月刊バスケットボール2月号

冬に懸ける仙台大明成(1)「我慢強さと徹底。足元を見つめ、謙虚にやっていく」

冬の決戦を目前に控え、高まる練習の熱


『礼儀を重んじない者の出入りを禁ず』

仙台大明成高の体育館の扉には、大きくこの言葉が貼られている。扉をくぐる瞬間、自然と身が引き締まるのは、2023年に亡くなった佐藤久夫コーチの時代から変わらない感覚だ。



ウインターカップ開幕まで残り1か月となった11月末、宮城県仙台市にある仙台大明成高を訪れた。この季節となればもう、体育館の空気はひんやりと冷たい。「東北の寒さをなめないほうがいいですよ」と畠山俊樹コーチ。来客用の椅子に向け、大型ストーブを焚いてくれる。

ただ、練習が始まれば、冷え込んだ空気を吹き飛ばすほどの熱気が体育館を満たし始める。フットワークなどで体を温めたあと、3人1組でのルーズボールの練習が始まった。選手たちは身を挺してボールに飛び込み、たとえ床に転がってもすぐさま立ち上がって次のボールを追い掛ける。続けて、3人1組でボックスアウトからリバウンドの練習へ。1つのボールをめぐり、今度は体をぶつけ合いながら激しい空中戦が繰り広げられる。その後は、オールコートの3メン。3人がそれぞれフルスピードで駆け抜け、リバウンドを落とすことなく流れるような3メンが続く。






「瞬間の動き!」「イメージしろ! ただのドリルで終わらせるな!」

練習の最中、体育館の中心で畠山コーチが檄を飛ばす。ウインターカップを控えた緊張感の中、「雑すぎるだろ! 何回そのミスを続けるんだ!」「自分たちが今までやってきたことを徹底しろ! ミスが多かったら負けるぞ!」と、時に厳しい指導も響く。選手たちは食いしばり、全力でそれに応える。



こういった基礎練習に象徴されるように、リバウンドやルーズボールなどの球際の争い、素早いトランジションを展開するための走りは、今年の仙台大明成の生命線だ。決して高さや、留学生のような身体能力があるわけではない。それでもインターハイで3位入賞が果たせたのは、下級生の頃から経験を積んできた3年生を中心に、こうしたひたむきで泥臭いプレーを遺憾なく発揮したからだった。

畠山コーチが、練習を止めて選手たちに声をかける。

「能力を出そう、と言っているんじゃない。うちはそういうチームではない。今までやってきたこと、やるべきことを徹底しようと言っているんだ」

さらなる進化を目指した秋からの取り組み

夏のインターハイ後、3位という結果に満足せず、チームをさらに進化させるための取り組みが始まった。「まずはチームの底上げ」と、下級生も積極的に試合に起用しながら、経験を積ませた。



その中で、夏はゾーンディフェンス主体で戦っていたが、秋からはマンツーマンディフェンス主体で戦うようになった。それはディフェンスの引き出しを増やす意味もあったが、自分たちの持ち味をさらに追求するためでもあった。畠山コーチは言う。
「夏はまだベンチの戦力も足りなかったので、ごまかしてゾーンを使う場面が多かった。でも、1年生も力を付けてきて少しずつ戦力が増えてきているので、もっと思い切ってディフェンスを仕掛けられるなと。(ゾーンディフェンスで)相手を休ませる必要はないんじゃないか、と思ったんです。うちのスタイルは40分間、相手が折れるか自分たちが先に折れるか、という我慢比べですから。だからこそ、マンツーマンの時間帯を増やせるように取り組んできました」



加えて、8月末の台湾遠征やU18日清食品トップリーグで畠山コーチが思い切って方針を立てたのは、試合中にあえてタイムアウトを取らず、指示も最小限にとどめることだった。苦しい時間帯を自分たちで乗り越えられるよう、特に3年生に「精神的な安定」を求めたのだ。

そうした取り組みの中、指示待ちになることなく選手たちが自分たちで流れを捉え、コート内での会話が増えてきたのは確かだ。ただ、畠山コーチは「僕が思ってるほど、まだ大人にはなり切れていないと思います」と満足はしていない。



「やっぱり崩れやすいし、自分たちが悪い流れのときになかなか立て直せないことが多いです。“おごり”というか、『自分たちはいつでもできるんだ』というスタンスでいたら負ける。悪い流れをいかに早く断ち切るか、自分の悪いところを出さずに我慢するとか、今までやってきたことを辛抱強くやり続けることが課題」

そうした課題を露呈したのが、U18日清食品トップリーグで敗れた東山戦、福岡第一戦、福岡大附大濠戦だったと言えるだろう。「力のある相手に対して、自分たちのほころびが出た」と畠山コーチ。ただ、これらの敗北はチームにとって非常に大きな意味があったとも言う。

「インターハイはほかのチームがまだ不安定な中、ある程度の勢いやラッキーで勝ち上がった部分がありました。ただ、そうなるとメディアなど周りからの目が変わります。うちの選手たちは勝ったことのない世代で、しかも高校生ですから、変に勘違いしてしまったところもあって。でも、U18日清食品トップリーグを戦わせてもらい、負けパターンが出たことで、『やっぱり自分たちは足元を見つめて、謙虚にやっていかなければいけない』『まだまだやるべきことがいっぱいあるんだ』と、選手たちが身をもって気付くいい機会になったと思います」



インターハイの結果は過去のもの。U18日清食品トップリーグでの3敗を通して、改めて自分たちがどう戦わなければいけないのか方向性を固めることができた。あとは残りの期間で、いかにそれを徹底し、辛抱強さや我慢強さを身に付けて精神的に自立できるかどうかが、冬の戦いのカギとなるだろう。自身もウインターカップ優勝を経験している畠山コーチだからこそ、「日本一に必要なものは、自分たちを信じて5試合やり抜く精神的強さ」と言う言葉には重みがある。

佐藤コーチが亡くなった2023年の途中から指導を引き継ぎ、今年で3年目になる畠山コーチ。「僕が母校に戻ってきてから、ずっと求めてきたのが“明成らしさ”。高校生としてのあるべき姿だったり、1つのことに対してどう全員で向き合っていくか、という高校スポーツの醍醐味みたいなものを、毎日口うるさくずっと言い続けてきました」と言う。佐藤久夫コーチは生前、「バスケットボールは人生のレッスンの場」と言い、技術以前に人間性の成長を求めてきた。そうした地道な心の成長の上に体の強さや技術が付いてきて、“冬の明成”といわれる強さが生まれるのだ。

畠山コーチは「今の3年生は、久夫先生が亡くなっても、覚悟を持ってチームに残ってくれた選手たち。彼らと少しでもいい結果を出したいです。3年生はまだまだ至らないことばかりだけれど、絆というか、まとまる力はすごく良いものを持っている。そこを良い方向に持っていければ、自ずと道は開けてくるんじゃないかなと思います」と、冬に懸ける思いを語ってくれた。

取材・文/中村麻衣子 写真/山岡邦彦

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