月刊バスケットボール12月号

大学

2025.12.12

応援席からコートの主役に──日本経済大・今泉太陽が挑むインカレ準決勝「自分たちの120%の力をぶつけるだけ」

2021年のウインターカップ。当時・福岡第一高3年だった今泉太陽は、応援席で仲間たちの勇姿を見守った。

同大会、福岡第一高は佐藤涼成(広島ドラゴンフライズ/当時高3)や轟琉維(東海大/当時高2)を擁して3位入賞。インターハイはライバル福岡大附大濠高に敗れて不出場だったが、その夏まで今泉はシックススマンとしてチームに貢献していた。しかし、そこからメンバーを外れ、最後はベンチに座ることすら出来ずに高校バスケを終えた。

ベンチに入れなかった悔しさと、チームが優勝できなかった悔しさ──2つの悔しさを味わった冬から4年が経ち、彼は今、日本経済大のエースとして大学バスケの最高峰に挑んでいる。

関東勢連破、関西1位を撃破し
初のインカレベスト4へ


九州2位の日本経済大は12月5日の「第77回全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)」準々決勝で、関西1位の天理大を撃破し、チーム史上初のベスト4進出を決めた。2022年(第74回大会)から新設されたグループステージを突破しての4強入りは、彼らが初めてだ。

「(グループステージを突破して)トーナメントに入ってからは中央大と明治大と当たって、本当に一戦一戦やるしかない、次の日のことなんて考えられない、という相手との対戦でした。まずは中央大と明治大を倒すことを目標にやってきましたが、昨日、明治大に勝って『ここまで来たら今日も勝って優勝、日本一になるしかない』と。当初の目標は達成したんですけど、そこで気持ちを切り替えて、今は日本一目指して戦っています」

歓喜に包まれた天理大戦の直後から、一旦チームミーティングを経て冷静になった今泉は、穏やかな口調でこう話した。





トーナメントに入ってからの今泉の活躍は鮮烈だ。中央大戦では土壇場で同点に追いつくシュートをねじ込むなど23得点、6リバウンド。続く明治大戦では、最終盤に大濠高出身の針間大知から値千金のスティールを奪ってみせた。この試合は9得点にはとどまったが、関東勢連破における攻防にわたる今泉のクラッチプレーは、日本経済大の躍進と勢いを象徴するものとなった。

そして、準々決勝の天理大戦ではチーム最多18得点と、またもスコアリングでチームをけん引。関西リーグとインカレを合わせた今季の最多失点が71点だった天理大に対し、チームで72得点を挙げた中心には、彼がいた。

だが、今泉はあくまでもチームでの勝利であると強調する。「とにかくディフェンスでしっかり守ってリバウンドを取って速い展開で攻めるのがチームのスタイル。そこがうまくいったんじゃないかと思います。昨日(明治大戦)だったら、最後に大庭(涼太郎)とブバ(ボディアン・ブーバカー・ベノイット)がゲームを決めてくれて、今日だったら苦しい時間帯に小村(琉羅)や(組崎)マテウスが(オルワペルミ)ジェラマイアのところを粘り強く守ってくれて、つなげてくれたおかげで勝てたと思います。日経には良いものを持っている選手が多くて、試合ごとにヒーローが変わるので、相手からしたら厄介なんじゃないかなと思います」

ただ、今泉にしても、組崎にしても、小村にしても、高校時代は名のある選手ではなかった。それでも大学で力を付けてインカレのベスト4まで勝ち上がった。片桐章光監督はこんなリクルートの裏話をしてくれた。「高校のときに試合に出られなかった悔しさも、彼らのモチベーションになっていて、それが大学で生きているのかなと思います。そういう高校で悔しい思いをした子たちでうちのチームに合いそうな子たちを、スカウトするときに探しています」

このままでは終われない──そんな闘志を秘めた選手を探し、チームに迎え入れる。なかでも、系列校の福岡第一高でプレーしていた今泉は、片桐監督が「高校1年生の頃から良いなと思っていた選手」だそう。「彼は沖縄のコザ中出身で、ハーパー(ジャンローレンスハーパージュニア)の 1個下の後輩。でも、高校1年の終わりか 2年ぐらいで前十字じん帯を切って出られない時期があったんです。それでもずっと追いかけていました。高校の最後はメンバー外になりましたけど、大学4年間でまた成長したと思います」

今大会についても「実は彼は高校で1回、大学でも1回、両膝とも前十字じん帯を切っているんです。もともと彼は大学1年生の頃から使ってきたキーマンで、あの子が頑張らないと今年のチームは…という選手です」と、その活躍に絶大な信頼を寄せていた。


負けたくない→チームを勝たせる
経験が変化させたモチベーション


冒頭で記したとおり、今泉の高校バスケは応援席に座ったまま終わりを迎えた。それは大学でもバスケに打ち込む確かなモチベーションとなっている。今泉は言う。

「高校生のときは全国大会とか、試合に出たことなくて、応援席から今試合に出ている同級生の活躍を見ていた側なので、大学に入って全国大会に出られる機会があったときには、高校で悔しい思いをした分、『やってやろう』『負けたくない』という気持ちでいつもぶつかっていました」

ただ、経験を重ねるごとにそのマインドも変化していった。片桐監督は選手に経験や自信を植え付けるために「早い段階で試合に絡めること」を意識している。現在、福岡県の成年国体の監督も務めている同氏は、今泉や組崎を国体メンバーに入れ、より高いレベルを経験させた。

日本経済大でも今泉を1年時から主軸として積極的に試合に登用し、それが彼の経験と自信になった。

すると、「1年生の頃はそういう(負けたくない)マインドでやっていましたけど、今はチームを勝たせる選手になれればいいなという気持ちです。2年生の頃にはスタートで使ってもらっていて、チームとしても関東の大学を倒すという目標を掲げていました。そのくらいの時期から自分の実力を証明するとかじゃなくて、関東を相手にチームを勝たせなければという気持ちになりました」と、モチベーションは自然と変化した。



ベンチや応援席も含めたチームの雰囲気は、今大会の試合中に「レフェリーの方から『日経、良いチームだね』と言われた」(片桐監督)ほどの一体感を生んでいる。

それも、今泉のように自らの実力を証明せんとして大学に入学した選手たちがモチベーションを変化させ、チームを第一に考えながらカルチャーを育んできたからだ。今泉は今大会の好調の要因について、「個人としてもチームとしても、うまくいかないときにどういう立ち居振る舞いや声掛けをしていくかを本当に意識して話してきました。今日の天理戦でも、途中で相手に流れを持っていかれそうになったときもベンチで集まって、『絶対に崩れないから大丈夫』という声掛けをみんなでし合っていました。その結果が、自分たちの流れに持っていけたプレーにつながったと思います」と言い切った。

「ここまで来たらもう、失うものは本当にないです。来週(準決勝)の相手は早稲田なので、自分たちの120%の力をぶつけるだけだと思います」

日本経済大の、そして今泉の冬は、まだ終わらない。



文・写真/堀内涼(月刊バスケットボール)

PICK UP