“Mr.キングス”岸本隆一の退団を琉球が発表「僕自身一つの区切りになります」

新たなチャプターへ踏み出した岸本
5月29日、琉球ゴールデンキングスは、クラブの象徴であり“Mr.キングス”と称される#14 岸本隆一選手との契約が満了となり、退団することを発表した。沖縄県出身の岸本は、大東文化大在学中の2012-13シーズンにアーリーエントリーでキングスへ入団。以来、bjリーグ時代からBリーグへの移行期、そして現在に至るまでの14シーズンという長い年月をキングス一筋で駆け抜けてきた。
通算リーグ優勝3回、地区優勝9回、さらには天皇杯や国際大会(EASL)の制覇など、クラブが獲得してきた栄光のほぼすべてに貢献。ディープ3Pシュートや巧みなプレーで幾度となくチームを救い、名実ともにクラブの歴史を築き上げてきた。
退団にあたり、クラブは「岸本選手が注いでくれたそのすべてが、キングスの文化となり、これからも続いていきます。岸本選手の長年にわたる献身なくして、現在のキングスはないと確信しています」(要訳)と最大限の感謝と敬意を表明。
岸本自身もクラブを通じてコメントを発表し、「bjリーグに始まり、Bリーグに変わり、環境や人、バスケットスタイルが変わっていく中で14年間、素晴らしい経験をさせていただきました。充実感と力不足の両方を感じていますが、キングスにとってはまだまだ通過点。僕自身も一つの区切りになりますが、まだ道の途中です。どこへ行っても僕自身どこで生まれ、どこから来たのかを忘れず前進していきたいと思います。
14シーズン、ありがとうございました」(要訳)と、感謝とともに新天地への決意を語った。

等身大であり続けた“普通の人”が遺したもの
わずか3日前、横浜アリーナのコートには、岸本隆一の姿があった。「りそなグループ B.LEAGUE FINALS 2025-26」GAME3。激闘の末に長崎ヴェルカに敗れ、頂点に立つという目標は潰えた。
昨シーズン、岸本はケガのためにファイナルのコートに立てなかった。だからこそ、今季新たに加入した佐土原遼が「隆一さんを日本一にしたい、その気持ちがみんなに強くあった」と語ったように、チームメイトは彼の背中を追い、彼を勝たせるために一丸となって戦ってきた。しかし、結末は無情だった。
試合直後の会見、岸本は「悔しさというよりは、なんか虚しさというか…。正直、今はなんとも言えない気持ちです」と率直な気持ちを言葉にした。
14年間、日本のバスケ界が激変していく中で、彼は常に「コートで何ができるか」だけにこだわり続けてきた。“この10年頑張ってきた自分にどんな言葉を投げかけたいか”と問われた岸本は、こう答えた。
「本当によくやったと言ってあげたいけれど、もっとやれたんじゃないかっていうのが率直な気持ちです」
3年ぶりの優勝には届かなかった。ただ、「ここに向かうまでの時間というのは、僕にとって本当に財産。この舞台に向かっていく時間というのは、本当に楽しくて充実していました」とそのプロセスはかけがえのないものだったと明かしている。

退団を決断した理由は、当事者のみぞ知るものである。しかし、来季からの「B.革新」に伴うリーグの大きな地殻変動が、何らかの影響を及ぼした可能性がある。
選手にとって直接的な影響となるのが「サラリーキャップ制度」の導入だ。チーム間の戦力均衡を保ち、リーグ全体の魅力を高めるとともに、クラブの健全な財政経営を推進するために設けられたこの新制度は、選手報酬総額の上限と下限を厳格に規定する(Bプレミアは上限8億円、下限5億円)。
シーズン終了時点でクラブ内最高額(1.5億円以上)で契約した選手1名に限り、キャップ上の計上額を一律「1.5億円」にできる特例(スター選手条項)はあるものの、すでに上限を超えているチームにとってロスター構成は難しくなる。2025年10月、Bリーグが発表した2024-25シーズンクラブ決算資料によると、琉球のトップチーム人件費は約10億8,333万円(リーグ6番目の高さ)。これは選手だけのものではなく、コーチ陣などチームスタッフのサラリーも含まれるため、選手単体の人件費はわからない。ただ、現状で同人件費が上限以下のクラブはより良い条件を提示することができるため、現状戦力を保持するのも簡単ではなくなる。そういった事情が、何らかの影響を与えた可能性はゼロとは言えないだろう。
しかし、どんな大人の事情や制度の変化があろうとも、彼がコートで表現してきたこと、そして沖縄の街や子どもたちと結んできた絆は、サラリーキャップの枠組みや金額で測れるものでは決してない。かつて、岸本にクラブの地域活動「おおきなわ」についてインタビューした際、プロ選手としての自身の在り方について哲学を語ってくれた。
「プロ選手も特別な存在ではなく、当たり前のことを当たり前にやっている『普通の人』なんだと感じてもらうこと。それが活動の一番の意義です。子どもたちに呼び捨てにされるくらいの親しみやすさが、地元選手としての僕の理想です」
ファイナルでの敗戦直後、岸本は「負けは負け。これから自分がどう振る舞い、どう生きていくかで、今日の負けの意味を見出せると思う。これからの人生にしっかり進んでいきたい」と語った。ゲーム2の記者会見で「誰が何と言おうが、彼はキングスの大黒柱だと思っています。だからこそ、『隆一のためにも優勝したい』とみんなが思っていますし、逆に隆一も『チームのみんなのために優勝したい』と思ってくれている」と語っていた桶谷は最終戦後、「キングスが築き上げてきたカルチャーやバトンをどう繋いでいくか」と問われた際、長年チームの伝統を支え、継承してきた存在としてまさに岸本の名を挙げ、「これをずっとキングスで繋いでいってほしい」と表現していた。伝統のバトンを繋ぐこと――それは、大黒柱を失うチームにとって計り知れない試練となる。しかし、彼がコートの内外で全身全霊を捧げて体現し続けた14年間の歩みそのものが、すでに「キングスの文化」として深く根付いているはず。
2026-27シーズン、岸本は新たなチャプターを迎える。たとえどこのコートに立とうとも、琉球のレジェンドであるという事実は変わらない。まだ見ぬ景色の先を目指して前進を続ける岸本は、新しい旅路の中でどんなドラマを見せてくれるだろうか。


写真/石塚康隆(月刊バスケットボール)、文/広瀬俊夫(月刊バスケットボール)









