監督不在の危機を、成長の機会に変えた山梨学院
6月6、7日、栃木県の日環アリーナ栃木で「令和8年度関東高等学校男子大会兼第80回関東高等学校男子選手権大会」が開催された。決勝は2月の関東新人大会と同じく、山梨学院と日本航空の山梨県対決。手の内を知る同士、白熱の展開になった。
一進一退のクロスゲームとなる中、4Q途中、#9井ノ岡源聖の3Pシュートや#55瀧沢龍成の得点で主導権を握ったのは日本航空だった。対する山梨学院は、#30前田瑛太の負傷退場や#55サム・ディオフのテクニカルファウルでリズムを崩し、残り2分半で7点差と苦しい展開に陥る。
それでも、この勝負どころでエースの#95コッシーオ・アンドレイが起死回生の3Pシュートを決め、さらには#95アンドレイのアシストで#12ファリル・ディエイのバスケットカウントを演出。69-69で延長戦へと持ち込むと、勢いそのままに山梨学院がリードを奪った。最後は#21桂川遼太郎のジャンプシュートや#12ディエイのダンクシュートで勝負を決定付け、81-74で関東王者の座をさらった。
試合後、ガラガラの枯れた声で「本当にうれしいです。チームで一つになって戦えました」と語ったのが、ゲームキャプテンの#7安原楓真。大会前に負った肉離れの影響もあり、全4試合、コートには1秒も立てなかったが、それでも彼の存在感は絶大だった。ベンチから声を張り上げ、タイムアウトでは自らスコアボードを手に仲間へ指示を出す。まるでコーチのように、チームを支えていたのだ。
山梨学院は今大会、江﨑悟コーチが体調不良で不在。代わりに指揮を執ったのが、#7安原の父親である安原大輔アシスタントコーチだった。
「監督が来られないと聞いて、『大丈夫かな』と心配でした。それでも、父と一緒に頑張ろうと思いました」と#7安原。ミニバス、中学時代も父がベンチで指揮を執ることがあり、違和感はなかった。急な話ではあったが、親子で力を合わせ、監督不在のベンチを引き受けた。
#7安原は高校までは選手としてプレーするが、将来的にはコーチを目指す予定だ。
「教えるのが好きで、それで人が喜んでくれたときが本当にうれしい。大学では選手ではなくコーチをやりたいと思っているので、今大会は逆に良いチャンスが与えられたんだと思うことにしました」

笑顔で指揮を執った父・安原大輔アシスタントコーチと、息子・#7安原楓真 また、#7安原のみならず、山梨学院は選手一人一人がコーチ不在のピンチを成長の機会に変えていた。現3年生は、江﨑コーチが同校でリクルートした最初の代。ゲームキャプテンの#21桂川はこう振り返る。
「去年などは、僕らの代のリーダーシップが足りないことがずっと課題でした。でも今大会は監督がいない中、自分たちがやるしかなくて、そこでだいぶ成長できたと思います」
常に留学生2人に声をかけ続けていた#1岡本素直も、「ゴール下は4番ポジションと5番ポジションが声をかけ合わないとゾーンディフェンスがうまくいかないので、意識的に声をかけるようにしていたら、自然と常に声が出せるようになってきました」と語る。
3学年がそろった勝負の年、ようやく3年生たちの強い自覚が、リーダーシップという形に現れ始めた。#7安原もベンチからそれを実感したようで、「自分たちの代はちょっと自己中心的で、周りを見れないやつが多かった。でもここに来て、チーム全体を見れる選手が増えました。関東予選で日本航空に負けた分、絶対負けないという気持ちをみんな持っていたのが良かったんだと思います」と手応えを口にする。
決勝のみならず、土浦日本大との1回戦、埼玉栄との2回戦、八王子学園八王子との準決勝と、すべての試合がどちらに転んでもおかしくない展開だった。それでも、コート内で何度もハドルを組んでコミュニケーションを取り、ベンチからも常に心強い声かけがあったからこそ、苦しい時間帯で粘り強く我慢できた。それが関東王者の称号をたぐり寄せる、大きな要因になったようだ。
#7安原は今後に向け、「監督が戻ってくるので、監督と自分たちで力を合わせて予選に勝って、インターハイでも優勝したいです」と意気込みを口にする。
悔しさと手応えを持ち帰り、県予選での雪辱を狙うチームたち
延長戦の末に敗れた日本航空も、決して力不足だったわけではない。関東予選では山梨学院に勝利しており、今大会も準決勝までの3試合はすべて点差を開く快勝だった。
山本裕コーチによると「今大会でテーマにしていたのはトランジション」。サイズはないものの、リバウンドから素早い切り替えで簡単に得点をさらう場面がたびたびあり、その点では手応えもある大会となっただろう。
キャプテンの#9井ノ岡も「最後の部分でリバウンドやターンオーバーのミスが連発してしまいました。そこは修正していかないといけない」と悔しさをにじませつつ、「去年の悔しさや今大会の反省を糧に、強い気持ちで予選は絶対に勝ち切りたい」と前を向いていた。
その日本航空に敗れた正智深谷は、創部初の留学生#21Gach Rin Majak Agokが加入。“リン”と呼ばれる彼を含め、スタメンの4人が1、2年生という下級生主体のチームだ。成田靖コーチは「日本人だけなら容赦なくゾーンディフェンスに変えたんですが、その準備がまだできていなかった。リンの生かし方など、僕自身もまだまだ勉強しなけれないけない」とチームの形を構築中。
一方で、東海大相模との2回戦では「期待を込めて3年生を長く使って、それに応えてくれました。今シーズンに入って一番いい試合ができたかもしれない」(成田コーチ)と全学年の力が合わさった手応えも。関東予選で埼玉栄に敗れたのを機に、「留学生に合わせるのではなく、正智深谷らしいバスケットに留学生をなじませる方向性に切り替えた」ことが功を奏したようだ。ケガから復帰して今大会スタメンでプレーした#9富澤龍一郎も、「リンに頼り過ぎず、得点もリバウンドもまずは日本人の僕たちが頑張らなければと思います」と話していた。

同じく3位に入った八王子学園八王子も、今年は大黒柱の#0ニャン・セハセダト以外、主力に下級生が多い。今大会は「3Qでガクンと落ちる、息切れしてしまう部分があった」(伊東純希コーチ)と課題が露呈したが、「新人戦のときに課題となった得点力不足の部分は、1年生が良い働きを見せてくれた」と好材料も見つかった。インサイドに揺るぎない柱があるだけに、これから大化けしそうなポテンシャルを秘めたチームだ。
そのほか、優勝した山梨学院に1回戦で競り負けた土浦日本大(69-72)や、2回戦で敗れた埼玉栄(63-69)、日本航空に敗れたものの貴重な経験を積んだ拓殖大紅陵など、惜しくも明暗は分かれたものの高い実力を見せたチームが多数あった。埼玉栄の小野凌コーチは「向こうが1枚も2枚も上手だった」と認めつつ、「リバウンドでは4:6くらいで負けていると思いますが、4まで持っていけたから競り合う試合ができた」と語り、手応えと課題を両方手にした様子だ。

一方、Bブロックでは市柏(千葉4位)がつくば秀英(茨城2位)を下して優勝。稲野辺聡コーチは「優勝を狙っていました。練習試合では戦えても、経験不足や緊張などから公式戦で力を出し切れない。そこを変えるために勲章が一つでもあればと思い、自信を作りたかったんです」と今大会でのテーマを明かす。2日間で大きな自信を得て、インターハイ予選につなげられそうだ。一方、Bブロック準優勝にはなったが留学生を擁するチームを2校倒し、貴重な経験を得たつくば秀英。稲葉弘法コーチは「チームディフェンスの方向性が見えてきました。伸びしろを見失わないようにしたい」と、先を見据えていた。
接戦が目立った今大会の様相からも、インターハイ県予選はどの都県もし烈を極めることが予想される。中でも1枠を争う山梨県は、今大会の決勝同様にハイレベルな激闘となるだろう。それぞれが手にした今大会の収穫を糧に、夏へと駆け上がっていく。