月刊バスケットボール12月号

NBA

2025.12.05

八村塁がキャリア初のゲームウィナー3P「最高の気分でした」

「ボールが来ると分かっていた」、ラストショットの舞台裏


現地12月4日、ロサンゼルス・レイカーズは敵地でトロント・ラプターズと対戦し、123-120で劇的な勝利を収めた。試合を決めたのは、ルカ・ドンチッチ不在の穴を埋めるように躍動した八村塁のブザービーター3Pシュートだった。

レイカーズは前半を67-58とリードして折り返したものの、後半に入ると流れを失う。スコッティ・バーンズやブランドン・イングラムを中心にラプターズが反撃し、3Qには逆転を許す時間帯もあった。それでもオースティン・リーブスが3Qだけで22得点を挙げる爆発でチームをつなぐと、試合は4Q終盤まで一進一退の攻防となった。残り23秒、120-120の同点で迎えたラプターズのオフェンスでは、イングラムがトップからドライブを仕掛けたが、レイカーズのディアンドレ・エイトンが好ディフェンス。残り21秒、最後のチャンスがレイカーズに回ってきた。

ボールを託されたリーブスは、右からエントリー。ラプターズに対応されると、トップのレブロン・ジェームズに展開する。そのジェームズはドリブルを突いて右エルボーに動くと、左コーナーでオープンとなっていた八村へパス。即座に放たれた3Pシュートは、残り時間がゼロになる瞬間にリングに吸い込まれ、敵地スコシアバンク・アリーナは静まり返った。この試合で12得点をマークした八村だが4Qで唯一決めたシュートが、劇的ゲームウィナーとなった。

試合後の会見で、八村は決勝弾の裏側についてこう振り返っている。
 「タイムアウトの時でした。ブロン(レブロン)が『お前のところに行くぞ、準備しておけ』と言ったんです。本当に最後のシュート、最後のポゼッションでした。相手がAR(リーブス)に対してダブルチームを仕掛けようとしているのが見えました。サインが出ていて、ボールが自分のところに来ると分かっていたから準備をしていました。ブロンが僕に良いパスをくれたから、ただシュートを打つだけでした」

また、キャリア初となるゲームウィナーについて聞かれた八村は「クレイジーな気分ですね。あんなブザービーターは経験したことがありません。全てのバスケ選手の夢のようなシチュエーションですから、最高の気分でした」と答えている。シュートを決めた直後、チームメイトからの祝福でもみくちゃにされた八村は「何をされていたのか分かりません(笑)。ただ皆から逃げようとしていただけです。楽しかったですね」




レブロンは記録より「正しいプレー」を選んだ


この試合でジェームズはFG4/17とシュートタッチに苦しみ、わずか8得点に。これで2007年1月5日以来続いてきた「レギュラーシーズン連続2桁得点」のNBA記録は、1,297試合でストップした。八村が決めたラストショットの局面で自ら決めにいけば、その記録は保たれたかもしれない。それでも、ジェームズは予告どおり八村へのパスを選んだ。その選択について、J.J.レディックHCが称える。
「レブロンは自分が何点取っていたかは、痛いほど認識しています。彼のキャリアで何度も見てきたように、彼は正しいプレーを選択しました。キャリアの初期には、正しいプレーをして、チームメイトが決勝シュートを打ったことで嘲笑されたりもしましたが、彼はこれまで何度もやってきたように、今回も正しいプレーをしました。そして、塁の手からボールが離れた瞬間に、入ったと確信しましたよ。本当にビッグプレーでした」

続けて指揮官は、「ロッカールームでも話していました。正しいやり方をすれば、バスケットボールの神様は報いてくれる傾向にあるんだとね」とも語っている。八村もまた、ジェームズへの敬意を隠さない。
「彼はただ正しいプレーをするだけです。キャリアを通じてずっとそうしてきましたし、決して無理強いはしません。4Q残り2分でレイアップを決めましたが、記録を失う。何かを諦めるというのは、もちろん考えていたでしょう。クレイジーなことですよね。2007年から続いているなんて、正気じゃないですよ。彼がいつからやっているのか分かりませんが、誰にも破られない記録だと思います。彼はそれを諦めて、何か(勝利)を得たわけです。文字どおり、バスケの神様ですね。ここでは皆が彼を愛しています。彼が試合に入ってくるときの全ての振る舞いを含めて、皆彼を愛しています。素晴らしい勝利でした」

自身の偉大な記録が終わることを受け入れながらも、「勝つために最善のパス」を選んだジェームズと応えて決め切った八村。その関係性こそが、レディックHCのいう“バスケの神様”が報いてくれたワンプレーだった。

レディックHCは会見の中で、就任前から八村のシュート力に注目していたとも言及している。
「彼は2023-24シーズンを終えて、キャリア最高の3ポイント成功率を記録していました。彼が本当に『レーザー(シュートが正確な選手)』なのかどうか、いくつか疑問符がついていましたが、レーザーだと分かりました。彼が足をセットして、足元が決まれば、シュートは入ると強く信じています」
この日の決勝弾は、まさにその評価を裏づけるような1本だった。

ルカ・ドンチッチやマーカス・スマートらを欠く中のロードゲームで勝利できたことは大きい。八村はチームの現在地について、こう語っている。
 「誰かがステップアップしなければなりません。特に僕らスターティングラインナップは全員が得点できると分かっています。でも、何よりも僕らのケミストリーだと思います。JJ(レディックHC)が良い仕事をしてくれていて、いつもケミストリーについて、チームとしてどうプレーするかについて話しています。誰がコートに立っていようと関係なく、僕らは団結して互いのためにプレーするだけです。そうすれば、どんな時でも勝利を手にすることができると思います」







文/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)

タグ: 八村塁

PICK UP