本当に必要なスキルとは!? U18日清食品トップリーグのクリニックで高校の名将たちが提示したもの

世代を超えて伝えられる「本当に必要なこと」
熱戦が展開中の「U18日清食品トップリーグ2026 ディビジョン1」だが、今年は新たな試みがなされている。それこそが、開催地でのバスケットボールクリニックだ。国立代々木競技場第二体育館で行われた第1週では、初日に四日市メリノール学院(三重県)の稲垣愛コーチが、2日目には岐阜女(岐阜県)の安江満夫コーチがそれぞれ小学5、6年生に向けて指導を行った。そして、新潟市東総合スポーツセンターで行われた第4週では、男子U18・U17日本代表のヘッドコーチとしても世界の舞台で戦う福岡大附大濠(福岡県)の片峯聡太コーチが、中学1、2年生を対象に講師を務めた。
興味深いのは、日本バスケ界の未来を真剣に考える名将たちがこの場で教えたこと。従来の常識を問い直すような非常に意味深い内容であった。ディフェンス、攻撃的な構え、そして1対1。一見すると地味なファンダメンタルの中にこそ、将来世界で戦うために本当に必要なエッセンスが詰め込まれていた。
世界と戦うための「ディフェンス」とボディアップ
第1週初日、四日市メリノール学院の稲垣コーチがテーマに選んだのは「ディフェンス」だった。女子U17日本代表のアシスタントコーチも務める同氏は「女子U17日本代表の活動に携わる中で、痛感しているのが日本が勝つにはディフェンスしかないということです。ハーフコートでどれだけ苦しめるかが大切です」と、その理由を明かした。子どもたちにとっては地味で面白くないテーマかもしれないと前置きしつつも、世界基準のディフェンスの重要性を知ってほしいという強い思いがそこにはある。
練習は、ボールを持った相手の動きについていく鬼ごっこ形式のフットワークからスタートした。「低く沈んでキックするようにしようね」「切り返すときに体重が乗ったらダメだよ」と細かな足の使い方まで声掛けを行う。1対1の実戦形式に進むと「おへそとおへそを合わせるようにしよう」「ボールを持った相手の動きに合わせて、まずは1つ目でバチッと当ててみよう」と、分かりやすい言葉で体の使い方を伝えていく。


中でも強調されたのが“ボディアップ”(ドライブに対して、自身の胴体・胸部をコンタクトし、進行方向を制御する技術)である。稲垣コーチは「日本人の選手は世界に比べると身長が低い。だからこそ、バックコートでいかに時間を使わせるかがとても大事なんだよ。手ではなくおへそとおへそを合わせるように体を当てるボディアップをやってみよう」と、世界と戦うための基準をキッズたちに落とし込んでいく。「抜かれそうと判断したら一歩引いてみよう。自分の守るエリアは絶対に抜かれないという気持ちでね」とメンタル面でのアドバイスも送り、会場は熱気に包まれた。

この日行われたドリルは特別なものではなく、四日市メリノール学院の選手たちはもちろん、女子U17日本代表でも実践しているものだという。参加した小学生からは「メリノール学院の好きな選手と1対1ができて楽しかったです。練習でやっていないこともやったから難しかったけど、できるなって思ったこともありました」と目を輝かせる声が聞かれた。
従来のトリプルスレットに疑問を呈する「無駄のない構え」
翌日、講師を務めた岐阜女の安江コーチもまた、鋭い視点でバスケの基本を問い直した。同氏は「普段、ウチの生徒がやっている練習を一緒にやってみよう」と呼びかけ、日々のルーティンである入念なストレッチやステップワークからクリニックをスタート。この日のテーマは、ボールをもらったときの「無駄のない構え」。安江コーチは「足の幅は肩幅に広げ、膝が内側に入らないように足の親指の上に乗せること。そしてボールは“あごの下”に構えること」と、常に攻撃できる体勢を瞬時に作るミートの基本を徹底的に反復させた。従来の指導では、ボールを腰の位置に置く“トリプルスレット”が基本とされてきたが、安江コーチはこれに明確な疑問を呈した。


「ジュニア世代の子たちがボールを持ったときにやるのが、ボールを腰の位置に持っていくこと。それは、『取られないこと』を前提にしていて、防御の姿勢で構えてしまうというのが気になっていました」と同氏は指摘。ターンオーバーを恐れて防御から入るのではなく、スキルを上げていくためには最初から攻撃の体勢を作るべきという意識の抜本的な改革を求めたのだ。

コートでは、岐阜女の高校生選手たちが小学生の横につきっきりで「フェイクをちゃんと入れるんだよ」「しっかりミートしようね」と優しく声を掛けていた。安江コーチは「選手たちがジュニアやミニバスの子たちに教えることは、自分たちのプレーを確認することだと思っています」と、教える側にとっても自らの基本を再確認する大きな意義があると示した。参加した小学生も「ボールをもらったときの構えの姿勢が、いつもやっている姿勢と違ったので『こうやればいいんだな』と分かったのがおもしろかったです」と、これまでの常識とは異なる気付きに確かな手応えを感じていた。
綺麗なバスケより「1対1ででたらめに強い選手」を
第4週に行われたクリニックでは、中学1、2年生を対象に福岡大学附属大濠の片峯コーチが熱弁を振るった。冒頭、片峯コーチは「1対1がでたらめに強い選手を育てることが急務であると考えています。難しいことではなく、しっかりと攻め切れる選手になるためのクリニックができたらなと思います」と明確なビジョンを提示し、個の力の育成にフォーカスした。

その上で、意識すべき4つのポイントとして「相手を見ること」「ストレートラインを取りにいくこと」「インラインのバトル」「両足でフィニッシュすること」を挙げた。2人1組でのドリブルドリルでは、ディフェンス役が腕を掴んだり押したりして邪魔をする中で、顔を上げて周囲の情報を吸収する練習が行われた。
片峯コーチは「ボールを脇に引き、ポケット(腰の位置)にしまえる選手というのは、そこで状況を判断できます。ずっとドリブルを突くのではなく、ボールをポケットに入れることで『ディフェンスを見てこっちが良いな』『パスの方が良いな』と判断ができる」と、次の動作への「タメ」を作る実戦的な技術を伝授する。「ただ自分が速く動くだけではなくて、ディフェンスの足を動かして、常に反対にいく。相手を見て、逆を取る。これがめちゃめちゃ重要なことです」と指導にも熱がこもる。さらに、スピードで相手を抜き去った後、ディフェンスの前に体を入れてブロックする「ジェイル」の技術や、コンタクトを恐れずに自分のコースを確保する「インラインバトル」の重要性も説かれた。


なぜこれほどまでに個の強さにこだわるのか。それは、世界戦で片峯コーチ自身が痛感した課題に起因している。「ボールを動かしてズレを作るという共通認識でこじ開けていくのではなく、とにかくゴールに向かっていく個の力が強い。それがそもそもなければ、相手からすれば脅威ではありません」と、綺麗なバスケで崩す前に、まずは1対1で決め切る圧倒的な個の力が必要不可欠であることを強調。世界で味わったことを糧に、自チームのみならず日本全体の中学生たちへと必要なことを還元した。
新潟で参加した男子中学生は「ディフェンスを見ながら状況に合わせて判断することが学べました。今日片峯さんに教えてもらったことをクラブに戻っても活かせるように頑張りたいです」と語り、女子参加者も「ジェイルしてからいったり、コンタクトしてからいくことで、しっかりゴールまでいけることが分かりました」と目を輝かせていた。
3人の名将に共通していたのは、決して派手なテクニックを教えたわけではないということだ。ディフェンスにおけるボディアップの徹底、攻撃的な構えへの意識改革、そして1対1の強さ。クリニックで伝えたことは、絶対に覚えてほしいベースである。いずれのクリニックの模様もYouTubeで配信されたので、ご覧になった方も少なくないはず。小中学生を対象としたクリニックではあるものの、日々の指導にあたる全国のコーチにとっても、本当に必要なことは何なのかを改めて考える良い機会になるかもしれない。
文/広瀬俊夫(月刊バスケットボール)、写真/吉田宗彦








