月刊バスケットボール11月号

Bリーグ

2025.10.01

千葉ジェッツの池内勇太GMが西村文男と歩むラストシーズン「優勝して、笑って文男さんを胴上げして終えたい」

2026-27シーズンからのB.革新を前に、リーグ10周年やドラフト実施など、多方面で話題を集めるBリーグだが、その節目にキャリアの幕を閉じる選手もいる。千葉ジェッツの西村文男はその一人である。

中学時代は地元・三重県の創徳中で全中決勝まで勝ち上がり、高校は福井の名門・北陸高へ進学。高校3年時にはインターハイとウインターカップでそれぞれ準優勝を果たし、東海大でも主軸となって4年時にはキャプテンも任された。卒業後は日立サンロッカーズ(現サンロッカーズ渋谷)で新人王に輝き、日本代表にも選出された。千葉Jに加入したのは当時NBL所属だった2014-15シーズン。以降11シーズンにわたってプレーし、今季で在籍12シーズン目。これはクラブの歴史上最長の在籍年数だ。

9月12日に行われた記者会見で、西村はBリーグの体制変更による一つの節目が、引退を決断する理由になったのかについて「大きくは関係ない」としつつ、「オン・ザ・コートフリーの中でやっていくのは難しいかなと思った」と率直な思いを語っていた。

これより深い引退の経緯やシーズン中、シーズン後の興行などについては割愛するとして、ここでは西村と池内勇太GMの関係性にスポットを当てていきたい。


池内GMの西村への絶大な信頼
「彼の存在そのものが千葉ジェッツ」

同記者会見には西村、池内GM、田村征也社長の3名が登壇したが、特に池内GMは西村に対する強い思いを持っていた。冒頭で挨拶を求められた際には約3分間にわたって、以下のように西村への思いを語った。

「契約更新の時期になると、『まだやれる』という話をいつもしていました。今年4月に2人で食事に行ったときに、僕は『来季(2025-26シーズン)も頑張りましょう』という話をしようと思っていて、その話もしました。その中で彼から『2025-26シーズンで引退をする』という話があって、そこで決まったと思っています。今日この日を迎えるにあたって、なかなか…イメージが付いていないところもあるんですけど。西村選手がいる千葉ジェッツが僕にとっては当たり前というか、いない世界観が想像がつかないところがあって正直、さみしいなぁという気持ち、これからどうなっていくんだろうという思いがあります。ただ、バスケットボールに関わる者として、このすばらしい選手の節目に立ち会えることが本当に幸せだと思っています。

ここからは余談になるんですけど、僕は千葉ジェッツに来る前から、もともと西村選手が大好きで、実は(全所属のクラブで)オファーを出したこともあるんです。そんな話を西村選手ともしていたんですけど、それくらい大好きな選手。やっぱりリーグを見ていてもこれだけバスケセンスにあふれている…彼にはよく『天才』って言っているんですけど、こんな選手はなかなかいないと思っています。そんな選手とこうやって一緒に仕事ができていることにも幸せを感じています。昨シーズン、千葉ジェッツはタイトルを取れずに無冠のシーズンとなりました。今回、西村選手が引退を決断したこともあって、必ず優勝しなければならない条件がそろったのかなと思います。僕は、最後に彼をみんなで胴上げしなければいけないと思っていて、本人ともそんなことを話していました。悲しさもありますが、この節目のタイミングでいろいろなことを話せることに幸せを感じながら、1年をかけて西村選手と共に良いチームにしていければと思っています」

この挨拶だけを読んでも、池内GMがいかに西村を信頼し、チームの中心に据えて共に歩んできたのかが伝わってくるはずだ。

当然ながら、会見中は西村に質問が集中した。その中で池内GMにもいくつかの質問が及んだが、中でも西村のプレースタイルに対するコメントが非常に印象的だった。池内GMは「最初の印象は点取り屋というか、どちらかというと富樫(勇樹)選手に近いようなイメージだった」と前置きし、その富樫の存在によってプレースタイルを変えた西村をこう評価した。

「ジェッツに来て、彼は途中でプレースタイルを変えているんですね。それで僕は彼のことをさらに好きになりました。チームのエースに富樫選手がいて、それに対して西村選手は自分の役割をしっかりと全うして、富樫選手が不調なときに彼が入って、しっかりとトーンセットをしてチームを勝たせてくれました。富樫選手とは違う、西村選手のプレースタイルのおかげでジェッツはここまで強くなったと思っています。なかなか自分の得意とするスタイルを変えられる選手って、僕はいないと思うんです。それを簡単にやってしまうセンスの高さ、スキルの高さは本当にすばらしいなと思っています」



西村はその点について、「僕は客観的に自分のことを見られると思っています。あと、良い意味でバスケがそんなに大好きじゃないです(笑)。やりがいがあるからさせてもらっていて、好きよりもやりがいが高いとなったときに、客観的に見て自分よりも得点能力のあるポイントガードがいるのに、そこで張り合っても良い結果が出るわけがないと思えましたし、じゃあ分かりやすく真逆のことをやった方が結果が出しやすいんじゃないかと考えました。それがうまくハマったというか。自分のプレースタイルを変えることに抵抗もなかったし、なんならそっちの方がやりがいを感じる部分がありました」と持論を展開した。

池内GMが西村に惹かれたのは、まさにこうしたアンセルフィッシュで、ある意味でドライな部分なのだろう。

約1時間にわたる会見で質問を受けるにつれて、池内GMはいつしか、西村の呼び方を「西村選手」から「文男さん」へと変えていた。いや、自然とそうなっていったのだろう。現在38歳の西村は、池内GMの2つ年上。普段から「何かチームでイベントなどをするときには、僕から声をかけて、『どう思いますか?』と聞いていたことが結構ありました」と言うほどコート外でも信頼を置き、時にプライベートの交流もあったという。選手とGM以上の関係が2人の中では築かれていたというわけだ。

呼び方が変わるのと同じくして、徐々に目に光るものが浮かんだ池内GM。会見終盤には何度もハンカチで目頭を抑えるシーンが見られ、「やっぱり感情的になってしまいました」と会見後に本音を漏らした。

引退とは悲しくもあるが、同時に祝うべきものでもある。だからこそ、想いが強いからこそ、最後は西村を笑顔で送り出したい──池内GMはそう思っている。

「彼の貢献というのは何か一つでは片付けられないくらいのものだと思っています。彼がいることで千葉ジェッツはここまで大きく、強くなったと思いますし、彼の存在そのものが千葉ジェッツだと僕は思っています。だから、やっぱり最後は一番良い形で送り出したい。それが何かと言ったら優勝しかないと思っています。昨シーズンはケガ人が多かったりと悔しい思いをしたので、今度は優勝して、笑って文男さんを胴上げして終えたい」

西村と池内GMが挑む文字どおりのラストシーズンが、まもなく幕を開ける。



写真/B.LEAGUE、月刊バスケットボール 文/堀内涼(月刊バスケットボール)

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