月刊バスケットボール2月号

Bリーグ

2026.01.30

超地元・春日部市でプロデビュー!越谷アルファーズの16歳PG稲田貫大「成長した姿を自分が育った町の人が見てくれるのは本当に光栄なこと」

自宅はアリーナから車で15分
地元中の地元でプロデビュー!


一生に一度しかないプロデビュー戦を、地元で迎えられる選手はそう多くない。

ましてや出身都道府県よりももっと地元の「町」でのデビューとなると、バスケットボール以外の競技を含めてもごく少数だろう。そんな幸運の下にプロデビューを果たした選手が、越谷アルファーズにいる。

稲田貫大である。

アイル・アリーナ ウイング・ハット春日部で開催された越谷vs.横浜ビー・コルセアーズの一戦。3Q残り2.5秒で稲田はコートの送り出された。クラブとして初めてのユース育成特別枠選手として登録された稲田は、U18ユースチームでエースを務める16歳(高校1年)。春日部市の出身で、自宅はウイング・ハット春日部から車で15分ほどの距離だという。

「春日部は故郷で、温かみのある町」と地元を表現する稲田。越谷にとってはこの試合が、今季最後の春日部開催でのホームゲームであり、稲田がロスターに登録された初めての試合でもあった。さまざまな縁が重なったデビュー戦を稲田はこう振り返る。

「率直にすごくうれしい気持ちで、自分の成長した姿を、自分が育った町の人が見てくれるのは本当に光栄なこと。この機会をくれた上原和人社長、安齋竜三HCはじめ、クラブの方々に感謝したいと思います。(最初にコートに入ったときは)何かやってやろうという気持ちが一番強くあって、何かコートで残せること、チームにエネルギーを与えられることがあれば、それをやらないといけません。チームのためにも自分のためにも、絶対やってやるぞという気持ちで入りました」



チームとしては横浜BCにジリジリと点差を広げられ、最終スコア63-92で完敗を喫した。3Q終盤のプレータイムのほかに、稲田は勝敗がほぼ決した4Q残り4分21秒(この時点で57-77)からゲーム終了までコートに立った。越谷ブースターからすればつらい試合内容ではあったものの、「チームにエネルギーを与えられることがあれば」という稲田のプレーは、冷めかけた会場に再び熱を帯びさせた。

ファンや家族、そしてユースチームの仲間が見守る中で、彼は懸命に攻め、リバウンド1本とアシスト1本を記録。3本放ったシュートこそ決め切ることはできず無得点に終わったが、1本のアシストは稲田らしさが詰まったものだったとも言える。

残り26秒、ベテランセンターの鎌田裕也とのツーメンゲームからフワリとポケットパスを通し、厳しいマークを受けながらも鎌田がそれを決め切った。鎌田は「稲田にアシストを付けさせたかったか?」という問いに「もちろん」と答え、こう続けた。「もっともっとアグレッシブにやってほしいなと思います。できたら点を取らせてあげたかったですが、どれだけアグレッシブにやるかは彼の判断。試合は続くので、その中でいろいろなら合わせができたらと思います」

「仲間と合わせるプレーが好き」だという稲田。プロデビュー戦でスタッツに残るプレーとしてアシストが付いたことは、彼らしさが表現されたと捉えていいだろう。


「トップ選手でもなかなか持っていない
センスを持っている」


一方で得点できなかったことについては悔しさもある。これは次に出場チャンスをつかんだときに持ち越す大きなテーマだ。この試合の彼の初めてのシュートは同じPGの池田祐一からのアシスト。トランジションで池田が相手ディフェンスを引きつけてコーナーで待つ稲田にキックアウト。ワイドオープンでシュートを放ったが、打った瞬間、彼は顔をしかめた。「重みがあるというか、プロで初めてのシュートで点を取れるそうな可能性があるというところで、気持ちが上がってしまっていつもどおりのシュートが打てなかったです」

シュートミスやターンオーバーもあった。だが、それら全てが稲田にとっては得難い経験だ。安齋HCもチームメイトも、彼が彼らしくプレーすることを望んでコートに送り出した。安齋HCは「早いうちにトップチームの練習や試合を経験させられるのが、ユースを持っているチームのいいところで、責任でもある部分なので、早めに来れるんだったらという話をしていました。今日をきっかけに、またチャンスがあるかもしれないですし、海外ではあのぐらいの年齢でもトップチームでプレーするのはあること。本人がどのぐらいトップチームでやりたいかがかなり重要だと思うので、そこをサポートしていければと思います」と話した。

ただ当然、誰彼構わずチャンスを与えるわけにはいかない。現時点での実力と選手としての将来性があってこそのユース育成特別枠の行使だ。安齋HCは稲田の可能性について以下のように話している。

「ドリブルの間合いや視野の広さが彼の良さ。ウィングスパンが結構長いと思うので、『その間合いで、そのレッグスルーでそこを通れるの?』という場面が結構ある選手です。シュートやディフェンスはこれからですけど、トップ選手でもなかなか持っていないようなセンスを持っていると思うので、本人がもっと努力していけば可能性はすごくあるんじゃないかと思います」



最終盤まで稲田とマッチアップしていた横浜BCの森井健太にも、彼について聞くことができた。森井は、「高校1年生でこの場に立てていることがすごい」と前置きした上で、この日の稲田の経験を自身のルーキー時代と重ねてこう話した。「コートに入るだけで何か一つでも学べることがあると思います。僕もルーキーのときは試合に出ても何もできなかったけど、それでもコートに立ってプレーしたという経験が、後々になって今に生きているなと思うんです。昔を思い出しつつ、段階を踏んで彼もどんどん成長していくと思うので、今後に期待ですね」

地元中の地元で、かつ春日部開催のホームゲームでは過去最多4012人が見守る中で、プロのコートに立った稲田。彼がいつか本物のプロ契約を手にする未来が来たのなら、その第一歩となったアイル・アリーナ ウイング・ハット春日部でのこの一夜は、彼のキャリアを形作る「経験」として還元されるに違いない。



取材・文・写真/堀内涼(月刊バスケットボール)

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