月刊バスケットボール2月号

中学(U15)

2026.02.05

JORDAN WINTER CAMP 2025レポート──コーリー・ゲインズ(バスケットボール女子日本代表)が育成現場に伝えたいこと

SoftBankウインターカップ2025開催中の昨年1226日に、同じ東京体育館のサブアリーナで、ジョーダン ブランドがU15世代のプレーヤーを対象としたバスケットボールキャンプ「JORDAN WINTER CAMP 2025」を開催していた。講師は元NBAプレーヤーで現在女子日本代表のヘッドコーチを務めるコーリー・ゲインズをトップとしたJBAのコーチ陣。「今日1%でも上手くなるという意識を持って取り組んでください。楽しんでいきましょう」というジョーダン ブランド担当者からの声掛けで始まった約2時間半に及ぶキャンプは、ドリブルドリルから複数人数の連係を含むドリルまで、ゲインズHCらが個々の基礎技能に特化した内容を構成。参加したプレーヤーたちははつらつとしたプレーを披露した。


実はこの日のドリルは、ゲインズHCが女子日本代表の練習で取り入れているのと同じ内容とのこと。トップレベルの取り組みをユース世代に体験してもらうことを意図しており、参加した30人弱のプレーヤーたちは貴重な学びを持ち帰ったに違いない。ゲインズHCは「皆のボールハンドリングや動きの質がとても高いレベルで、びっくりしました」と日本のユース世代のレベルアップに感銘を受けている様子。「難しい部分がすでにできているので、あとは実戦でいかせるかどうか。そこはプレーして学ぶところです」







代表レベルのドリルで成長を促す

参加したプレーヤーの一人、美除柚希選手(KAGO CLUB U15、中学3年生)は、「周りを見て状況判断をするところが難しかったです。ペイントでジャンプストップしてフィニッシュやキックアウトを狙うドリルはぜひ身に付けたいと思いました。小柄な分、ちゃんと相手に自分の体を当ててからフィニッシュを狙うような工夫をしたいと思います」と話した。



中学3年生の美除選手だが、マイケル・ジョーダンについても「NBAで活躍していたことは知っています!」と話していた

この練習はオフェンス3人、ディフェンス2人で行うドリル。ボールを持ったらディフェンスの様子を見て自分がどう動くか決めていく。ボールを動かす中で力強いペイントアタックを取り入れるのがキモとなるドリルだが、勢いでがむしゃらにタフショットを決めにいくのではなく、ペイントに侵入したらジャンプストップで自分の体勢を確立し、フィニッシュする場合はディフェンダーにバンプしてスペースを作った上で狙う。

スピードに任せてペイントに突っ込んだドリブラーが、いつの間にかディフェンダーのプレッシャーに押されて逃げながらゴールラインから大きくそれたコースを進んで、タフレイアップを打たされるというのはよくあるケース。そうした弱いプレーをなくすドリルだが、美除選手はそれを忠実に遂行していた。ここで得た感覚や助言をこれからに生かして習慣にすることができれば、小柄でもペイントでブロックショットされない強いプレーヤーになるに違いない。

基礎ドリルから最後に行われたフルコート・スクリメージまで、この日最も積極的に声を出していた内山優陽選手(BOOGIE'S BASKETBALL U15、中学2年)にも話を聞いた。実は、この日ゲインズHCが最も強調していたことの一つが、「声を出そう」「コミュニケーションをとろう」ということだったのだ。

内山選手は普段から「喋る方」とのことだが、「あまりメンタルが強くなくて、気持ちが前面に出やすいタイプでたまに怒っちゃったりして…」と声掛けのしかたに課題を感じていたようだ。NBAでのキャリアやWNBAでコーチとしてチャンピオンとなり、現在女子日本代表を指揮官として率いているゲインズHCから「声を出そうよ!」と言われて、認識を新たにしたという。「メンタルや声出しはどのレベルでも大事だなと思いました。そういうところを、トップで戦っているコーチの方に一から教えてもらって、初心に帰らされるというか、またスイッチが入りました」

内山選手はキャンプを締めくくるミーティングでも積極的に質問していた。それにより、内山選手自身が必要なヒントを得られただけでなく、少し遠慮があったかもしれないほかの参加者たちの背中も押した形となり、コーチ陣とのやり取りが弾んだ流れは、今回のキャンプで決して軽んじることのできない瞬間だった。


ガードとして、リーダーとしてコミュニケーションの大切さを再認識したという内山選手。美除選手と同じく、相手にバンプしてより良い得点機を生み出すプレーなどにも刺激を受けたとのことだった

日本のバスケットボール界のこれからを創っていく世代の若者が、他では得られないきっかけを得た「JORDAN WINTER CAMP 2025」。指導する側のゲインズHCはどんな思いで取り組んでいただろうか。自身の経験を語る言葉から、おのずとゲインズHCの哲学と、日本のバスケットボールの発展に必要なことのいくつかが見えてきた。

学びをもたらすゲインズHCのかけがえのない体験

一つは文中で触れた「声出し」「コミュニケーション」だ。この日の参加者たちの印象を、ゲインズHCは「おとなしい(quiet)」という言葉で言い表した。「これは日本の文化で、改善に時間を要します。2009年に私が初めて女子日本代表にかかわったときと同じ課題なんですよ」とゲインズHC。「そこで私はチームをフェニックスに連れて行って本場の様子を見せたんです。WNBAでダイアナ・トゥラージたちがどんなふうに話し、やり取りをかわしているかをね。日本では、指導を受ける際発言しない、誰か一人だけがしゃべるという姿勢が根付いているのではないでしょうか。アメリカでは1970年代あたりまではそうだったかもしれませんけれど、前時代的なアプローチだと思います」


ゲインズHCはマイケル・ジョーダンのブルズと2度対戦したことがあり、実は1勝1敗のタイという成績だが、「いえいえ、タイだなんて…。実際は圧倒されましたよ!(笑)」とにこやかに話していた

コミュニケーションの術を学ぶ必要があるとゲインズHCは主張する。「もう少しリラックスしていいのではないかと思います。思った以上に時間がかかっています」と話しながら、ゲインズHCは「もう少し改善のスピードを上げたいですね」と苦笑いを浮かべていた。

確かにこの日、プレーヤーたちは緊張もしていただろう。しかしそれで機会を逃すのはもったいない。ゲインズHCNBAの実戦でマイケル・ジョーダンとマッチアップしたときのことを聞くと、その瞬間に自分らしさを発揮することの大切さ、緊張しないような内面がいかにして育まれたかも理解できた。

「ジョーダンは“タフガード”(抑えるのが困難な相手)でした。私もかなり素早かったですけど、彼にはかないません(笑) 得意のローポストから機械のように決められるのを眺めるしかありませんでした」という厳しい思い出だが、「やられて楽しいわけはないですけど、シカゴであのイントロを聞いて試合に入っていくときにはものすごく盛り上がりました。スタジアムの空気に力がみなぎっていて」と、やはり輝かしい瞬間には違いないのだ。しかし、コーチから名前を呼ばれても緊張はなかったという。「実は大学時代にルームメイトだったレジー・ミラーを通じてカードゲーム仲間に入れてもらっていて、私はジョーダンやマジック・ジョンソンと一緒にいることに慣れていたんです」というのがその秘密。「彼らも普通に食事して、カードゲームをやる同じ人間なんだと分かっていたので、彼らを相手にして我を失うこともなかったんです」

自身の若かりし日と同じように、この日ゲインズHCから指導を受けた若者たちにも物おじしない積極性を出せる内面の強さを望んでいることは、前述のとおりだ。

1993-94シーズンには、名将パット・ライリーの下でNBAファイナル進出を果たしたニックスにも在籍していたゲインズHCは、そのライリーの教えとして「コーチが真にプレーヤーに対する敬意を持って信頼すれば、それは必ず伝わる。結果として全身全霊を込めたパフォーマンスが返ってくるのだ」ということを胸に刻んでいる。「私もそんなコーチになりたいと常々思っています。プレーヤーに対して全幅の信頼と敬意を持ち、それがプレーヤーたちからの『私たちの力でこのコーチに勝利を届けたい』という気持ちに火をつける。叱られてやらされるのではなく、それが内なる意欲から生まれるような関係性を創れたらすばらしいですね」

ゲインズHCの体験はまさしく、日本ではなしえないものばかり。「JORDAN WINTER CAMP 2025」の参加者はもちろん、全国のユース世代にもその指導者たちにもそれがなんらかのヒントになってもらえればというのが、ゲインズHCとジョーダン ブランドの願いだ。





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