが語ったように)自分の一部が死んだような感覚で、しばらくの間はみぞおちの辺りがポッカリ空いていました。そんなとき、ある友人が落ち込んだ僕を見てこう言ってくれたのです。

 

「現役の間に何十回も観戦に行って、引退試合も見られて、最後に会場でありがとうと言えたのだから良かったじゃないか」と。

 

 正にその通りで、友人の一言で気持ちがだいぶ和らぎました。コービーの活躍する姿を何度もこの目で見られた事に満足していて、本当に感謝しています。コービー、ありがとう。

 

<著者プロフィール>

著者:Makoto

約70試合のNBA観戦実績を持ち、キックスフリークとしても知られるインフルエンサー。ストリートボールやフリースタイル・バスケットボールへの支援にも積極的だ。

 

 

コービー追悼特設ページ『Dear Kobe Bryant』

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(月刊バスケットボール)



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