月刊バスケットボール10月号

Bリーグ

2026.05.14

強さが全てではない、「B.革新」の鍵を握る次世代GM像[Bリーグ第2回クラブ組織デザイン勉強会]

増田匡彦常務理事(写真左)と琉球の安永淳一GM(同右)

スポーツが持つ事業価値の追求


「私たちはバスケットボールの試合を売っているのではありません。バスケットボールを“ツール(手段)”として使い、地域の熱狂やブランドの価値を売っているのです」
元ジョーダンブランドで、NBAではブレイザーズの社長を務めたラリー・ミラー氏の言葉である。この言葉が示すように、プロスポーツクラブの価値は、コート上の勝敗だけにとどまらない。

4月9日にBリーグオフィスで開催された「第2回クラブ組織デザイン勉強会」において、増田匡彦常務理事は「勝ち負けだけでBリーグの価値ができていない。勝てばいいだけじゃないというのは、Bリーグの前提にある」と、リーグの根底にある理念を口にした。この勉強会は、2026年から本格化する「B.革新」を前に、各クラブにおけるGM(ゼネラルマネージャー)設置とその在り方を学ぶ場として企画されたものである。「クラブの『理念』が日々の判断や組織づくりにどう生かされているか」をテーマに、B1からB3まで各クラブの代表やGM、フロント陣がオンラインで参加した。

プロスポーツにおいて、競技の成績は絶対的な指標になりがちである。そういった中で、増田氏は「僕らはビジネスをやっている。あくまで1つの勝ちは、事業価値を高めるための価値であって、それ(勝利)が全てではないと考えている」と強調した。

勝敗を軽んじているわけではない。事業として利益を生み出すことが、ひいてはチームの強化を支える基盤となるからだ。事実、Bリーグは創設からの10年間、「稼ぐ」というビジネス面での成功を積み重ねてきたからこそ、競技力の向上につながったと言っても過言ではない。勝敗という結果を、いかにして社会的な価値や事業としての持続可能性につなげていくか。この視座を持った「経営参画型」の人材が各クラブのゼネラルマネージャー(GM)としてそろうことが、日本のスポーツのあり方を変えていく鍵となるとBリーグは考えている。

「沖縄をもっと元気に」という理念と、独自のブランド構築


その事業価値を体現し、日本有数のプロスポーツクラブとして成長を続けているのが琉球ゴールデンキングスである。同クラブの立ち上げから尽力してきた安永淳一GMは、1995年からNBAのニュージャージー(現ブルックリン)・ネッツで12シーズンにわたり働き、本場のスポーツビジネスを肌で学んだ人物だ。クラブの存在意義について安永氏は「スポーツが与えるものって何なの?と問われたら、やはり人を元気にするものという答えになる」と言及。チームの成績も振るわず、経営が苦しかった2年目に、シンプルで本質的な「沖縄をもっと元気に」という理念を定めたと明かした。
当時の事業規模からすれば「ちっぽけなクラブが何を勘違いしているのかと言われそうなおこがましい目標だったと言われるかもしれない」と安永氏は笑いを交えて自嘲するが、この理念があったからこそ、クラブは困難な時期を乗り越えることができたと主張する。安永氏は「親子3世代で楽しく過ごせるエンターテインメント。そんなもの、日本にないじゃないですか」と語り、おじいさんやおばあさんが孫を連れてアリーナへ足を運び、世代を超えてその体験が受け継がれていく文化の創出を目指している。

理念を掲げるだけでなく、それを希薄化させないためのシビアな経営判断も琉球の強みである。安永氏は「入場券の価値がキングスの価値です」と断言すると、「4千円のチケットを2千円で売ってしまったら、僕らの価値って半額と同等。サインも同じように安売りはできない」と、人気取りの施策はその場凌ぎのものでしかないと表現した。
選手のプロモーションにおいても同様で「目が合ったかもしれないと喜ぶ、そういう届きそうで届かないという感覚が大切」と安永氏が語るとおり、コート上の選手を憧れの存在として演出することで、クラブ全体のブランド価値を維持している。

もちろん、GMとしてはビジネス面だけでなく、チームの強化も大切な仕事だ。安永氏は選手を獲得する際にも独自の基準を持っている。「この選手にはSNSのフォロワーが何万人いるからこの選手とろうか、みたいなのは、Bリーグ初期にはあった。ただ、今は全くそこを見ていない」と、表面的な人気には頼らない。遠征が多く不利に思われがちな沖縄の環境を率直に提示した上で、「沖縄についてどう思っているか」を必ず尋ね、クラブの理念に共感できるかを重視している。

こうした徹底したブランド構築は、スポンサーや観客数など目に見える形で実を結んでいる。たとえ高校生の試合であっても、アリーナには多くのファンが詰めかける。「カードだけで売ろうとしてしまうと苦しめられてしまう」と安永氏が指摘するように、相手が有名なチームでなくとも「行かないと逃した気になる」というマインドをファンの中に作り上げている。沖縄アリーナが完成する前から「自分たちで自分たちの価値を上げていく、みんなに夢を見させるっていうのを、ひたすらやってきた」結果が、現在の熱狂を生んでいる。


「沖縄をもっと元気に」という理念を体現し、独自のブランドを築き上げた安永GM



再現性のある組織とGMの役割


2026年以降、BリーグではヘッドコーチとGMの兼任が原則として禁止され、GMには経営側と現場をつなぐ高度な能力が求められる。
安永氏はGMの資質について「スペシャリストを求める傾向にあると思うが、最終的にうまくいくのはコミュニケーターやコミュニケーションが取れる人だと考えている」と分析する。だからこそ、安永氏も現場のコーチやスタッフをハブとして活用し、情報を集約しながらも、自身はポジティブな声掛けに徹することで、シビアな契約交渉を伴うGMという立場のバランスを保っている。

当然ながら琉球に課題がないというわけではない。直面しているテーマは「組織の再現性」だという。安永氏をはじめとする初期メンバーの熱量ある人々のけん引から脱却し、誰が担当しても機能する仕組みを作らなければならない。組織の根幹を成す理念がブレずに受け継がれてこそ、クラブの価値は永続的なものとなる。そうした次世代のクラブを形作る大役を担うからこそ、安永氏は自身の役割について「ゼネラルマネージャーの仕事は、憧れの仕事にならなければいけないと思っています」と力を込めた。


現場と経営の架け橋となり、組織を円滑に動かす「コミュニケーター」としての役割を強調した

もうすぐ2025-26シーズンもポストシーズンを迎える。そのクライマックスの先には、「B.革新」と銘打った2026-27シーズンが控えている。初年度から掲げる「BREAK THE BORDER ~超えて、未来へ~」のマインドでここまで成長してきたBリーグが、さらなる発展を生み出し、社会に価値を提供するリーグへと進化を遂げるために――。その鍵を握るのが、冒頭で紹介した新たなGMの姿なのだ。

協力=Bリーグ





写真/Bリーグ、文/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)

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