月刊バスケットボール2月号

男子日本代表のヘッドコーチ交代劇、会見で語られた真相と新体制が進む道

強化方針への意見相違により
JBA側から契約解消を提案


2月3日、都内にて日本バスケットボール協会(以下、JBA)が会見を行った。「トム・ホーバス氏との契約終了と今後の強化体制に関する記者会見」という名目の通り、その内容は2月2日に発表された男子日本代表のトム・ホーバス前HCとの契約終了と、今月末から沖縄県で開催されるFIBAワールドカップアジア地区予選以降の新体制の発表という二軸で展開された。

登壇したのは島田慎二会長と伊藤拓摩強化委員長。

まず、島田会長からホーバス前HCへの感謝が述べられ、契約終了の経緯について説明された。ポイントとなったのが、今後の強化方針における両者の意見の相違。JBAはパリ・オリンピックを終えた2024年9月に「オリンピック後もそれまでの強化方針を継続追求し、実力を積み上げていく」という方針のもとでホーバス前HCの続投を発表したが、一方で2025年3月に代表強化のあり方、責任の所在、評価プロセスを整理し、ガバナンスを明確化する新制度を導入。2025年10月以降の代表の強化方針を大きく変更した。

具体的には2028年のロサンゼルス・オリンピックはもちろん、2032年のブリスベン・オリンピック、そして続く2036年大会(開催地未発表)までの12年間で代表強化を進める長期計画だ。その時点での実力的な最強のメンバーをそろえること、そしてただタレントを並べるだけではなく、そこに「最高の一体感」を生むことを基本方針とする。

この計画を今年1月初旬にホーバス前HCに説明したという。しかし、話し合いを重ねる中で双方の意見相違が生まれ、JBA側から契約終了の打診をしたという経緯だった。ただ、一方的な「首切り」のような形ではない。島田会長は「守秘義務もあり、核心の核心はここでは答えづらい部分がある」と前置きした上で、こう説明する。

「(今後の強化方針に関して)双方の考えに相違があり、その後、 JBAにて対応を議論してまいりました。確固たる信念と実績を持つホーバス氏に方針の修正をお願いすることで、ホーバス氏の“コーチとしての本質”に対して一定の変革を強いる部分もあり、これほどの実績あるホーバスコーチに対して、それはリスペクトに欠けているのではないかという判断のもと、JBAから契約を解消する提案をさせていただきました。その後、 1月30日に合意に至り、翌31日を持ってヘッドコーチ契約を終了。昨日2月2日の臨時理事会にて強化体制の変更に関しての承認をいただき、リリースという運びになりました」






会見に登壇した島田慎二会長(上写真)と伊藤拓摩強化委員長(下写真)

ではなぜ、2月末に予選が迫ったこの時期なのか──島田会長は、新体制で少しでも多く活動したいという思いが、このタイミングでの体制変更の理由だと話す。

「なぜこのタイミングなのかという疑問符が付くようなリアクションも多々いただきましたが、我々としては、決めた以上は少しでも新体制で多くのゲームをすることが…今回(沖縄大会)、勝ちに行きますが、勝ち負けは我々がコントロールできることではない。仮にどのような結果になったとしても、 6月のアウェイ戦で修正をする上でも、ここで(体制変更に)踏み切るのが良いのではないかという判断をさせていただきました」

八村塁の発言は
決断に直接の影響はない


もう一つ、今回の決断の裏で議論が巻き起こっていたのが、2024年10月に八村塁がJBAに対して苦言を呈した発言が影響したのかどうかだ。

日本バスケ界の歴史上、頭ひとつ抜けた実績を持つ八村の発言だけに、単なる1選手の発言として切り捨てることはできない。ただ、1選手の声だけを日本代表の人事に反映させることもまた、できない。八村をはじめとした選手の声は、今回の人事にどう影響をしたのか。

伊藤委員長は言葉を選びながら、「ヘッドコーチの人事については、影響されていない」と切り出した。

「私たちは日頃から日本代表活動における環境を、日本一良いものにしたいと思っております。コーチング、トレーニング、食事、宿泊、いろんなことを含めて選手がしっかりと集中し、しっかり休めて、そして成長していく環境を作っていきたい。その中で選手に意見を聞くことはあります。私たちが勝手に思い込んで磨き上げるより、選手にどういったことが必要なのかのコミュニケーションを取らせてもらっていますし、今後も取っていきたいと思っています。ただ数人の選手たちの意見によってヘッドコーチをどうするのかではなくて、日本のバスケが今どういう状況で、世界がどうなっているのかというところでヘッドコーチを決めさせていただきました」

人事決定後に「ホーバスコーチと特に長くやってきた数名の選手には、私から先に伝えました」とも伊藤委員長は明かしたが、その「数名」のメンバーの中に八村は含まれていないだろう。

島田会長も「そこ(八村の発言)が直接的な部分ではない」と明確な意地表示を繰り返し、「何を優先しなければいけないかを考えたときに、日本バスケ界の前に進めていくこと、結果を出し続けていくことが大切。そう考えたときに、その時点でのベストな布陣が代表として結集し、世界の戦い結果を出し、日本国民の皆さんに元気になってもらうことが使命です。ベストなチームを作っていくことと、かつ一体感を持って戦える、応援してもらえるような日本代表を作ることに対しては、ブレがないです。そこに向かっていくために、コーチ陣も含めたベストなチームを作っていくことから逆算して、私もそこに完全に賛同している」と話した。





琉球・桶谷HCを中心とした
新体制選出の意図


ホーバス体制が終焉を迎えた真相は、この会見では「話せる範囲で」で語られたが、もう一つ気になるのが未来の話だ。

会見では新体制の陣営のうち、ヘッドコーチとアシスタントコーチが紹介された。

ヘッドコーチは琉球ゴールデンキングスの桶谷大、アシスタントコーチとしてシーホース三河のライアン・リッチマンとNBAデンバー・ナゲッツ傘下のグランドラピッズ・ゴールドでアシスタントコーチを務めている吉本泰輔の3名が発表された。

特に、ホーバス前HCはじめ専任が多かったヘッドコーチのポジションを、桶谷HCの兼任とすることに対しての賛否は分かれるかもしれない。伊藤委員長も自身のヘッドコーチ経験や現在の立場を踏まえた上で、「兼任の大変さを理解をしているつもり」としつつ、「兼任の強みもある。そこを生かしてほしいというのも伝えさせていただきました」と話す。「バスケットボールのヘッドコーチというのはゲームの中で、もしかしたらどのスポーツよりも影響を及ぼせるかもしれません。タイムアウトが取れる、選手と直接話せる中で、常に最前線のバスケットボールをアップデートしていて、インプットして、それをアウトプットしている。そういったところも生かしながらチーム作りをしてほしいとお願いしました」

また、兼任が世界の強豪国の中では珍しいことではないとも付け加えている。実際、パリ・オリンピックで金メダルを獲得したアメリカ代表の指揮官はゴールデンステイト・ウォリアーズのスティーブ・カーが兼任。同時点ではほかに、フランス、カナダ、ギリシャなどが自クラブとの兼任で、日本でも横浜ビー・コルセアーズのラッシ・トゥオビがフィンランド代表との兼任だ。


三河の指揮を執るライアン・リッチマンは、ワシントン・ウィザーズでのアシスタントコーチ時代に八村塁と共闘

特に、桶谷HCとリッチマンACの選出は、より国内のトップ選手を身近に感じ、実際に対戦することでしか感じ取れない選手の長所や組み合わせを見付け出す助けになる。逆に言えば、今後、琉球や三河と対戦するチームの選手たちにとっては、シーズンの1試合が日本代表の足がかりになる可能性も秘めているということになるだろう。

兼任のメリットははっきりと説明された上で、桶谷HCに白羽の矢を立てた理由を伊藤委員長は「シンプルにいろいろな人と一緒に仕事ができて、その人たちの力を最大限に引き出してチームを作り上げる。そして勝っていること」だと話す。コーチング力や競技知識の高さは大前提として、その上でいかに周りを巻き込んでより良い組織作りをしていけるのか──短期間でのチーム編成を求められる代表指揮官の特性上、何よりもそこが求められると考えていたわけだ。

島田会長も「周辺のスタッフをより充実させる、数も増やして、勝つ確率を少しでも上げられることは何でもやろうとしています。ヘッドコーチ 1人で勝てるわけではないので、いかに脇を固めてかつ、ハイレベルなメンバーを集めていくか。そうすると集めたスタッフ陣をどう生かすかは、マネジメントや采配、向き合う姿勢、モチベーターであれるか。そういうところがよりヘッドコーチには求められる状況だと思います。伊藤委員長が言ったとおり、結果を出していて経験が豊富である。かつ、海外でも学んできたコーチとしての知識も潤沢にあった上で、私の中ではリーダーシップやマネジメントスキル(があるか)が非常に大きいポイントだった」と話した。

会見で語られたことを踏まえても、パリ・オリンピック後に、今回発表された12年計画のような新たなロードマップを事前に準備できていれば、今回の電撃的な体制変更はなかったのではないかという疑問は残る。ただ、過ぎたことを引きずる時間がないことも確か。ホーバス前HCが日本バスケを大きく前進したことは今後も変わらない事実で、我々はそれに対してのリスペクトを示さなければならない。一方で、今回の桶谷HCをはじめとする人事は、島田会長と伊藤委員長の説明を聞くと理にかなっている。

伊藤委員長は、ホーバス前HCが築き上げてきたペースとスペースを大切にし、3Pシュートと激しいディフェンスをベースとするスタイルを新体制の土台としていくとした。男子日本代表が今後、どのような道筋を描いて変化していくのか。直近の韓国、中国との対戦は、より大きな注目を集めることになる。



写真/中川和泉、B.LEAGUE、編集部 文/堀内涼(月刊バスケットボール)

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