月刊バスケットボール8月号

Bリーグ

2026.07.16

【Bリーグ】選手の心停止に立ち会った相手チームATが語る、急時の対応策の変化──神鳥亮太「あの一件があってから『自分たちがやらなきゃいけないんだ』という雰囲気になった」

Bリーグは、7月2、3日に東京都内で試合中の緊急時にいかにして人命確保をするのかを各クラブに伝えていく「SFR(スポーツファーストレスポンダー)養成講習会」を実施した。昨年から規模を拡大して行われている同講習会において、2日目の午前中は各クラブのアスレティックトレーナー(以下、AT)を対象に、頚椎保護が必要な腹臥位への対応、脳振盪疑い時の嘔吐への対応、心停止の3パートのシミュレーション訓練を実施。そのパートを取材することができた。

特に、心停止については2025年1月に当時滋賀レイクスに所属していたハビエル・カーターが試合中に倒れた事例が記憶に新しい。当時は滋賀のATをはじめ、運営スタッフの事前のシミュレーションによって、円滑な対応をすることができ、カーターも一命を取り留めた。

こういった事例で重要になってくるのが、当時の滋賀のようにAT以外のスタッフも急時の対処法を理解し、ATが的確な指示を出す“司令塔”になれるかどうか。例えば、心肺蘇生、気道確保、AED準備の対応だけでも3人のスタッフが必要になる。クラブによってはこれだけでもATの数を超える可能性もあるため、運営スタッフの手を借りる必要が出てくるかもしれない。そうなった場合、何千人ものファンが集まるアリーナの中央でどれだけ冷静かつ迅速に状況を判断し、適切な指示のもとその事案に対処していくのか。

カーターの事例の反省点としては、彼が倒れ込んだ後に心配した両クラブの選手がカーターを取り囲み、動線確保のために選手を引き離すのに時間を要したことが挙げられる。こういった事例を受けて、現在では同様のシチュエーションが起こった際には各クラブのチームマネージャーが自クラブの選手をその場から引き離すことが、リーグルールとして設けられているそうだ。


講習会の様子。数人でグループを作り、1人が受傷者役となり、実際の事案の映像をもとに他メンバーで対処する。迅速さはもちろん重要だが、事案によってはそもそも受傷者を動かさない方が賢明なケースもあるため、どんな処置が適切かを判断する力が求められる

各クラブのATが集結した今回の講習会の中で、秋田ノーザンハピネッツのヘッドアスレティックトレーナー神鳥亮太さんがインタビューに答えてくれた。神鳥さんは北里大を卒業後にジャパンラグビーリーグワンに所属する豊田自動織機シャトルズのヘッドアスレティックトレーナーを務め、2019-20シーズンから活躍の場をBリーグへ。シーホース三河を皮切りに、4クラブでその手腕を発揮し、2026-27シーズンから秋田に籍を置くこととなった。

なぜ、神鳥さんへのインタビューを試みたのかというと、実は同氏は昨季まで三遠ネオフェニックスのハイパフォーマンスディレクターを務めており、カーターが心停止した試合に対戦相手のスタッフとして立ち会っていたのだ。神鳥さんは対戦相手の視点からあの出来事をどう見ていたのだろうか。

──まずはSFR養成講習会を受けて、自クラブのスタッフ陣にどんなことを還元していきたいか教えてください。

この講習会から参加している我々が各クラブに知識を持ち帰って、クラブのスタッフに広めていかないと最終的な(急時の)体制を構築できません。それを共有していくことが自分たちに与えられたミッションだと感じています。Bリーグのシーズンは7月1日から始まるので、これまではそこに合わせて資格などを取っていって、「いよいよシーズンが始まるな」という気持ちになっていったんです。今はBリーグとしてこういった講習の場を作ってくださっていることでシーズンの始まりのスイッチが入る機会にもなっていると思います。

ただ、全員が参加できるわけではないので、実際はここに参加できないトレーナーも多いんですよね。その中で、参加できなかったメンバーに参加している自分たちがどう知見を落とし込んでいくかはこれからの課題だと感じました。

──講習会の中で、ATが周囲のスタッフにどう動くのかの指示を出すことが求められるという話もありました。そうした場面に遭遇したことは、神鳥さんのキャリアの中でどれくらいありましたか?

僕は最初ラグビーの現場にいたのですが、ラグビーは脳振盪などがすごく多くて、毎試合ではないにしても2、3試合に1回くらいはストレッチャーを出して処置していたくらいでした。ラグビーに比べると、バスケは試合数が多いですが、そういう場面に出くわすことは少ないです。だからこそ、そういう事態に備えることの難しさはあるんですよね。頻度が少ない分、(慣れや実技が少ないので)準備は難しいかもしれません。

──リーグワン時代は「こういう事例が起こったらチームとしてこう対処する」といったルール整備などはしていましたか?

そもそもラグビーの場合、ピッチに入るために必要な資格が決まっているんですよね。必要な資格を持っていないと、(急時の際も)ピッチに入ることができません。ただ、バスケはそうではないので、例えばコートに6、7人のスタッフが救護のために入ったとしたら、そのうちの4、5人は運営側のスタッフなんです。彼らはそもそも体を触るような仕事の方ではないので、そういった方々が救護の際に動きやすいようなメッセージを僕らが伝えていく必要があります。その難しさはやはりありますね。

──カーター選手が倒れた試合で、滋賀はクラブとして事前に救護体制を整えていたとお聞きしました。実際のところ、チームと運営とが事前にすり合わせをすることは実際どれくらい難しいものなのでしょうか?

前のシーズンは開幕前にシミュレーションをやったんです。でも、それもクラブスタッフの方はそちらの業務があって、我々はチームの業務があるので、スケジュールを合わせるのはやはり難しいです。でも、カーター選手の一件があってからはクラブスタッフの方の意識も変わってきて、「自分たちがやらなきゃいけないんだ」という雰囲気になったので、我々としては話しやすくなったなと思います。


試合当日のカーター(写真中央)

──あの滋賀戦は対戦相手として三遠のベンチにいらっしゃいましたが、どのような状況だったのでしょうか?

僕は普段、なるべくコート全体を見渡せる位置にいるようにしているのですが、滋賀のホームアリーナは作り的にアウェーチームのベンチ側からコートが見えづらいんですよね。だから僕はチームベンチの後ろの、観客席の隣のあたりに立っていました。角度的に何が起こっていたのかは見えづらかったのですが、まず選手が1人倒れたのは分かったんです。そして、ユニフォームの色でそれが三遠の選手じゃないことも分かりました、でも、うちの選手が僕の方を向いて「来い来い!」って呼んでいて。その瞬間は状況を理解していなくて、「なぜ僕らが呼ばれているんだろう?」という感じだったんですけど、帯同してくれたドクターと一緒に向かうと、心停止だということが分かりました。

──その段階で滋賀のスタッフはどのような対処をしていたのでしょうか?

まずは滋賀のトレーナーとドクターがいて、ほかのスタッフもいたと思います。その上で選手が輪を作って(負傷者を囲む)壁を作ってくれていたんです。あの壁を選手が作ってくれたことで、観客の視界への影響は最小限に防げたと思うんです。後になって、あのシーンを見てしまって体調が悪くなった観客の方も多かったと聞いたので、あれがなかったらもっと大変なことになっていたかもしれないと思いました。なので、あの選手の行動自体はすごく良かった面もあったと思いますし、よくあの判断をしてくれたなと思いました。

その後AEDが届いていたのですが、ストレッチャーがなかったんです。僕は現場を俯瞰して見ていて、「ストレッチャーがない、資機材がない」と分かっていたので、僕が取りに向かいました。ただ、ストレッチャーを入れようにも選手が壁になって塞がっていたので「どいて、どいて」とかき分けて入る状況にもなりました。

──滋賀のスタッフともその場で連携したということでしょうか?

例えば、ああいう場面で使ったAEDを(救命隊に引き渡す前に)勝手に外すことはできないので、「誰がそれを持って搬送するか」といった本当に細かい役割分担まで手が回っていなかったです。その辺りを僕がサポートしながら処置しました。「シールド(隠す布)を張る」「搬送経路に誘導する」といった対応をされていましたが、あの時点での我々の想定よりも多くの役割が実際には必要だったんです。

──特にどのようなことが今後、同様の事例が発生したときに必要だと感じましたか?

後から分かったことですが、やはり一番は観客への配慮です。選手の安全を守るのはもちろんですが、観客への影響にもっと配慮が必要だと感じました。具体的には、あの試合で選手を搬送した通路の奥に医務室があったんですけど、僕たちが選手を搬送して戻ってくるときに、体調が悪くなった観客の方が医務室の方に歩いて行かれていたのを見ました。それを見て、「こんなに体調が悪くなる方もいるのか」と思いながら自チームのベンチに戻りました。

正直、僕たちはコートのことばかりを見てしまうので、観客への影響についてはそれまで考えたこともありませんでした。バスケのアリーナってコートと観客が近いですよね。ラグビーだとピッチとスタンドは距離がありますが、バスケは目の前で受傷した選手などが見えてしまう。そこに対する配慮が必要なんだと気付きました。とはいっても、観客への配慮をどうしていくのかは非常に難しいところではあります。

──カーター選手の一件以来、三遠として急時の対応策を変えた部分はありましたか?

はい。一番変えたのは資機材の管理方法です。それまではAEDとストレッチャーを別々の場所に置いて管理していたのですが、よく考えるとAEDを使うということは搬送が必要になるということですよね。だからあの一件以来、AEDとストレッチャー、搬送資器材を全部セットにして1箇所にまとめるようにしました。

現場でEAP(緊急時対応計画)のハンドサインが出たときには、必要な資機材だけを持っていくのではなく、まとまっている資機材を全部持って行って現場でどれを使用するのかチョイスする。そうするだけでも必要な資機材を探す時間を省くことができますし、人手が足りないときには運営側のスタッフに「あそこにまとめてあるから全部持ってきて」と簡潔に指示が出せるようになりました。

──今季から秋田に移籍しますが、あの一件で経験したことは秋田にも還元していきたいですか?

もちろんです。リーグの方に聞いたところによると、カーター選手の件は「1万試合分の1件だった」とおっしゃっていたので、そういうある意味で貴重な経験をした立場なので、今でも「あのときはどうだったんですか?」と聞かれます。その経験はどんどん伝えていきたいなと思いますし、あれが一過性のものになるのではなく、継続的に伝えていくことはこれからも必要だと思います。


神鳥さんは今季から秋田に移籍し、自身の経験を伝えていく


同日午後にはATだけではなく、クラブの運営スタッフも交えた講習会も行われた。昨年のカーターの件のような事態が今後もし起こった際には、どのスタッフがどの役回りでその事態を乗り越えていくのか。ATらチームスタッフだけでなく、まさしくクラブ一丸での対応が求められる。その観点で見たときに、全クラブのスタッフが一堂に介して知識や自クラブの事例や想定する対応策などを共有できる場が設けられたことには大きな意味があるだろう。

写真/©︎B.LEAGUE、編集部、文/堀内涼(月刊バスケットボール)

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