ビジネスマン視点で楽しむBリーグ観戦

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「プロスポーツを観る目的は?」そう尋ねると、多くの人がこう答える。
「楽しむため」
「応援するため」
それはもちろん正解だが、観戦に“もう一つの目的”を見出す人たちもいる。「学ぶため」だ。一見意外な発想かもしれないが、トップアスリートの経験をビジネス書として学びに転化する例は多い。プロ野球監督のリーダー論や、サッカー選手のチームマネジメント哲学は、すでに企業研修や教育現場で当たり前のように使われている。
Bリーグにも、「ビジネスマンに勧めたい」と感じる魅力がある。それはバスケットボールに、他のスポーツにも増して以下のような明確な特徴があるからだ。
・攻守転換と役割変化が、一瞬かつ頻繁におこる
・試合の約80%のアクションは、ボールを持たない選手によって構成される
・決断と行動を強制的に促す仕組みがある(ショットクロック)
一方で、現代のビジネス現場には次のような傾向が強まっている。
・固定的な組織よりも、より機動的なプロジェクト型チームで動く
・状況に応じて役割やリーダーシップの重心が絶えず入れ替わる
・決断のスピードと集団の連携が、成果を大きく左右する
両者を並べると驚くほど似ていることに気が付く。現代ビジネスの現場はまさにバスケットボールそのものと言えなくもない。つまり、Bリーグのコート上には「現代ビジネスに役立つ学び」が転がっていると考えるのは理にかなっているのだ。
そんな視点でBリーグを観るとき、勝敗や数字の裏にある「チームとしての知性」を感じ、このスポーツの見え方が一気に変わる。観戦体験から学びの機会へ。そんなバスケットボールの本質を、今回は10/25、26に浜松アリーナで行われた三遠ネオフェニックスのゲームを例に迫ってみたい。
三遠ネオフェニックスの危機管理
まずは簡単に三遠の今シーズン序盤戦の状況を振り返る。
2024-25シーズンの三遠は47勝12敗(勝率.797)、得失点差+664とB1トップの成績を残し、CSセミファイナル進出を果たした。しかし2戦先勝のセミファイナルでゲーム1に勝利しながら続く2試合に連敗を喫し逆転負け。悔しさを残してシーズンを終えた。
当然、今シーズンはリーグ上位争いが期待されたが、序盤戦は苦戦。11月中旬のバイウイークまでの成績は7勝11敗と黒星が先行した。原因は主力選手の相次ぐ離脱だ。PG佐々木隆成の長期欠場に加え、新加入のダリアス・デイズ、エースのヤンテ・メイテンも不在。チームは質・量ともに戦力を大きく落としてしまった。
そこでチームは10月24日、アルバルク東京を退団したスティーブ・ザックを短期契約で獲得。わずか1日の練習を経て臨んだのが、川崎ブレイブサンダースとの2連戦だった。

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試合結果は以下のとおり、ホームの三遠が連勝を決めた。
第1戦(10/25)
今季初スタートのデイビッド・ヌワバが21得点に12リバウンド、吉井裕鷹と児玉ジュニアも11得点。新加入のザックは8得点、11リバウンドと期待に応え82-63で快勝した。
第2戦(10/26)
川崎はヌワバ対策を強化したが、ヌワバは9アシストで周囲を生かす。大浦が19得点。ターンオーバーを前日の17から3へと劇的に減らす堅実な戦いで連勝を飾った。この時点で戦績を5勝4敗とし、負傷者続出の中、チームは見事に危機を乗り切った。

この試合観戦で気付いた学びのポイントを、HCや選手の会見でのコメントをもとにいくつかの切り口で掘り下げてみたい。川崎戦からはどんな学びが得られるだろうか。
1.主力の欠場がチームにもたらしたもの
連戦を終えた三遠の大野篤史HCは試合後にこう語っている。
「選手たちは本当に良かったと思います。一人ひとりがステップアップしていましたし、ディフェンスから集中して試合に入れたことが勝利に繋がったと思います。選手たちには、誰か一人が欠場した選手の穴を埋める必要はなく、自分ができることを一人ひとりが積み重ねることで、チームとして必ず良い結果を生むことができると伝えました」
大野HCはさらに続ける。
「本当に一人ひとりが集中していましたし、そういう意識があったからこそオフェンスでもボールがしっかり回りました。誰かが無理してこじ開けるのではなく、全員でボールをシェアして、自分たちのシュートを作ることができた試合だったと思います」
三遠は主力がいない現実に対し、「誰か一人に穴埋めを背負わせる」のではなく、「足りない要素をチーム全体でシェアする」ことで解決に向かった。戦える選手がそれぞれ与えられた役割に集中し、やり切ることで流れを引き寄せて目的達成への道を開いた。
何よりも窮地においての戦略変更が選手にしっかりと受入れられている点に注目したい。これは普段から醸成された組織文化なくして機能しなかっただろう。
2.プレイングタイムの哲学
主力の欠場は、見方を変えると新たな選手のチャンスでもある。三遠でも、大浦颯太、根本大、児玉ジュニアら若手選手が、通常時以上の役割をこなした。大野HCは「経験の無さはあるが、それよりもチームに勢いを持たせてくれる、彼らの若い力でトーンをセットしてくれるところが出来ている時間帯は使います。それが出来なくなったのであれば違う選手に繋げる。今回プレイングタイムが長かったのは(勢いをもたらす時間が)長かったんだろうなと思います」とコメントした。
主力欠場が他のメンバーの新たなチャレンジの機会になるのは、ビジネスの現場でもよくある構図だ。プレイングタイムを伸ばした選手が、通常以上の役割を果たした三遠の事例は、そのケーススタディをライブで疑似体験させてくれたのではないだろうか。
バスケットボールもビジネスも、個々人の競争と組織としての目標を一致させ、そのバランスを取り続けることが求められる。大野HCはプレイングタイムを得るために求められる役割、その評価基準を具体的に語っている。「成果と機会の関係」を明確にしたマネジメントの姿勢を示し、新しい挑戦の機会を与え、それに応える選手を評価する循環はビジネス組織にも欠かせない。
3.プロセスにおける自己犠牲と役割への評価
この苦しいシリーズで、ポイントガードとしてチームをリードしゲーム2では19得点を挙げた大浦の活躍について問われた大野HCは次のように話した。
「(誰が)得点を何点取ったか、そういうことではなく、どういうシュートを打てたか、どういうクリエイトができたかが一番重要です。そこまでの過程に、どれだけの自己犠牲があったか? そのおかげでスコアをしているプレーヤーが生きたということだと思っています」。
続いて会見場に現れた大浦は、「(今シーズンなかなかシュートが決まっていなかったが)持ち味ではあるので、迷うことなく打ち切ろうって。前半は迷いもあったが、自分のショットだと思ったら打ち切ろうと言ってくれたので(打てた)」とコメントした。
ヘッドコーチの言葉に呼応するようなこのコメントからも、チームとして何を大切にしているのか、そしてそれがいかに徹底されているかが見て取れる。目立つ数字の裏側で積み重ねられる自己犠牲の価値を汲み取り、評価するチームの思想が、選手のパフォーマンスを押し上げる。この哲学は、強い組織でよくみられる制度設計の思想と共通する。

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プロスポーツのシーズンは、どれだけ歴史あるクラブであっても単年完結のプロジェクトだ。加えてロスターの入れ替わりが激しい現代のBリーグでは、怪我による離脱や主力の移籍ひとつで戦略レベルの再設計が必要になる。
取材時に上昇機運を強めていた三遠は、アジャストの過程を通じて我慢、自己犠牲、やり切ることといった価値観を体現していた。その後、主力の故障もあり思うようなシーズンの流れにはなっていないが、終盤戦に向けてどんなリカバリープランが実行されていくのか。成績や数字にも注目しながら、今シーズンだからこその道のりでチームがつづる、心に残るストーリーに期待したい。
文/荒川勝洋
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