月刊バスケットボール7月号

Bリーグ

2026.06.08

川崎ブレイブサンダースが描く未来――川崎渉社長が語る、スポーツクラブが創る次の常識

1万2,000人の新入生へ贈る「サンダースギフト」に込められた想い


多くの子どもたちが新入学や進級を迎えたこの4月、川崎ブレイブサンダースは神奈川県川崎市内の新小学1年生全員となる約1万2000人へ「にゅうがくおめでとう!川崎ブレイブサンダースギフト」を贈呈しました。「川崎からバスケの未来を作っていきたい」と川崎渉社長が語る通り、同クラブはSDGsプロジェクト「&ONE(アンドワン)」を推進しています。しかし、こうした取り組みも、クラブが描くビジョンの一端にすぎません。事業活動との両輪で持続可能な地域貢献を目指す背景には何があるのか?スポーツが地域の人々をつなぐ力とその可能性について聞きました。

――3月下旬、川崎市内の小学1年生1万2000人へ「にゅうがくおめでとう!川崎ブレイブサンダースギフト」を贈呈されました。Bリーグ初の試み*となる取り組みを実施した背景を教えてください。

川崎)川崎市の新入生は、1学年だけで約1万2000人います。これほど多くの子どもたちが一斉に新生活を始める都市は、全国的にも稀だと思います。私たちが掲げるミッションは「MAKE THE FUTURE OF BASKETBALL —川崎からバスケの未来を—」。未来そのものである子どもたちに、バスケの力を還元したいと考えました。小学校入学という人生の大きな節目であり、新しい友達と「バスケが好きなんだ!」「この選手を知っている?」など会話が弾み、絆が深まるきっかけになってほしい。そんな願いを1万2000人分のギフトに込めました。 *川崎ブレイブサンダース調べ



川崎市役所にて行われた贈呈式での川崎渉代表取締役社長




――企画のスタートはいつだったのでしょうか?

川崎)構想から実施までは約1年です。市を巻き込んだ本格的な準備には、10か月の歳月を費やしています。今回の取り組みは、クラブとスポンサーの合意だけで完結するものではありませんし、一方的に配布をお願いしても、学校ですんなり受け入れてもらえるものでもありません。川崎市と直接話せる関係性ができていたこともあり、市や教育委員会に相談し、「どのようなものが、本当に子どもたちの役に立つのか」というヒアリングから始めました。その中の一つが反射材付きのグッズです。小学1年生になると一人歩きが増えて事故に遭遇する確率が高まる年であるため、交通安全の観点が不可欠だという助言もいただき、幸いクラブスポンサーであるヨシノ自動車様がその領域の専門企業であったため実現へと至りました。

――スポンサー企業の反応はどんなものでしたか?

川崎)非常に良い反応をいただきましたね。スポーツクラブの協賛はアリーナ内に留まるケースが多い中、地元の小学校全域に対して企業として恩返しやマーケティングができる点について、他の提案とは全く違うと高く評価していただきました。今後の展開にもつながる最初のケースになったと思います。

――贈呈式でも子どもたちの笑顔が印象的でした。

川崎)新1年生以外のご家族から「もっと早くやってほしかった」という声もいただきました。また贈呈式に参加した子が試合会場に来てくれて「もう使っているよ!」とトートバッグを見せてくれるなど、確かな手応えを感じています。変わったところでは、最近商店街の店主からも「孫がもらってきたよ。全員に配るなんてすごいね」と声をかけられるなど、街全体に波及しているのを実感し、非常にうれしく思っています。



――その他、「川崎ブレイブサンダースこども新聞」や「KAWASAKI GLOBAL CHALLENGE NOTE」など、子どもたちへの働きかけを行っていますね。

川崎)はい。経緯は様々ですがスポンサー企業様の想いや川崎市との密な連携があって実施できているものです。ただ、これら活動の効果については、長期的な視点が必要だと考えています。例えば今回のサンダースギフトのように、子どもたちの安全や学校での新生活、友達づくりにおいて、私たちが提供できるのはあくまでバスケットボールや選手を通した“きっかけ”です。そこから興味や関心を抱いてもらって、学校やご家庭で頑張ることを見つけてもらえればいいなと思いますし、それが課題解決の未来に繋がっていくと思っています。


川﨑ブレイブサンダースが設立したバスケットボールも出来るこどもの居場所 ザ・ライトハウス


子どもたちと握手、忘れられない思い出になるはず(ザ・ライトハウスにて)



川崎)私たちは「川崎を、より住んで幸せな街にする」という目的にコミットしています。川崎市はその歴史的背景等から外国にルーツを持つ方が多い場所です。特に新アリーナの建設予定地である川崎区では、人口の約9%が外国人だそうです。川崎市では「Colors,Future! いろいろって、未来。」という多様性を掲げたブランドメッセージがあり、私たちも強く共感しています。バスケットボールという競技は、必然的に外国籍選手と共に戦うスポーツであり、時にはコート上の日本人が少数になる場面もあります。そのような「多様性や価値観の違いが力に変わる瞬間」を、身近な気づきとして提供することも私たちにできる“きっかけ作り”だと考えています。



「KAWASAKI GLOBAL CHALLENGE NOTE」贈呈時の様子

――それはクラブのSDGsプロジェクト「&ONE」の意義に通じる部分でしょうか?

川崎)はい。私たちがすべての課題を解決できるわけではありませんが、クラブだからこそ作れるきっかけは必ずありますし、それが結果として事業成長やビジョン実現にもつながっていくと考えています。社会活動と、それを継続するための資金確保は“両輪”であるべきです。これらを切り離さず、健全なサイクルで回していくことこそが、プロスポーツクラブとしての正しい事業活動の姿だと考えています。

――今後、新たに実現したい理想像を教えてください。

川崎)理想像は2つあります。「&ONE」のコンセプトが川崎という街を住んでより幸せにするというものなので、それに資することであれば何でも挑戦していきたいですし、「ブレイブサンダースがあるからこそ川崎は良い街だ」と思ってもらえることが1つです。もう1つは、川崎だけにとどまる必要はないということです。川崎市の歴史を振り返ると、挑戦を繰り返してきた街であると感じます。我々も同じくチャレンジを大切にしているクラブです。パートナーと連携し、地域の子どもたちに恩返しをする活動が、スポーツクラブの当たり前の施策となり、日本全体に広がっていけば、それは次の常識を作ることになります。川崎を幸せにするという目的と同じ強度で、次の常識を作っていきたいという強い思いがあります。

――新アリーナ(2030年10月開業予定)が開業となれば、活動の幅はさらに広がりますね。

川崎)新アリーナに向けての機運は高まっています。一方で、アリーナができてから何かを始めるのではなく、できる前からパートナーを巻き込みながら進めているのが実態で、未来に向けて進んでいっている感覚を持っています。今後、より様々なインパクトが出せると思います。

次回は長谷川技選手のインタビューをお届けします。

取材協力:Bリーグ

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文/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)

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