月刊バスケットボール5月号

NBA

2020.03.31

【コービー・ブライアント追悼コラム】宿敵コービー、あなたを忘れない。

Bリーグ、シーホース三河の公式戦でМCを務め、また愛知県のラジオ局ZIP FMで番組パーソナリティーもこなす小林拓一郎さんは、大のNBA通であり、特にポートランド・トレイルブレイザーズの熱狂的ファンとして知られている。実は半端ではないバスケットボール熱の持ち主で、現在地元に『GRAPE PARK COURT』の名でアウトドア・バスケットボールコート建設を準備しているほど。そんな“コバタク”さんが、宿敵レイカーズの主砲だったコービー・ブライアントに対する特別な想いを綴ってくれた。
文=小林拓一郎

 

 

 ポートランドの人たちのブレイザーズ愛はとてつもなく深い。最近こそMLS(メジャーリーグサッカー)のティンバーズというチームが出来たけれど、NBA以外のメジャースポーツ(MLB、NFL、NHL)チームがほかになかったこともあり、皆がブレイザーズ一択で熱狂している。そして、ブレイザーズ愛と共によく語られるのが、レイカーズへの強烈なライバル心だ。両チームは深い因縁で結ばれている。

 

 例えば「リップシティー(Rip City)」というブレイザーズのキャッチフレーズ。これも遠い日の対レイカーズ戦でのエピソードに由来する。それは歴史を遡ること半世紀近く、1971年2月18日に地元ポートランドで行われた試合だった。

 

 この日は20点以上のビハインドで負けていたが、終盤にかけて猛追が始まり、ハーフライン辺りから放たれたショットがネットを通過して、同点! 一時的に追いついたその瞬間、実況を務めていたビル・ショーンリーが叫んだ言葉が「Rip City, Alright!」だった(試合は最終的に114-136で敗北)。なぜ「Rip City」と言ったのかは本人もわからないそうだが、とにかく「あのレイカーズにやってやったぞ!」と、そんな興奮と共に叫ばれた言葉が今ではブレイザーズの愛称として多くのファンに親しまれている。

 

 当時のブレイザーズはいわゆるエクスパンジョン・チーム(創立初年のチーム)。ジェリー・ウエストやウィルト・チェンバレンらスーパースターをそろえ王座を目指していた強豪レイカーズに対する意地を見せつけたプレイの象徴としてこの言葉が今も生きているエピソードからもわかるように、レイカーズへのライバル心は根が深い。さらに1980年代、アーヴィン“マジック”ジョンソンやカリーム・アブドゥル=ジャバーらを中心に一時代を築いた“ショウタイム”レイカーズに何度も苦しめられた過程で、そのライバル心はいっそう深くなっていった。

 

 自分がオレゴン州大に留学していた2001年当時、ブレイザーズは黄金期を迎えていた。タフな連中の集まりだったことから「ジェイル・ブレイザーズ(Jail Blazers)」などと揶揄されることもあったが、アルビダス・サボニス、スコッティ・ピペン、ラシード・ウォーレスなどなど個性的なプレイヤーが集まり、あのクライド・ドレクスラーすら成し得なかったフランチャイズ史上2度目のチャンピオンリング獲得も夢ではなかった。

 

 実際、あの年にはウエスタンカンファレンス・ファイナルまで行き、あと1勝すればファイナル進出だった。だが、またもや立ちはだかったのがレイカーズ。最後の最後、デレク・フィッシャーによってとどめを刺されたが、やはり、ブレイザーズファンの脳裏に強烈に焼き付いたのはシャック&コービーに他ならない。シャキール・オニールの支配力と、コービー・ブライアントが時に浮かべた“生意気”なほど自信に満ち溢れたあの表情とプレイの数々。あれほど憎々しいものはなかった。

 

 長い歴史の中で、ポートランドのファンたちは、レイカーズに対しては畏敬の念を抱いているのだと思う。今でこそレブロン・ジェームスやAD(アンソニー・デイビス)がいるが、低迷していた時期でも、いつだってポートランドのファンは「BEAT LA!BEAT LA! 」と声高に叫び続け、レイカーズに対して全力で臨み、ライバル心をむき出しにしてきた。

 

 2020年1月26日、あの悲しい事故のニュースも、ポートランドにいる現地の友人からのメールで知った。その後、ニュースサイトを開き、愕然とした。

 

 大のブレイザーズファンであるその友人も悲しんでいた。自分も、とめどなく泣いた。自分にとって直接の知人以外の死で、あんなにも泣いた日は、ない。「嫌い」と思っていた感情も、裏返すとこんなにも「好き」だったのだということに気付く。

 

 レイカーズに対し特別な想いを抱くポートランドのファンたちの目に、あなたは大そう“生意気”に映っていたよ。自信に満ち溢れたその清々しい笑顔。コービー、あなたをいつまでも忘れない。

 

 

著者:小林拓一郎

“コバタク”の愛称で知られる小林拓一郎さん経歴は冒頭で紹介した通り。また、現在地元愛知県豊川市に準備中のアウトドア・バスケットボールコート『GRAPE PARK COURT』は、コービーの誕生日と同じ8月23日にオープン予定とのこと。建設費用をクラウドファンディングで募っているので、支援に興味のある方は以下のリンク先からご協力を。

 

コバタクさんのクラウドファンディング・プロジェクト

『ジャパニーズ・フィールド・オブ・ドリームス!』

https://camp-fire.jp/projects/view/245102?list=watched&fbclid=IwAR0mWOcgU3_dfd3wKT4nU7on7xgWmFzQoZzDkLJRWfWAPRGzCQ86vqYQvGY

 

 

コービー追悼特設ページ『Dear Kobe Bryant』

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(月刊バスケットボール)



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