月刊バスケットボール8月号

Bリーグ

2026.07.22

ベルテックス静岡、変革の時 名将ジョン・パトリックHC就任でカルチャー再構築へ「静岡の皆さんが応援したくなるようなチームを作りたい」

「ALL SHIZUOKA」

2026-27シーズンのBワンに挑むベルテックス静岡は、このスローガンと共に新たなフェーズに突入する。2019-20シーズンにB3リーグに参入し、4シーズンかけてB2昇格。昇格初年度の23-24シーズンに早速B2プレーオフに進むと、2シーズン目の24-25シーズンには34勝26敗と勝ち越しに成功し、2シーズン続けてのプレーオフに進んだ。

しかし、主力の多くが退団した昨季は15勝45敗の西地区最下位と低迷。リーグ構造が変化する今季は、彼らにとっては再出発のシーズンとなる。2030-31シーズンのBプレミア参入に向けて収容1万人規模の新アリーナ計画も進んでおり、そこに向けた競技力の向上はクラブに課された最大のミッションの一つだ。

まさしく勝負の1年を迎える静岡は、新指揮官にジョン・パトリックHCを招へい。パトリックHCは日本では直近で23-24シーズンまで千葉ジェッツのヘッドコーチを務め、同シーズンにEASL(東アジアスーパーリーグ)での初代王者、そして天皇杯優勝にチームを導いている。日本でのキャリアは彼が現役の選手時代からで、指導者としては1999〜2002年のボッシュブルーウィンズ、05-06シーズンのトヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)、そして前述した千葉Jでのヘッドコーチ歴がある。日本語も堪能で選手たちとのコミュニケーションが円滑に取れ、日本人選手と外国籍選手の両方の特性を理解している点も大きい。


ベルテックス静岡 井上雅史GM

同氏のヘッドコーチ就任にあたって、井上雅史GMは以下のように契約の経緯を説明する。

「ベースにあるのはディフェンス。そこが非常に重要ではありますが、やはり速いテンポのバスケができるかどうかがキーかなと思っていました。それは日本のバスケにおいても重要なことだと考えています。その中で、候補者を4名ほどに絞って誰が一番ふさわしいか検討しました。基準としたのはグローバルスタンダード(世界基準)を持っているコーチかどうかです。パトリックHCはアメリカで生まれ育ち、プレーヤーとしても活躍されました。その後の日本での経験も踏まえ、アジアを知り、ヨーロッパのトップコンペティションで長い間コーチをしてこられました。そういった経験や世界的なバスケットボールの知識、データの重要性、状況が変わる中でどのような引き出しを持っているか。彼の知見は代えがたいものがありました。外国籍コーチの中でも、なかなか文化になじめないということもありますが、パトリックHCは日本のバスケだけでなく文化も熟知しているというところも、選考の中では大きな点でした。

もう一つ、彼がいかに勝つことや育成、アカデミーなどを大切にしているかを確認してきました。私も彼も負けず嫌いなので、やる以上は勝ちたい。ただ一方で、新しい段階に入ったベルテックス静岡にとっては土台を築いていくことがすごく重要です。子どもたちに夢を与えたり、地域のコーチたちとバスケの話をしてくれたり、彼がそういう対話をしてくれるところも非常に重要でした。そういったところを総合的に判断して、今回来ていただくことになりました」

パトリックHCも「ベーシックなプロセスを大事にしていきたいです。バスケにおいて大事なポイントは毎日同じ熱量、同じスタンダードで練習すること。それが一番チームにとって大事です。チームメンバーも19歳から38歳までの選手が集まっています。ベテランと若手の良いバランスを取って、ファストペースのバスケットをして、静岡の皆さんが応援したくなるようなチームを作りたい」と意気込んだ。

両者の考えが合致したことは、これらの言葉からも分かるが、そもそも過去にトップレベルの実績を誇るパトリックHCがなぜ前年にB2で低迷していたクラブのヘッドコーチを引き受けたのか──同氏は自身がドイツのゲッティンゲンを指揮していた06〜11シーズンの経験が大きいと話す。パトリックHCの就任1年目となった06-07シーズン、ゲッティンゲンはブンデスリーガ2部で1位となり、1部昇格を果たした。当時の経験をパトリックHCは「キャリアの中で一番モチベーションが高く、良かった時期」だと言い、静岡での挑戦が当時を彷彿させると声を躍らせた。

「当時は外国籍の選手を取る文化がなかったので、ドイツ人選手だけで戦って1部に上がりました。ゲッティンゲンという街はバスケがすごく盛んで、みんなで協力して作っていこうというチームでした。家族もその時期に一番楽しめたし、その当時を思い出しました」

まずは土台となるチームカルチャーを築き、その上に白星を積み上げていく。そのために重要になるのが「地元の選手の活躍」だとパトリックHCは語る。今季の静岡のロスターには同県出身の増田啓介と、静岡の飛龍高出身の山本愛哉(福岡県出身)がゆかりあるプレーヤーとして在籍している。後者は地元出身の選手ではないものの、高校時代には飛龍をインターハイベスト8に導いた実績もあり、静岡に縁深い選手としてクラブに愛されている。


山本愛哉

パトリックHCは特に彼らには「子どもたちのロールモデルになってほしい」と期待を寄せている。「ドイツでもそうでした。みんながその街の出身じゃなかったとしても、クラブにはアイデンティティーが必要です。静岡でのアイデンティティーがある選手とチームを作っていけるのはとても面白いことです。チームカルチャーはコーチから(生まれるの)ではなくて、彼らにはファーストフォロワー(発起人)だと思ってほしいです。(選手の)キャラクターや情熱が子どもたちのロールモデルになっていく環境や文化の中で働くのはとても楽しいことだと思います」

ちなみに、パトリックHCに「過去に静岡県とのゆかりはあるか?」と質問すると、和やかな表情でこう答えてくれた。

「はい、あります。33、4年前、当時の沼津学園(現・飛龍高)の先生に誘われて、何度も講習会で行ったことがあります。私が近畿大に通っていた1990年代から2000年代にかけても沼津学園出身の選手などとは何人も関わりがありました。近畿大でのルームメイトも沼津の子で、よく彼のお母さんにお寿司を食べさせてもらいました(笑)。今でもつながりがあります」

今季の静岡は、昨季限りで現役を引退した加納誠也を含めた10選手が退団し、ガラッとメンバーが入れ替わった。チャレンジを心待ちにする新指揮官と共に、ベルテックス静岡の挑戦が幕を開ける。


左から井上雅史GM、ジョン・パトリックHC、松永康太代表取締役社長

写真/ベルテックス静岡、B .LEAGUE、文/堀内涼(月刊バスケットボール)

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