月刊バスケットボール11月号

Bリーグ

2025.10.14

「今のメンバーが大好き。彼らのためにプレーしている」アイザック・フォトゥのブレックス愛

B1リーグ2025-26シーズンは、全クラブが4試合を戦い終えた時点で、無敗クラブが宇都宮ブレックスと千葉ジェッツのみという、混戦を予感させられる立ち上がりとなっている。

10月11日、宇都宮は日環アリーナ栃木にて今季のホーム開幕戦を迎えた。相手は岡田侑大やニック・ケイ、コティ・クラークら実力者がそろう島根スサノオマジックだったが、後半に突き放した宇都宮が101-81の快勝を収め、ホーム初戦を白星発進した。

3年前の「良くない記憶」を払拭する
リングセレモニー後の勝利


試合前に行われたチャンピオンリングセレモニーには、昨季限りで引退した村岸航も訪れ、その後は試合の様子を見守った。前回優勝した2022年は、翌シーズンのホーム開幕戦でアルバルク東京に敗れていただけに、この勝利はクラブにとって大きな意味を持つものでもあった。

「前回のリングセレモニー後の試合はあまり良くない記憶として残っています。いつだってリングナイトの試合は勝ちたいですから。自分の中でそれはずっと頭の片隅にあって、だからこそ、今日はブレックス・ネーションにとって、そしてチームにとって最高の日にしたいと思っていました。リングを受け取って、試合にも勝つことを実現したかったんです。その気持ちがずっとあって、あのアルバルク東京との試合もよく覚えています。しっかりエネルギーを持って試合に臨み、リングナイトで勝利したいという思いでプレーしました」





こう力を込めたのは、アイザック・フォトゥ。在籍5シーズン目を迎えたビッグマンは、この試合で得意のフックシュートや3Pシュートに加え、トランジションでも存在感を放ち、Bリーグキャリア3番目のハイスコアとなる26得点。4Q残り4分41秒を残してお役御免となってベンチに戻ってからも、笑顔でチームメイトを鼓舞し続けた。しかも、この日は昨季キャリアハイの30得点をマークしたときと同様に、大黒柱のグラント・ジェレットを欠いており、フォトゥにはいつも以上のパフォーマンスが求められていた。こうした背景を踏まえると、この試合は彼にとって渾身のホームオープナーだったといえるだろう。

ちなみに、彼らがホームで100得点を超えるのは昨季1月11日の秋田ノーザンハピネッツ戦(101得点)以来で、その翌日のゲーム2がフォトゥが30得点を記録した日だった。

宇都宮はBリーグの開幕節で、アウェイでA東京に連勝した後、東アジアスーパーリーグ(EASL)の開幕戦でもアウェイゲームを戦った。台湾の台北富邦ブレーブスとの対戦は延長戦の末に107-109の惜敗。1敗という結果以上にダメージの大きな試合となったはずだが、その影響を微塵も感じさせないパフォーマンスをチームとして継続した。

Bリーグの昨季終了後にバスケットボール・チャンピオンズリーグ・アジアを戦い、今季も9月にFIBAインターコンチネンタルカップに出場と、他クラブよりもシーズンの終わりが遅く、始まりが早かった。加えて、今季の彼らは昨季チャンピオンシップで優勝の切り札となった、オールコートのディフェンスをレギュラーシーズンから採用し、運動量も増している。しかもベテランぞろいのロスターであることで周囲は体力面を懸念した。ただ、島根との2試合は王者の貫禄すら感じる盤石の戦いぶりで疲労の色も感じられなかった。


プレーを楽しむことが好調の原動力に


フォトゥは好調なコンディションを保てている理由について、こう答えた。

「ベストシェイプでシーズンに臨むための大きな課題がオフシーズンの過ごし方でした。そのおかげで、プレシーズンで体を作るのに時間を使わずに済んで、すぐに試合に臨める準備ができていました。それに、コーチ陣も各試合に必要な情報をしっかり提供してくれて、本当に準備万端で臨めています」

インターコンチネンタルカップには出場しなかったものの、シーズン開幕2日前に行われた公開練習では笑顔でプレーする姿が印象的だったフォトゥ。ジーコ・コロネルHCも「プレシーズン初日から良いコンディションで戻ってこられそうだと感じていました」とフォトゥの調子の良さを感じており、加えて「今まであまりやったことのなかったプレーにも挑戦して、突然新しいプレーを見せてくれる場面もありました。それを見られるのは本当にすばらしいことで、システムをより理解して、どんな選択肢があるか分かってきたんだなと感じました」と、彼のステップアップも実感していた。

「自分にとって大事なのは、自信を持ってプレーすること。シーズンの始めの目標のひとつとして、ブレックス・ネーションの前で楽しんでプレーすることを掲げていました。だって、これからあと何試合プレーできるか分かりませんから。自分にとってはチームメイトと一緒に試合を楽しむことが大切です。今のメンバーが大好きですし、彼らのためにプレーしています」

フォトゥはこう話し、ブレックスという組織のすばらしさをこう表現した。

「まずは昨季と同じメンバーをそろえられたことは僕らにとって大きなことです。全員が同じ方向を向いてプレーできていて、お互いのプレースタイルもよく理解しています。そして、僕たちはみんなで一緒にプレーするのが本当に楽しいんです。コート外でも良い友人関係を築けていますし、その雰囲気がコートでも表れています。例えば、誰かが3Pシュート決めたときに、チーム全員が心から喜んでいるのが分かります。こうした姿勢が、ここまでチームが成功してきた大きな理由の一つだと思いますし、これからもこのスタイルを続けていくつもりです」

島根とのゲーム1ではフォトゥが2本目の3Pを沈めてオフィシャルタイムアウトに突入したとき、ベンチの全員が彼の元に駆け寄り、ハイファイブを見せた。その光景はあるいはフォトゥ以上にチームメイトがその3Pを喜んでいるようにすら映った。これが彼の言う成功の大きな要因なのだろう。



この試合では、フォトゥのほかにベテランの遠藤裕亮や鵤誠司も躍動し、20歳コンビの星川開聖と石川裕大もそれぞれ3Pを決め切った。島根とのゲーム2を含めて、これで4戦中3戦で全員出場を達成。過去2度の優勝翌年のシーズンはいずれも苦しんだが、今季は好調な滑り出しといっていいだろう。

ゲーム2にも快勝した宇都宮。フォトゥの、そしてチームメイトたちの笑顔に陰りが見えないうちは、彼らの勢いは続きそうだ。



文・写真/堀内涼(月刊バスケットボール)

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