月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2026.04.16

日本バスケ界が発展しているからこそ、古川孝敏が伝えたいこと「この雰囲気の中でプレーできるのは普通じゃない」

練習や試合をやれる場所があるなら
それだけでも十分


「Bリーグがすごく発展して、日本のバスケ界が前に進んでいるのは良いことだと思う反面、個人としてはそういう恵まれた環境だからこそ、しっかりとやっていかなきゃいけないなと感じています」

京都ハンナリーズのベテラン古川孝敏はこう強調した。今年で39歳を迎える古川だが、そのプレーにさび付きは見られない。今季も45試合に出場して平均8.4得点。プレータイムもBリーグ開幕以降10シーズン連続で20分を超えている。Bリーグでは、宇都宮ブレックス(所属当時は栃木ブレックス)、琉球ゴールデンキングス、秋田ノーザンハピネッツと渡り歩き、京都が4クラブ目。宇都宮では初年度の2016-17シーズンに優勝し、初代チャンピオンシップMVPにも輝いている。

その経歴もさることながら、年齢を重ねてもなお、行く先々で重宝され、主軸としてプレーしているところに、古川のすごさがある。

そしてそれは、彼の信念がそうさせているのだろう。

4月4、5日の第29節で、京都は宇都宮のホーム・ブレックスアリーナ宇都宮に乗り込んだ。同時点でチームは16勝31敗と、チャンピオンシップ出場は現実的ではない位置にいた。結果としてこの週末は宇都宮に連敗することになったが、筆者が取材に伺ったゲーム1の古川のプレーは洗練されていた。

セカンドユニットで登場すると、オフボールで素早く動き回ってボールを受け、ジャンパーを沈めたり、ワンドリブルでペイントに切り込んで巧みなフローターを放ったりと、その動きには無駄がなかった。ディフェンスでも年齢を感じさせない熱量と運動量を見せ、劣勢のチームにエナジーを注入し続けた。

試合後、古川は自身の考えをこう語った。

「今、こういう恵まれた環境でプレーできているのは当たり前じゃないと思うんですよ。大学を卒業したら今のような環境でバスケットができるのは当たり前じゃないです。当たり前のようにプロリーグがあって、当たり前のように練習できる場所があって、多くのお客さんが来てみんなが盛り上げてくれる。この雰囲気の中でプレーできるのは普通じゃないです。だからこそ、プロの世界に入ってきたからには、責任感を持ってプレーしてほしいです。自分たちがなぜここでプレーできているかを考えながらやる方が…それを考えたから何か直接の得があるわけではないですけど、やっぱりそれは知らなきゃいけない部分だと思うんです」

結果にかかわらず、チームのため、そしてサポートしてくれている人々のためにと心を燃やして戦い続ける──それが古川を今なお第一線で、かつ高いパフォーマンスで戦わせている原動力だ。

古川を含めた現在の30代半ばより上の世代の選手たちは、Bリーグ以前からプレーしてきた選手が多い。当時は観客もまばらで、ある元日本代表選手は「1000人もお客さんが入ると、『今日は何か特別な日なのか?』と逆にびっくりするくらいだった」と笑い飛ばしていたこともあるほど。

練習環境も今とは比べものにならなかった。中には、所属元の企業チームが休部や廃部になり、行き先を失った者もいた。bjリーグでプロとなった選手たちの中には、アルバイトをしながら食ら付いた者もいた。

自身もそうした時代を生き抜いてきたからこそ、古川は「練習ができているだけでも恵まれている」と話す。「練習や試合をやれる場所があるんだったら、それだけでも十分じゃないかと僕は思うんです。そりゃ、良い環境があればもちろんそれはありがたいこと。でも、実際にそういう環境に行き着くまでにはいろいろなプロセスが必要じゃないですか。それを勘違いして当たり前だと思ってしまうと話が変わってきます。Bリーグがすごく発展して進んでいるのは良いことだと思う反面、個人としてはそういう恵まれた環境だからこそ、しっかりやっていかなきゃいけないなと感じます。僕らの世代から言われて『うるさいな』と感じる子もいるかもしれないです。でも、昔の時代に頑張ってきた人たちがいたから、今の僕らがいるわけで。だから、僕が思っていることもみんなに共有して、今この時代、この流れでできているバスケットボールをより良いものに作り上げられるようにしていきたいです」





時代と共にプレーも変化
「今の子たちは本当にうまいけど…」


この10年で世界的にバスケットボールのプレースタイルも大きく変化した。ソーシャルメディアなどの発達によって世界中どこにいてもハイレベルな選手のプレーを参考にできる環境が整い、育成環境も格段に整備された。日本でも、U15、U18年代は部活動意外にクラブチームやプロのユースが発展し、選手たちそれぞれがプレー環境を選べるようになった。特に、選手個々のスキルの高まりは顕著だ。

だが、だからこそ古川には伝えたいことがある。古川は「個人スキルの上達が悪いということでは決してない」と前置きした上で、「今の子たちは本当にうまいんですよ。でも、うまいけど、そのうまさが良いときもあれば、『えっ、そこでそのプレー?』と思うときもやっぱりあります。そのうまさをもうちょっと簡単に使えば、ほかが生きてくる。アシストには直結しなくても、チームがもっと効率良く回ると思います。バスケットが大きく変わって、個人スキルがめちゃくちゃ上がっている。でも、やっぱり譲れない戦術的なところや泥臭さは必要だと思います」

古川の言わんとすることは一理ある。育成世代の取材現場では、時に個人スキルに頼り過ぎていると感じることがあるからだ。彼は「僕はそんなスキルは持っていないので、体を張り続けるしかないから」と笑いながら、続ける。「試合全体を見たときに、スキルが先行し過ぎて判断などが遅れて見えるときがあると思います。だからこそ、僕はもっとスマートに効率良くプレーできるようにしたいと思っています」

スキルがあるに越したことはない。ただ、それだけに頼り切りでは勝てないときがいずれ来る。コート上の5人で戦い、協調性を持って互いを信頼し合うこと。それがバスケットボールの本質であり、その規律の中で自身の色を出せる選手こそが、上のカテゴリーでは真に必要とされる。

古川は言う。

「今の時代は、自分で自分を客観視しながら、いろんな判断ができるかが問われると思います。今、効率良くできているか、できていないかの判断をしていかなきゃいけない時代なのかなと思うんです」

環境の変化と競技スタイルの変化──これからのBリーグを背負っていくのは、Bリーグ以前を経験していない世代の選手たち。そして、変化する中でも、「古い」「昔」の一言で片付けられないものがある。それを伝えていくのがベテラン選手に課された役割の一つでもある。

今後の日本バスケットボール界のさらなる発展を願うからこそ、古川には忘れさせたくない、譲れない信念があった。



文・写真/堀内涼(月刊バスケットボール)

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