月刊バスケットボール7月号

学生

2026.06.16

東京医療保健大で「スポーツ科学副専攻」が本格始動。恩塚亨監督が語る、スポーツで培う「夢を叶える力」

日本一の現場を「生きた学びの場」に


2026年4月、東京医療保健大で「スポーツ科学副専攻」が本格始動した。

2005年の開学から昨年20周年を迎えた同大。国内最大規模の看護師養成校であると同時に、恩塚亨監督が創部した女子バスケットボール部が輝かしい実績を積み上げてきた。一流の医療人材と、一流のスポーツ人材。その双方を育成してきた実績を礎に、新たに生まれたのがこの副専攻だ。

副専攻ではスポーツ科学の実践的な学びを得ることができ、描く主なキャリアの出口は「コーチ」「アナリスト」「マネージャー」「トレーナー」の4つ。星槎大との連携により中学、高校の保健体育科教員免許の取得も可能だ。定員は30名。初年度に限らず、来年度も30名を上限として少数精鋭を貫く方針だという。

亀山周二学長は、ビデオメッセージでこう力を込めた。

「この学びの最大の武器、それは大学ナンバーワンを誇る我が女子バスケットボール部という、最高の生きた学びと実践の場があることです。日本一という頂点に挑むプロセスには、緻密なデータ分析、身体能力を最大化する科学的アプローチ、そして強じんなメンタリティの構築が凝縮されています。(中略)他大学では決してまねできない、理論と実践が高度に融合した本物の教育を展開します。情報データが勝利へと変わるダイナミズム、これをぜひ肌で感じてください」

開設記念特別講演――「夢を叶えるためのマインドセット」


副専攻の始動に先立つ3月31日、国立病院機構キャンパスにて開設記念特別講演会が開催された。恩塚監督が登壇し、テーマは「夢を叶えるためのマインドセット」。女子バスケ部の学生たちも熱心に耳を傾けた。

恩塚監督は講演の冒頭、こう切り出した。

「私たちは、“どうスポーツをすると”人生が豊かになるか?」

スポーツに打ち込む若者は、ときに「スポーツばかりやっていて将来大丈夫だろうか」「世界が狭まっていくのではないか」と不安を抱える。だが恩塚監督は、突き詰めれば突き詰めるほどに世界はむしろ広がっていくと断言する。「スポーツを突き詰めて成果を出そうとすることで、自分の人生で夢を叶える能力そのものが広がっていく」ーーそれが、これまでの経験と学びからたどり着いた確信だ。

女子日本代表スタッフとしてオリンピックに三度関わった上、スポーツ界の枠を越えて多くの成功者に会い、古典やビジネス書、自己啓発書などを1000冊以上を読み込んできた恩塚監督。「夢を叶えられる人間」のことを、極めてシンプルにこう言い表す。

「夢の叶え方を知っていて、行動し続けられる人である」

叶え方とは、すなわち賢さであり効果的な戦略である。そして行動とは、どんなときもやり抜く強さ、ぶれない人格そのものにほかならない。賢さと強さ、この両輪がそろって初めて人は目標に到達できる。逆にいえば、夢の叶え方を知らない人や、行動しない人は夢を叶えられないだろう。これはスポーツにとどまらず、どんなことにも言えることだ。

「やらなきゃ」から「やりたい」へ


恩塚監督は、自身の指導観の転換点となったエピソードを紹介した。かつて「やらなきゃいけない」というスタンスでチームを厳しくけん引し、インカレで3連覇を果たしたものの、選手たちの表情は晴れなかった。そこで多くのことに気付かされたと、当時を振り返る。

心理学や脳科学を学ぶなかで彼が出会ったのが、「Have to(しなくてはならない)」と「Want to(したい)」の決定的な違いだった。

「やらなきゃいけないと思った瞬間、人間は逃げる理由を作り出してしまう。これを心理学で『創造的回避』と言うんです。100%自分を納得させてしまうほど、説得力がある」

それを象徴するのが、2020年のシーズンだった。

2020年、プレッシャーのかかる練習を重ねてきたエースの赤木里帆(富士通)が、いざ試合でボールを持つと、その瞬間にパスを選択していた。何度説明しても直らない。

そんな姿を見て、恩塚監督はやり方を根本から変えた。一人一人に「どうなりたい?」と問いかけ、理想のイメージを形にして選手自身の「Want to」を引き出すようにアプローチしたのだ。

すると「やらなきゃ」もしくは「これをしたらダメだ」という“我慢”が、たちまち「私はこうしたい」「こっちの方がほしい」という“選択”に変わった。理想の自分になるために、選手たちの日頃の生活習慣までもが自然と変わっていったという。

赤木の場合は「レブロン・ジェームズ(レイカーズ)になりたい」。そうしたマインドが、彼女に消極的なパスではなく強気なドライブを選択させるようになった。最終的に赤木はインカレ決勝で26得点の大活躍。MVPと得点王に輝き、4連覇の立て役者となった。

何のために目標を持つか。自分を理想に向けて突き動かすためだ。目標とは、重荷になるようなノルマではなく、「これを達成したら、なりたい自分に近付ける!」という自分の理想の未来にリンクするような、自らをワクワクさせるものでなければならない。

ビジネス界の研究では、「Want to」で取り組んだほうが「Have to」で取り組むよりも生産性が最大756倍、利益で50倍違うとされるデータもあるという。近年、恩塚監督が繰り返し口にしてきた「ワクワクのマインドセット」とは、決して甘さや楽観ではない。最高のパフォーマンスを引き出すための、科学的な選択なのだ。


桃太郎から学ぶ「夢の壮大さと愚直さ」。「執念」と「執着」を切り分ける


人はどんなときに行動したくなるか。恩塚監督はやる気の発火点として、3つの条件を挙げる。「すばらしい夢を心に描けていること」「うまくいく効果的な方法を理解していること」「自分ならできると信じていること」。この3つがそろうと、人は自然と前に進みたくなる。逆に、エネルギーが湧かないとき、毎日がつまらなく思えるときは、このどれかが欠けているに過ぎない。

そして描く夢は、壮大であるほどよい。なぜなら「これができたらうれしい!」と本気で思える感情こそが、エネルギーになるからだ。引っ張られる輪ゴムのように、遠く離れたゴールに向けて前進する巨大な力が生まれる。「夢は大きく、やることは愚直に」――。恩塚監督が引き合いに出したのは、寓話の「桃太郎」だった。鬼退治を「1人でもやる」と決めて旅に出たからこそ、犬、猿、キジが仲間になる。「私にはできないかもしれない」と尻込みしている人と、誰が一緒に戦いたいと思うだろうか。夢の壮大さと愚直さは、その人自身の魅力となって周囲を巻き込み、結果として仲間を増やす力に変わる。

夢を叶える過程では、プレッシャーや妨害など、多くの壁が立ちふさがる。そして人は逃げるための言い訳を作りたがる。だからこそ、と恩塚監督は言う。

「未来の『目標』と、過去の『結末』はしっかり切り分けたほうがいい」

目標に対しては、言い訳せずに徹底的に「執念」を持って向かう。ライト兄弟は、執念があったから無理だといわれた飛行を成し遂げた。日本一を目指すならば、成長至上主義になるのではなく、あくまで勝ちにこだわるべきである。

一方、終わったことに対しては「執着」しない。「負けたらどうしよう」という結果の良し悪しへの恐れを捨てるのだ。失敗とは、自分を否定する情報ではなく、「このやり方ではうまくいかないんだ」という貴重なデータでしかない。そう受け止め直すことで、人は軽やかに次の挑戦に向かえるようになる。

「全力で目標を追求して、結末はさわやかに受け止める。引きずらない。その学びを生かして、軽やかに次の挑戦に向かい続ける。これこそが、夢を叶える力ではないでしょうか」

そして、その際の条件は「全力、全体重をかけること」だと恩塚監督は強調する。片足だけ乗せた挑戦では、自分の現在地も、目標とのずれも見えてこない。怖がらずに自分のすべてを徹底的に懸けてこそ、結果が「自信」もしくは「学び」を運んできてくれる。

スポーツの力で社会課題解決へ

ある年、女子バスケ部でビデオ分析を担っていた学生が、圧倒的な評価を得てとあるB1クラブのアナリストに採用されたという。「私たちのスタンダードは、プロの世界で通用するものなんだ」と恩塚監督は実感した。スポーツ科学副専攻が始動した今後も、ハイレベルな環境の中で即戦力となる人材を育成していく構えだ。

ただ、目指すのは単なるバスケットボールの分析力や競技力の向上ではない。講演でも語られたように、スポーツを通して、「がむしゃら」よりも「判断」を大事にすること、「やらなきゃ」よりも「やりたい」をデザインすることなどを学び、夢を叶える能力を培う。スポーツにそうした価値を見いだすことが、スポーツに励む人々の人生そのものを豊かにするのだと、恩塚監督は説明する。

「スポーツを通じて人生を豊かにするための“たしなみ”を共有できれば、競技現場における暴言・暴力の問題や、子どもたちの主体性をめぐる課題など、今の社会課題の解決にもつながると思います。プレーを判断するということ自体が、主体性ですから。スポーツをするってこんなに良いことがたくさんあるんだなと、たくさんの人に思ってもらえたら」

新たに走り出した東京医療保健大スポーツ科学副専攻。コート上でも、社会のあらゆる舞台でも、夢を叶えていける人材をここから世に送り出していく。



文・写真/中村麻衣子(月刊バスケットボール)

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